
0 はじめに
令和2年4月の民法改正により「契約不適合責任」が導入されました。
この改正により、売買契約や請負契約において、契約内容に適合しない場合の対応が明確化されました。
本記事では、契約不適合責任の概要、施工不良に基づく損害賠償請求の方法、免責特約の有効性などについて解説します。
1 契約不適合責任とは?
契約不適合責任とは、売買契約や請負契約において、引き渡された物が種類・品質・数量のいずれかで契約内容に適合しない場合に、売主や請負人が負う責任を指します。
この責任に基づき、以下の請求が可能です。
履行の追完請求:不足分の引渡しや修補を求める。
代金減額請求:契約代金の減額を求める。
損害賠償請求:不適合による損害の賠償を求める。
契約解除:契約を解除し、損害賠償を請求する。
ただし契約解除は、上記の方法では契約の目的を達成できない場合に限定されます。
これらの請求は、契約不適合が売主や請負人の責任である場合に可能です。
2 施工不良とは
施工不良とは、建物の仕様や性能が契約内容や法令に適合していない状態を指します。
主に以下の3つのパターンに分類されます。
契約内容に反する施工
例:指定した部材より質の劣る部材を使用、棚板の数が不足する等。
法令違反
例:耐震基準を満たしていない、防火地域で耐火建築物の基準を満たしていない等。
施工水準の不足
例:外壁の塗装にムラがある、クロスが皺だらけ等。
これらの施工不良が発覚した場合、施主は施工業者に対して契約不適合責任を追及することができます。
3 契約不適合責任に基づく損害賠償の要件
損害賠償請求が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
契約不適合の存在
種類、品質、数量が契約内容に適合していないこと。
帰責事由
契約不適合が売主や請負人の責任であること。
例えば、地震など不可抗力による不適合は責任を問えない場合があります。
権利行使期間の制限
不適合を知った時から1年以内に通知しなければ、損害賠償請求権を失います(契約でこの期間を短縮したり延ばしたりすることもできます)。
ただし、売主や請負人が不適合を知っていた場合はこの限りではありません。
4 施工不良に対する損害賠償請求の方法
損害賠償請求の方法について
損害賠償請求を行う際には、適切な手順を踏むことが重要です。
・直接協議による解決
まずは、相手方と直接話し合いを行い、損害賠償について協議します。
この段階では、以下の点を意識することが重要です。
損害の内容を明確化する
損害の発生状況や金額を具体的に説明できるよう、証拠を準備します。
契約書、不適合箇所の写真、修理費用の見積書などが有効です。
冷静な交渉を心がける
感情的にならず、事実に基づいて交渉を進めることが重要です。
相手方が誠実に対応する場合、この段階で解決することも少なくありません。
示談書の作成
合意に至った場合は、示談書を作成し、双方が署名・押印することで、後のトラブルを防ぎます。
・内容証明郵便の送付
直接協議で解決しない場合、次のステップとして「内容証明郵便」を送付します。
相手方に正式な請求を通知する手段であり、法的な証拠としても利用できます。
内容証明郵便の記載内容
損害の発生状況
賠償を求める金額
支払い期限
支払いがない場合の法的措置の可能性
送付の目的
相手方に正式な請求を通知し、誠実な対応を促すことが目的です。
この段階で解決するケースも多くあります。
・民事調停の利用
内容証明郵便を送付しても解決しない場合、裁判所での「民事調停」を検討します。
これは、裁判所が仲介役となり、双方の合意を目指す手続きです。
調停の特徴
裁判よりも迅速かつ低コストで進められる。
調停委員が中立の立場で解決案を提示する。
必要な準備
損害の証拠資料(契約書、写真、見積書など)
調停申立書の作成
調停で合意に至れば、調停調書が作成され、これには判決と同じ効力があります。
・建築工事紛争審査会の利用
建築関連の損害賠償請求の場合、「建築工事紛争審査会」を利用することも有効です。
この審査会は、建築紛争に特化した専門機関であり、あっせん・調停・仲裁を通じて解決を図ります。
利用のメリット
建築に関する専門知識を持つ審査員が対応する。
技術的な観点からも適切な解決策が提示される。
手続きの流れ
申立書を提出し、審査会での話し合いを進めます。
調停や仲裁で合意に至れば、法的拘束力のある合意書が作成されます。
・訴訟による解決
調停や審査会でも解決しない場合、最終手段として裁判所に訴訟を提起します。
訴訟では、裁判官が証拠や主張を基に判決を下します。
訴訟のポイント
証拠の重要性
契約書、不適合箇所の写真、修理費用の見積書など、確固たる証拠を提出する必要があります。
弁護士のサポート
訴訟は専門的な知識が求められるため、弁護士に依頼することで、より有利に進めることが可能です。
訴訟の流れ
訴状の提出
相手方の答弁書提出
証拠の提出・審理
判決(和解)
もっとも、訴訟は時間と費用がかかるため、他の手段で解決できない場合に選択するのが一般的です。
・弁護士への相談
損害賠償請求を進める際には、早期に弁護士に相談することが推奨されます。
弁護士は、以下の点でサポートを提供します。
法的アドバイス
請求の可否や適切な賠償額について助言します。
交渉の代理
相手方との交渉を代行し、適切な解決を目指します。
訴訟対応
訴訟において、証拠の収集や主張の立証を行います。
・損害賠償の方法のまとめ
損害賠償請求は、直接協議から始まり、内容証明郵便、調停、審査会、訴訟といった段階を経て進められます。
各段階で適切な対応を行うことで、迅速かつ円満な解決が期待できます。
また、専門的な知識が求められる場面も多いため、弁護士のサポートを受けることが成功への鍵とな
ります。
損害賠償請求を検討している場合は、早めに専門家に相談することをお勧めします。
5 免責特約の有効性
施工業者が免責特約を主張する場合、その有効性は以下の法令に基づき判断されます。
品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)
新築住宅の構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分等については、引渡しから10年間の瑕疵担保責任を負い、合意によっても免責できないとされています。
民法の契約不適合責任
任意規定であるため、特約による排除が可能です。
ただし、売主や請負業者が契約不適合性を知っている場合は無効です。
また、宅建業者が売主の場合は免責特約が無効であるうえ、最低2年間は免責されません。
消費者契約法
一般消費者が注文主の場合、全部免責規定は無効です。
一部免責規定は有効となる場合もありますが、全部免責規定と同様の規定と判断される
場合は無効となることもあります。
6 損害賠償額の範囲
損害賠償額の範囲は、民法第416条に基づき、「通常損害」と「特別損害」に分けて考えられます。
これらの範囲を正確に理解することは、損害賠償請求を行う上で重要です。
通常損害
通常損害とは、債務不履行や不法行為が発生した場合に、一般的に予測可能な範囲内で生じる損害を指します。
たとえば、契約違反による納品遅延で発生した追加費用や、交通事故による修理費用などが該当します。
この範囲の損害は、加害者が予見可能であるか否かにかかわらず、賠償の対象となります。
特別損害
特別損害は、通常損害を超えた範囲で、特定の事情に基づいて発生する損害を指します。
これが賠償の対象となるためには、加害者がその特別な事情を予見していた、または予見可能であったことが必要です。
たとえば、契約違反によって特定のプロジェクトが中止となり、逸失利益が発生した
場合などが該当します。
財産的損害と精神的損害
損害はさらに、財産的損害と精神的損害に分類されます。
財産的損害
実際に発生した費用や、将来的に得られるはずだった利益(逸失利益)を含みます。
たとえば、修理費用や医療費、営業損害などが該当します。
精神的損害
被害者が受けた精神的苦痛に対する賠償であり、慰謝料として請求されます。
たとえば、不法行為による名誉毀損や精神的苦痛がこれに該当します.
過失相殺と損益相殺
損害賠償額を決定する際には、被害者側の過失が考慮される「過失相殺」や、被害者が同じ原因で得た利益を控除する「損益相殺」が適用され、賠償額が減額されることがあります。
損害賠償額の範囲を正確に把握し、適切な請求を行うためには、契約内容や発生した損害の詳細を十分に検討することが重要です。
7 まとめ
契約不適合責任や施工不良に基づく損害賠償請求は、法的知識と適切な対応が求められる複雑な問題です。
特に、時効や免責特約の有効性など、専門的な判断が必要な場面も多くあります。
施工不良が発覚した場合は、早期に弁護士に相談し、適切な対応を進めることが重要です。
弁護士は、契約書や設計書、施工不良の証拠写真などを基に、最適な解決策を提案します。
トラブルを未然に防ぐためにも、契約締結時に内容を十分に確認し、必要に応じて専門家の助言を受けることをお勧めします。
Last Updated on 3月 4, 2025 by kigyo-lybralaw
事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。 |