
1. 労働審判で不当解雇を主張された場合、会社が最初にすべきこと
労働審判は年間約3,500件もの申立てがある、労働紛争解決の重要な制度です。元従業員から「不当解雇」を理由に労働審判を申し立てられた場合、会社側は迅速かつ的確な対応を求められます。まず理解すべきは、労働審判における時間の重要性と、会社が直面する具体的なリスクです。
企業が直面するリスクと早急な対応の必要性
労働審判で不当解雇を主張された企業が直面するリスクは、単なる金銭的負担だけではありません。
バックペイという重大な金銭リスク
解雇が無効と判断された場合、会社は従業員に対して、解雇時点に遡って賃金(バックペイ)を支払わなければなりません。労働審判が長引けば、バックペイの金額は500万円や1000万円を超えることも頻繁にあります。特に、給与水準の高い従業員や管理職の場合、月額給与が50万円を超えることも珍しくなく、1年間の争いで600万円以上のバックペイが発生する計算になります。
慰謝料請求のリスク
不当解雇について慰謝料の支払いが命じられる場合、その金額は一般的には50万円~100万円程度とされることが多いです。ただし、解雇の態様が特に悪質な場合や、パワハラ・セクハラなどの不法行為が伴う場合には、150万円を超える慰謝料が認められることもあります。
企業の評判への影響
労働審判は非公開の手続きですが、紛争が長期化したり、訴訟に移行したりすると、企業の評判に影響を与える可能性があります。特に採用活動において、労使トラブルの存在は優秀な人材の確保を困難にする要因となりかねません。
労働審判の進行は想像以上にスピード重視
労働審判は原則として3回以内の期日で審理を終えることになっており、平均審理期間は81.7日であり、66.4%の事件が申立てから3か月以内に終了しています。この迅速性こそが労働審判制度の最大の特徴であり、同時に会社側にとって最も注意すべき点でもあります。
タイトなスケジュールの現実
- 第1回期日:申立てから原則40日以内
- 答弁書提出期限:第1回期日の7~10日前
- 実質的な準備期間:約1か月程度
この短期間で、会社は解雇の正当性を立証する全ての準備を完了させなければなりません。労働審判制度は「第1回期日で、概ね、解決案の内容が決まる」という、非常にスピーディーな手続きです。つまり、初回の準備が不十分だと、その後の挽回は極めて困難になるのです。
2. 会社側が確認すべき3つの重要ポイント
労働審判の申立書を受け取ったら、直ちに以下の3つのポイントを確認し、自社の立場を客観的に評価する必要があります。
解雇理由に客観的・合理的な根拠はあるか?
解雇の有効性は、労働契約法第16条に基づいて判断されます。「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両方を満たさなければ、解雇は無効となります。
普通解雇の場合に確認すべき事項
- 能力不足:単に「仕事ができない」では不十分。具体的にどのような能力が不足し、それが雇用契約で求められる水準にどう達していないかを明確にする必要があります
- 勤務態度不良:遅刻・欠勤の回数、業務命令違反の具体的内容、他の従業員への悪影響などを数値や事実で示せるか
- 協調性欠如:チームワークを乱した具体的なエピソード、改善指導の記録があるか
懲戒解雇の場合の留意点
就業規則に定められた懲戒事由に該当することはもちろん、その行為の重大性と解雇という処分のバランスが取れているかが問われます。過去の類似事案との均衡も重要な判断要素となります。
解雇手続きに問題はなかったか(就業規則・警告手順など)
解雇が許されるのは再三注意指導を繰り返し、軽度の懲戒処分(譴責・戒告)をし、重度の懲戒処分(降格・出勤停止)をする等プロセスを踏んだにもかかわらず、なお改善の余地がなかった場合に限られます。
手続き面でチェックすべき項目
- 段階的な指導・処分の実施
- 口頭注意から始まり、書面による警告、軽い懲戒処分、重い懲戒処分と段階を踏んだか
- 各段階で改善の機会を与えたか
- 指導内容は具体的で、改善すべき点が明確だったか
 
- 解雇予告の適正性
- 30日前の解雇予告または解雇予告手当の支払いを行ったか
- 解雇理由証明書を適切に交付したか
 
- 弁明の機会の付与
- 従業員に対して弁明の機会を与えたか
- 懲戒解雇の場合、懲戒委員会等での審議を経たか
 
証拠(書類・記録・メール等)は揃っているか?
労働審判では、主張を裏付ける証拠の有無が勝敗を分けます。以下のような証拠を速やかに収集・整理する必要があります。
必須の証拠書類
- 就業規則、雇用契約書
- 勤怠記録、タイムカード
- 業務日報、業務報告書
- 人事考課表、査定記録
- 指導記録、始末書、顛末書
- 警告書、懲戒処分通知書
- メール、チャット等のコミュニケーション記録
- 目撃者の陳述書
特に重要なのは、問題行動や指導の経過を示す「同時代的な記録」です。事後的に作成した書類は信用性が低く評価される傾向があります。
3. 労働審判に備えて弁護士と進めるべき準備
答弁書の作成と提出期限を守る重要性
答弁書を提出せず、第1回期日にも出席しなかった場合、従業員側の主張がそのまま認められてしまう恐れがあります。答弁書は単なる形式的な書面ではなく、会社側の主張を体系的に展開する最も重要な書面です。
効果的な答弁書作成のポイント
- 申立書への認否を明確に
- 申立書に記載された事実一つ一つに対し、「認める」「否認する」「不知」「争う」のいずれかを明示
- 否認する場合は、具体的な反論事実を提示
 
- 時系列での事実整理
- 採用から解雇に至るまでの経緯を時系列で整理
- 問題行動の発生日時、指導の実施日、改善状況などを具体的に記載
 
- 解雇の相当性の主張
- なぜ解雇以外の選択肢がなかったのかを論理的に説明
- 他の懲戒処分では不十分だった理由を明確化
 
答弁書で陥りやすい失敗例
- 感情的な表現や人格攻撃的な記載
- 証拠のない推測や憶測に基づく主張
- 論点がぼやけた冗長な記載
- 法的根拠のない独自の理論展開
提出する証拠の整理と弁護士のレビュー
証拠書類は、ただ提出すればよいというものではありません。労働審判委員会が短時間で理解できるよう、戦略的に選別・整理する必要があります。
証拠整理の実践的手法
- 重要度による分類
- コア証拠:解雇理由を直接立証する証拠(始末書、警告書等)
- 補強証拠:背景事情を説明する証拠(勤怠記録、メール等)
- 参考証拠:必要に応じて提出する証拠
 
- 証拠説明書の作成
- 各証拠が何を立証するものかを簡潔に説明
- 証拠間の関連性を明示
 
- 弁護士によるレビューの重要性
- 不利な証拠の取扱い方法の検討
- 証拠の信用性を高める補強資料の検討
- 提出タイミングの戦略的判断
 
期日に出席する社内担当者・体制の決め方
労働審判委員会からの質問に適切に回答しないと、心証が悪くなる場合があるため、期日に出頭する当事者(社長や管理職など)は、想定される質問や回答をあらかじめ整理しておくことが必要です。
出席者選定の基準
- 解雇の経緯を最もよく知る者(直属の上司、人事部門責任者等)
- 冷静に事実を説明できる者
- 感情的にならず、プロフェッショナルな対応ができる者
事前準備として行うべきこと
- 想定問答集の作成
- 「なぜ他の処分ではダメだったのか」
- 「改善の可能性はなかったのか」
- 「他の従業員との扱いの差はないか」
 
- 模擬審問の実施
- 弁護士による質問練習
- 答えにくい質問への対処法の習得
 
- 資料の読み込み
- 提出書類の内容を完全に把握
- 矛盾のない説明ができるよう準備
 
4. 弁護士視点で見る「初動対応でやってはいけない」ミス
労働審判において、初動のミスは致命的な結果を招きかねません。以下は、実際によく見られる失敗例とその対策です。
期限ギリギリの提出・内容の薄い主張
答弁書の提出期限は厳守すべき絶対的なものです。期限ギリギリの提出や、内容が不十分な答弁書は、労働審判委員会に「会社側に正当性がない」という印象を与えてしまいます。
よくある失敗パターン
- 「とりあえず何か出せばいい」という安易な考え
- 社内決裁に時間がかかり、実質的な検討時間が不足
- 証拠収集が間に合わず、主張だけの答弁書になる
対策
- 申立書を受け取った当日に弁護士に相談
- 社内の意思決定プロセスを簡略化
- 必要な証拠を日頃から整理・保管
準備不足による証言の不一致・信用失墜
複数の出席者の証言が食い違ったり、提出書類と口頭説明が矛盾したりすると、会社側の信用性は大きく損なわれます。
信用を失う典型例
- 上司と人事担当者で解雇理由の説明が異なる
- 答弁書と当日の説明に齟齬がある
- 「記憶にない」「わからない」を連発する
- 感情的になって冷静さを失う
信用性を保つための準備
- 事実関係の統一
- 関係者全員で事実認識を共有
- 曖昧な部分は事前に確認・整理
 
- 役割分担の明確化
- 誰が何を説明するか事前に決定
- 答えられない質問への対処法を決めておく
 
証拠の欠落や改ざんと誤解される行動
証拠の不適切な取り扱いは、たとえ悪意がなくても、隠蔽や改ざんと受け取られるリスクがあります。
絶対に避けるべき行為
- 事後的な日付での書類作成
- 都合の悪い部分だけを省略した証拠提出
- オリジナルでなく、編集された文書の提出
- 証拠の破棄や隠匿
適切な証拠管理
- 証拠は原本またはそれに準じる形で保管
- 編集が必要な場合は、その旨を明示
- 不利な証拠も含めて、誠実に対応
5. 労働審判で企業が損をしないために弁護士と行うべき対応
初動チェックリスト(理由・手続・証拠・人選・期限)
労働審判の申立書を受け取ったら、以下のチェックリストに従って迅速に行動することが重要です。
【24時間以内に行うこと】
□ 申立書の内容を正確に把握
□ 弁護士への相談アポイントメント
□ 社内の対応チーム編成
□ 関連部署への情報共有と証拠保全指示
【1週間以内に完了すべきこと】
□ 解雇理由の正当性評価 - 就業規則との整合性確認 - 過去の類似事例との比較 - 客観的合理性と社会的相当性の検証
□ 手続きの適正性確認 - 段階的指導の実施状況 - 弁明機会の付与記録 - 解雇予告の適正性
□ 証拠の収集と整理 - 人事関連書類一式 - 指導・懲戒記録 - メール・チャット履歴 - 関係者の陳述書案作成
□ 出席者の選定と準備 - 最適な出席者の人選 - スケジュール調整 - 事前打ち合わせ日程設定
□ 答弁書作成スケジュール - ドラフト作成期限設定 - 社内レビュー日程 - 最終提出日の確認
弁護士に早期相談することで対応の精度とスピードが上がる理由
労働審判において、弁護士の早期介入は決定的な差を生み出します。労働審判の調停または審判により解決した事件において事業者側から支払われた解決金の額の平均額は285万2637円という統計がありますが、適切な弁護士の支援により、この金額を大幅に減額できる可能性があります。
弁護士早期介入のメリット
- リスクの正確な評価
- 解雇の有効性について客観的な判断
- バックペイや慰謝料の予想額算定
- 和解による早期解決の可能性検討
 
- 戦略的な対応方針の策定
- 全面的に争うか、部分的に認めるかの判断
- 和解金額の妥当なラインの設定
- 訴訟移行も見据えた準備
 
- 効率的な準備作業
- 必要十分な証拠の選別
- 答弁書の的確な作成
- 想定問答の効果的な準備
 
- 交渉力の向上
- 法的根拠に基づく説得力のある主張
- 相手方弁護士との専門的な協議
- 労働審判委員会への効果的なプレゼンテーション
 
処理スピードの重要性
弁護士法人リブラ法律事務所の強みは、その「処理の早さ」にあります。労働審判の短い準備期間において、迅速な対応は極めて重要です。初回相談から答弁書作成まで、スピーディーかつ的確なサポートにより、以下のような成果を実現しています:
- 申立書受領から48時間以内の初回相談対応
- 1週間以内の答弁書ドラフト完成
- 証拠整理の効率的な進行管理
- 期日前の綿密な打ち合わせ実施
6. 当事務所のサポート内容
弁護士法人リブラ法律事務所は、労働審判における企業側の代理人として、豊富な実績と専門知識を有しています。不当解雇を主張する労働審判において、企業の正当な利益を守るため、以下のようなサポートを提供しています。
緊急対応体制
労働審判の申立てを受けた企業様に対し、迅速な初動対応を最重要課題として取り組んでいます。
- 24時間以内の相談対応:申立書受領の連絡をいただければ、原則として24時間以内に初回相談の時間を設定
- 48時間以内の方針決定:初回相談後、48時間以内に基本方針をご提案
- 1週間以内の答弁書案作成:ご依頼後1週間以内に答弁書の第一案を作成
包括的なサポート内容
1. 答弁書作成支援
- 申立書の詳細な分析と反論ポイントの抽出
- 法的根拠に基づく説得力のある主張の構築
- 証拠との整合性を確保した答弁書の作成
2. 証拠収集・整理
- 必要証拠のリストアップと収集指示
- 証拠の重要度評価と戦略的な選別
- 証拠説明書の作成
3. 期日対応
- 想定問答集の作成と事前練習
- 期日への同席と代理人としての発言
- 和解協議における交渉
4. 和解・解決サポート
- 現実的な解決ラインの設定
- 和解条項の検討と作成
- 将来の紛争予防策のアドバイス
バックペイ・慰謝料リスクの最小化
当事務所は、企業が負担する金銭的リスクを最小限に抑えることを重視しています。
バックペイ対策
解雇無効が争われ、労働裁判となる場合、長期化することが多く、バックペイの金額は500万円や1000万円を超えることも頻繁にあります。このようなリスクを踏まえ、以下の対策を実施します:
- 早期和解による支払期間の短縮
- 中間収入の適切な主張による控除
- 就労意思・能力の喪失に関する立証
慰謝料請求への対応
不当解雇と判断されたとしても、解雇が悪質なものでなければ、慰謝料の支払義務まではないと主張することは可能です。当事務所は:
- 慰謝料請求の要件該当性を厳格に検討
- 悪質性がないことの積極的な立証
- 仮に認められる場合でも減額交渉を実施
予防法務としての就業規則整備
労働審判を経験された企業様には、今後の紛争予防のため、以下のサポートも提供しています:
- 就業規則の見直しと改定
- 懲戒処分基準の明確化
- 人事評価制度の整備
- 問題社員対応マニュアルの作成
- 管理職向け研修の実施
ご相談から解決までの流れ
STEP 1:初回相談(申立書受領から24時間以内)
- 申立内容の分析
- リスク評価と見通しの説明
- 対応方針の協議
STEP 2:ご依頼・準備開始(相談から48時間以内)
- 委任契約の締結
- 証拠収集の開始
- 答弁書作成着手
STEP 3:答弁書提出(期限の3日前まで)
- 答弁書の最終確認
- 証拠書類の整理
- 裁判所への提出
STEP 4:第1回期日対応
- 事前打ち合わせ(2-3時間)
- 期日への同席
- 和解協議への対応
STEP 5:解決・フォローアップ
- 和解成立または審判
- 解決後の実務対応
- 再発防止策の実施
お問い合わせ
労働審判で不当解雇を主張された企業様は、一刻も早い対応が必要です。弁護士法人リブラ法律事務所は、処理スピードの速さを強みとし、企業様の緊急事態に迅速に対応いたします。
まずは、お電話またはメールにてご相談ください。労働審判の申立書を受け取られた場合は、その旨をお伝えいただければ、優先的に対応させていただきます。
企業の正当な権利を守り、不当な請求から会社を守ることが、私たちの使命です。豊富な実績と専門知識を活かし、最適な解決へと導きます。
まとめ
労働審判で不当解雇を主張された場合、企業は極めて短期間で的確な対応を求められます。原則として3回以内の期日で審理が終了し、平均審理期間は約80日という迅速な手続きの中で、解雇の正当性を立証しなければなりません。
初動対応の良否が結果を大きく左右することから、申立書を受領したら直ちに専門家である弁護士に相談することが重要です。特に、バックペイは時間の経過とともに増額していくため、早期解決を図ることが企業の利益につながります。
弁護士法人リブラ法律事務所は、迅速な処理を強みとし、労働審判における企業側の代理人として、多数の案件を成功に導いてきました。不当解雇の主張に対する適切な反論、証拠の戦略的な提出、そして現実的な解決ラインでの和解成立まで、トータルでサポートいたします。
労働審判は時間との勝負です。お困りの企業様は、今すぐご相談ください。
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Last Updated on 10月 22, 2025 by kigyo-lybralaw
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 事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。 | 
 
		


 
 
