残業代・未払い賃金で労働審判を申し立てられた場合の会社側の対応について 弁護士が解説

突然、労働審判の申立書が届いた経営者の皆様へ。

従業員から残業代や未払い賃金を請求する労働審判を申し立てられた際、多くの経営者様は「どう対応すればよいのか」「いくら支払うことになるのか」という不安を抱えます。

労働審判は、申立てから原則40日以内に第1回期日が設定されるスピーディーな手続きです。2023年の司法統計によると、労働審判の新受件数は約3,500件に上り、その約40%が賃金関係のトラブルです。平均審理期間は約82日と短く、66.4%の事件が申立てから3か月以内に終了しています。

この記事では、20年以上の労働問題対応実績を持つリブラ法律事務所の視点から、労働審判を申し立てられた企業が取るべき具体的な対応策を、段階を追って詳しく解説します。

1. 残業代・未払い賃金で労働審判を申し立てられたら会社がすべき初動対応

企業側が直面するリスクと金銭負担

労働審判で残業代請求を受けた場合、企業が直面する金銭的リスクは想像以上に大きくなる可能性があります。

主な金銭的リスク

  • 本体の未払い残業代:2020年4月から時効が3年に延長され、最大3年分の請求が可能に
  • 付加金:裁判所が悪質と判断した場合、本来の残業代と同額(最大2倍)の支払いを命じられる可能性
  • 遅延損害金:在職中は年3%、退職後は年14.6%という高率の遅延損害金が発生
  • 弁護士費用:企業側の弁護士費用として通常80~100万円程度が必要

厚生労働省の調査によると、残業代請求の平均請求額は約220万円ですが、複数の従業員から同様の請求を受けるリスクもあり、対応を誤ると企業経営に深刻な影響を与えかねません。

労働審判は想像以上にスピーディーに進行する

労働審判の最大の特徴は、その迅速性にあります。

労働審判の時系列

  1. 申立書受領:裁判所から申立書と期日呼出状が送達
  2. 答弁書提出期限:第1回期日の7~10日前まで(実質2~3週間)
  3. 第1回期日:申立てから40日以内に開催
  4. 第2回期日:第1回から約1か月後
  5. 第3回期日:原則として3回以内で審理終結

この短期間で、企業側は膨大な証拠書類の収集、事実関係の整理、法的主張の構成を行わなければなりません。初動の遅れは致命的となるため、申立書を受け取った当日から対応を開始することが重要です。

2. 労働審判に向けて会社が確認すべき3つの要点

労働時間の管理状況と実態(タイムカード・勤怠システム)

労働審判において最も重要な証拠となるのが、労働時間の客観的記録です。

確認すべき労働時間関連資料

  • タイムカード、ICカード記録
  • 勤怠管理システムのデータ
  • パソコンのログイン・ログアウト記録
  • セキュリティカードの入退室記録
  • 業務日報、作業報告書

これらの記録と従業員の主張する労働時間に乖離がある場合、その理由を明確に説明できる準備が必要です。例えば、「タイムカード打刻後の私的行為」「休憩時間の取り扱い」「自己研鑽時間と業務時間の区別」などが争点となることが多いです。

就業規則・給与規定・固定残業代制度の整備状況

労働条件の根拠となる規程類の確認は、反論構成の基礎となります。

重点チェック項目

  • 就業規則の有効性:周知方法、労基署への届出状況
  • 固定残業代制度:明確区分性、対価性要件を満たしているか
  • 管理監督者の定義:役職者が労基法41条2号に該当するか
  • 変形労働時間制:適法に導入・運用されているか
  • 残業許可制:運用実態と規程の整合性

特に固定残業代制度については、最高裁判例(日本ケミカル事件等)により厳格な要件が求められており、要件を満たさない場合は基本給に含まれる固定残業代が無効とされ、二重払いのリスクが生じます。

請求額と計算方法の整合性(支払済か、誤りか)

従業員側の請求額について、計算根拠を詳細に検証することが不可欠です。

計算検証のポイント

  • 基礎賃金の範囲(除外賃金の適切な控除)
  • 月平均所定労働時間数の計算方法
  • 割増率の適用(時間外25%、深夜25%、休日35%)
  • 既払い残業代の控除漏れ
  • 消滅時効の起算点と援用

計算ミスを発見した場合、それを指摘することで請求額を大幅に減額できる可能性があります。実際、請求側の計算に誤りがあるケースは少なくありません。

3. 弁護士と連携して進める初期対応のポイント

答弁書の作成と期限管理(主張の軸と数字の裏付け)

答弁書は労働審判の勝敗を左右する最重要書面です。第1回期日で裁判官と労働審判員の心証がほぼ形成されるため、答弁書の出来が結果を大きく左右します。

効果的な答弁書作成のポイント

  • 事実関係を時系列で整理:客観的事実と評価を明確に区別
  • 法的主張を簡潔明瞭に:争点を絞り込み、核心部分に集中
  • 証拠との対応関係を明示:主張と証拠番号を紐付けて説得力を高める
  • 現実的な解決案の提示:ゼロ回答ではなく、建設的な提案を含める

リブラ法律事務所では、労働審判の豊富な経験を活かし、相談から3日以内に答弁書作成に着手し、期限に余裕を持って提出できる体制を整えています。

証拠書類の洗い出しと優先順位付け(勤怠記録・業務指示メールなど)

労働審判では、証拠の質と量が結果を大きく左右します。

必須証拠書類リスト

  1. 労働契約関係:雇用契約書、労働条件通知書、辞令
  2. 賃金関係:給与明細、賃金台帳、源泉徴収票
  3. 勤怠関係:タイムカード、勤怠システムデータ、シフト表
  4. 業務指示関係:メール、チャット履歴、業務指示書
  5. その他:36協定、変形労働時間制協定、組織図

特に重要なのは、「残業の必要性がなかった」「残業を禁止していた」ことを示す証拠です。残業禁止の通達、定時退社の指導記録、業務量の適正性を示す資料などが有効です。

社内担当者の選定と社内での証言準備

労働審判では、会社側も当事者として出廷し、労働審判委員会からの質問に答える必要があります。

社内体制構築のポイント

  • 出廷者の選定:当該従業員の直属上司、人事責任者など事情を最もよく知る者
  • 事実関係の統一:関係者間で認識を共有し、矛盾のない説明を準備
  • 想定問答集の作成:労働審判委員会から予想される質問への回答を準備
  • 資料の迅速な提供体制:追加資料要求に即座に対応できる体制構築

4. 弁護士視点で見る「初動でやってはいけない」ミス

請求内容をうのみにして反論せず認める

最も危険なのは、「残業はさせていたから」と安易に請求を認めてしまうことです。

労働時間の立証責任は基本的に労働者側にありますが、企業が一度認めてしまうと、その後の撤回は極めて困難になります。また、一人の従業員への対応が前例となり、他の従業員からの請求を誘発するリスクもあります。

勤怠・賃金の根拠を出せず、論点が曖昧なまま終わる

「資料が見つからない」「担当者が退職した」といった理由で、必要な証拠を提出できないケースがあります。

労働基準法では、賃金台帳や労働時間記録の保存義務(3年間)が定められており、これらの資料を提出できない場合、労働審判委員会は労働者の主張を信用する傾向があります。日頃からの適切な記録管理が、いざという時の企業防衛につながります。

経理・人事・上司の証言がバラバラで信用性を失う

複数の関係者が異なる説明をすると、企業側の主張全体の信用性が失われます。

例えば、人事部は「固定残業代制度だった」と主張し、経理部は「みなし残業代として処理していた」と説明し、上司は「詳しくは知らない」と答えるような状況は最悪です。事前に関係者間で事実関係を確認し、一貫性のある説明ができるよう準備することが不可欠です。

5. 労働審判における未払い賃金対応のチェックリスト

確認すべき資料と論点(勤怠・制度・就業規則・計算式)

労働審判対応の際に確認すべき項目を、チェックリスト形式でまとめました。

【必須確認項目チェックリスト】

労働時間管理

  • タイムカード等の客観的記録の有無
  • 実労働時間と記録の整合性
  • 休憩時間の取得状況
  • 持ち帰り残業の有無

賃金制度

  • 固定残業代制度の有効性
  • 管理監督者該当性
  • 変形労働時間制の適用
  • 歩合給制度の有無

就業規則関係

  • 周知方法の適切性
  • 労基署への届出状況
  • 不利益変更の有無
  • 残業許可制の規定と運用

計算根拠

労務問題/契約書/クレーム対応/債権回収/不動産トラブル/広告表示/運送業・建設業・製造業・不動産業・飲食業・医療業・士業の業種別トラブル等の企業の法務トラブルは使用者側に特化した大分の弁護士にご相談ください
  • 基礎賃金の範囲
  • 割増率の適用
  • 既払い額の控除
  • 消滅時効の成否

その他のリスク要因

  • 他の従業員への波及可能性
  • 労基署の是正勧告歴
  • 過去の類似紛争の有無

弁護士相談のタイミングと準備物リスト

最適な相談タイミング:申立書受領から3日以内

労働審判は極めて短期決戦であるため、申立書を受け取ったら直ちに弁護士に相談することが重要です。リブラ法律事務所では、緊急案件として優先的に対応し、最短で当日相談も可能です。

弁護士相談時の持参資料

  1. 労働審判申立書(写し)
  2. 雇用契約書、労働条件通知書
  3. 就業規則、賃金規程
  4. 直近3年分の給与明細
  5. タイムカード等の勤怠記録(直近3年分)
  6. 36協定、変形労働時間制協定書
  7. 組織図、業務分掌規程
  8. 当該従業員との往復メール、面談記録
  9. 他の従業員の労働条件がわかる資料

6. よくある質問(FAQ)

Q1. 労働審判で和解した場合、付加金は支払わなくてよいのですか?

A. はい、労働審判で和解が成立した場合、付加金の支払いを命じられることはありません。これが早期和解のメリットの一つです。統計上、労働審判の約70%は調停(和解)で解決しており、付加金のリスクを回避できます。

Q2. 労働審判の結果に不服がある場合、どうすればよいですか?

A. 労働審判に対しては、2週間以内に異議申立てが可能です。異議申立てがあると労働審判は効力を失い、自動的に通常の訴訟手続きに移行します。ただし、訴訟になると解決まで1年以上かかることもあり、その間のバックペイ(遡及賃金)のリスクも考慮する必要があります。

Q3. タイムカードの記録時間すべてを労働時間と認めなければならないのですか?

A. いいえ、必ずしもそうではありません。タイムカード打刻後の自己研鑽、私的な活動、単なる職場滞在などは労働時間から除外できる可能性があります。ただし、企業側で「労働時間ではない」ことを立証する必要があり、メールの送信履歴、PC操作ログ、防犯カメラ映像などの客観的証拠が重要になります。

Q4. 管理職には残業代を支払わなくてよいと聞きましたが、本当ですか?

A. 労働基準法41条2号の「管理監督者」に該当する場合は、時間外・休日労働の割増賃金支払い義務はありません。しかし、この要件は非常に厳格で、単に「課長」「店長」といった肩書きだけでは該当しません。経営者と一体的な立場、労働時間の裁量、それにふさわしい待遇の3要件を満たす必要があります。なお、深夜労働(22時~5時)の割増賃金は管理監督者にも支払い義務があります。

Q5. 固定残業代制度があれば、追加の残業代は不要ですか?

A. 固定残業代制度が有効に成立していても、みなし時間を超える残業があれば、その差額を支払う必要があります。また、固定残業代制度自体が、①基本給と明確に区分されている、②何時間分の残業代か明示されている、③実際の残業時間との差額精算の合意がある、などの要件を満たさない場合は無効となり、固定残業代とは別に残業代の支払いが必要になります。

Q6. 残業は許可制にしていたので、無許可残業には支払い義務はないですよね?

A. 残業許可制自体は適法ですが、実態として黙示の指示があったと認定される場合は支払い義務が生じます。例えば、明らかに定時内に終わらない業務量を指示していた、許可なく残業している従業員を黙認していた、などの場合は、許可がなくても残業代支払い義務が発生します。

Q7. 3年以上前の残業代は時効で支払わなくてよいのですか?

A. 2020年4月以降に支払期日が到来した残業代は3年、それ以前のものは2年で時効となります。ただし、時効を主張するには「援用」という手続きが必要で、労働審判の答弁書で明確に時効を援用する旨を主張しなければなりません。


7. リブラ法律事務所へのご相談

対応の迅速性と費用の透明性

リブラ法律事務所は、大分県大分市に拠点を置き、20年以上にわたり地域企業の労務問題解決をサポートしてまいりました。労働審判対応においては、以下の点で他事務所との差別化を図っています。

リブラ法律事務所の強み

1. 初動スピード

  • 相談申込みから初回面談まで最短当日対応
  • 初回相談から3日以内に答弁書作成着手
  • 緊急案件は土日祝日も対応可能

2. 明確な料金体系

  • 初回相談料:1時間まで無料
  • 労働審判対応:着手金22万円~(税込)
  • 成功報酬:減額分の11%~16.5%(税込)
  • 明瞭会計

3. 豊富な実績と専門性

  • メールやWeb会議システムを利用した迅速対応
  • 労働審判対応実績多数
  • 企業側専門の労務問題対応

4. アクセスの良さ

  • 事務所1階に専用駐車場完備
  • 大分駅から車で約10分
  • 来所困難な場合はオンライン相談も可能

まずはご相談を – 事務所での詳細な打ち合わせ

労働審判を申し立てられてお困りの経営者様、まずは一度、当事務所にお越しください。

申立書や関連資料を拝見しながら、じっくりとお話を伺い、貴社の状況に最適な対応策をご提案いたします。初回相談では、以下の点について具体的にアドバイスいたします:

  • 貴社の主張の妥当性評価
  • 想定される解決金額の見込み
  • 和解すべきか争うべきかの判断
  • 今後のスケジュールと必要な準備
  • 他の従業員への波及リスクと予防策

ご予約・お問い合わせ

弁護士法人リブラ法律事務所 〒870-0049 大分県大分市中島中央2丁目2番2号 TEL: 097-538-7720(受付時間:平日9:00-18:00 ※12:00-13:00除く)

労働審判は時間との勝負です。申立書が届いたら、まずはお電話でご予約ください。経験豊富な弁護士が、貴社の立場に立って全力でサポートいたします。

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Last Updated on 10月 22, 2025 by kigyo-lybralaw

この記事の執筆者
弁護士法人リブラ総合法律事務所

事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。

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