従業員に経歴を詐称された!解雇しても大丈夫?弁護士が解説!

従業員に経歴を詐称された!解雇しても大丈夫?弁護士が解説!

社員が会社に提出した履歴書の経歴に嘘や隠ぺいがあったとき、真っ先に思いつく措置が解雇です。ですが、そんな場合でもそう簡単には解雇できません。そのことをお伝えいたします。

経歴詐称が発覚した際まず確認して欲しいこととは?

社員の経歴詐称とは、社員が提出した履歴書や採用面接時に受けた質問に対し

・虚偽の学歴・職歴等を記入し、回答する

・本当の経歴を記入せず、回答しない

ことをいいます。会社側としては許せないですね。

もっとも、社員が経歴を詐称したことについて事業主が処分できるのは、経歴詐称につき、就業規則で懲戒事由にあたる、との定めがあるからです。このため、事業主は社員の経歴詐称に腹を立てる前に、まず、就業規則で経歴詐称が懲戒事由にあたると定めているかどうかを確認しましょう。

経歴詐称は、大抵の場合、懲戒事由の1つに挙げられていることが多いです。このため、経歴詐称があった場合、事業主がその社員の懲戒解雇を意識すること自体は間違いではありません(なお、経歴詐称が懲戒解雇事由になっていない場合は、懲戒解雇ができません。このことはよく覚えておいてください)。

次に考えて欲しいこと

次に、事業主が社員になした懲戒処分が有効であるためには、その懲戒処分が、客観的に合理的であり、社会的に見ても相当であることが必要です(労働契約法第15条)。よって

・社員が経歴詐称をしたことの証拠があること

・経歴詐称を理由とする懲戒処分が客観的に合理的であること

を、裁判所に示せるだけの根拠がなければ、懲戒処分はできません。つまり、単に経歴詐称があったというだけで懲戒処分をなすことはできないのです。事業主としてはこの点をよく考えていただきたいと存じます。

まず、経歴詐称に関する証拠は、履歴書が最も強く、確実なものです。これに対し、面接の際に言葉で詐称した、という場合は、証拠の有無をよく確認する必要があるでしょう。

次に「社会的に相当か」とはどういう意味かというと、一口に社員の経歴詐称といっても、その程度の軽重(悪質性の程度ともいえます)や、事業主が過去同じような事案でどのような処分をしたか(しなかったか)、を検討するということです。要は、経歴詐称の程度に比較して懲戒処分の内容が重すぎる場合は、懲戒処分は無効となります(労働契約法第15条)。

また、事業主が就業規則で懲戒処分に関する手続を定めている場合は、その手続に従って進めたうえで処分しないと、それだけで懲戒処分が無効と判断される可能性があります。とりわけ、事業主がその社員を処分するにあたって事情を聞いたかどうかは重要なポイントであり、手続を定めていなくとも、事情を聞く機会は持って欲しいです。

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更に検討して欲しいこと

ここまで、就業規則の確認、経歴詐称と言えるだけの証拠があるか、過去、同じような事例で社員をどう処分したか、経歴詐称で処分をするとしても、その社員が事情を話す機会を持って欲しい、という話をしました。

ここまでで「経歴詐称と言えるだけの証拠が乏しい」「似たようなケースで社員を懲戒解雇させたことはない」といった場合は、懲戒処分(特に解雇)は見合わせた方が無難です。

また、「経歴詐称の証拠はある」「経歴詐称で社員を懲戒解雇したことがある」という場合でも、以下の点を慎重にお考えいただければと存じます。

というのも、経歴詐称を理由とする懲戒解雇が、裁判所で常に有効になるとは限らないからです。この点に関する裁判例は複数あるところ、経歴詐称を理由とする懲戒解雇が有効となる場合は、概して、事業主の社員に対する信頼関係や事業所の秩序の維持に重大な影響を与えるもの、と判断したときです。そこまで至らない経歴詐称は、たとえ事実であっても懲戒解雇が有効とは認められにくいのです。この「(経歴詐称が)事業主の社員に対する信頼関係や事業所の秩序の維持に重大な影響を与える」場合とはどんな場合かを検討すると、下記のとおりです。

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・事業主は、経歴詐称がなければその社員を雇わなかった。

・事業主がその社員を雇わなかったことを合理的に説明できること。

 これだけだと抽象的でわかりづらいので、いくつか例を挙げます。

社員による経歴詐称の具体例

学歴詐称

事業主は、社員の学歴に応じて待遇やポストを判断する傾向にあります。係る傾向が、具体的に労働契約に反映しているとか、人員配置の根拠となっている場合は、学歴詐称によって「労働契約の条件を誤って提示させられる」「その学歴であればその時点で採用予定はなかった」と主張しやすく、懲戒処分の対象とすることに合理的な根拠があると言えるでしょう(後は処分の重さを検討することになります)。反対に、事業主が労働契約や人員配置において、そこまで学歴を重要視していない場合は「学歴詐称がなければその社員を雇わなかった」とは言いづらいため、懲戒処分が無効となる可能性が高まります。

職歴詐称

職歴は、事業主がその社員の能力や成績を判断するための物差しとなることから、重要な情報である場合があります。このため、その事業主にとって重要といえる職歴の詐称である場合は、懲戒処分が有効となる可能性が高まります。

反面、事業所における社員の仕事内容や仕事の期間に照らして、職歴の詐称が重要ではないと判断される場合は、懲戒処分が無効になることもあります。

その他の事項に関する詐称

まず、犯罪歴の詐称について、事業主側がその告知を求めないのであれば、社員が自主的に申告する義務はありません。ですから、事業主側が犯歴の有無を質問したことに対して回答しなかった場合に限定されます。この点、犯歴詐称に基づく懲戒処分については上記と同様の基準があてはまるところ「犯歴が告知されていればその社員を雇用しなかった」といえるかどうかは、事業の内容や犯罪の内容、犯罪の時期を基準に考えることになります。例えば、重大犯罪である場合は雇用しなかったとの主張が認められやすい、あるいは、タクシードライバの採用において無免許や飲酒運転の検挙歴がある場合には、一層雇用しなかったとの主張が認められやすいといえます。もっとも、犯歴とはいっても具体的業務との関連性が希薄である場合や、犯歴が10年以上前であるという場合は、雇用しなかったという関連性が認められず、懲戒処分が無効であると判断される可能性が高まります。この「10年」という数字は覚えておかれてもよいかと存じます。

 次に、応募してきた社員がもと反社組織に所属していた(現在は完全に足を洗っている)場合はどうでしょうか。この点は、いわゆる暴対法との関係で反社と取引関係にあること自体を避ける事業者が多いことや、足を洗ったといってもその根拠を示すことが容易でないことから、少なくとも、事業主が面接の際に、過去、反社組織に属したか否かを質問された場合、これを隠匿して採用され、後刻、そのことが明らかになった場合は、採用しなかったという主張が認められる可能性が高いでしょう。その意味で、事業主側から確認することが重要といえます。また、事業主は、応募してきた社員が前職を退職した理由を知りたいといえます。もし、その応募者が前職で懲戒解雇されている場合は採用を控えたいと思うのが人情ですし、人物評価として誤っているともいえません。もっとも、応募する社員が、自ら、前職の退職理由を話す義務はありません。このため、この場合も、事業主は応募者に対し、前職を退職した理由を確認する必要があり、そこで詐称があれば、懲戒処分の事由とすることが可能です(もっとも、前職で懲戒解雇されたことを黙っていた、ということ以外の事由について事実と異なることを告げた場合は別問題(例えばパワハラ・セクハラに遭ったがそのことを他人には言いたくないという気持ちはよくわかります)だといえます。

最後に、応募者が過去うつ病にり患していたことを告げなかった場合はいかがでしょうか。この場合は、基本的に「詐称」と扱うことは難しい、健康状態が特に採否に左右する職業(例えば運送業の運転手の場合は、発作や躁うつ状態による運転により他人に危害が及ぶ可能性があることから健康状態の確認は必須ともいえる)に限って詐称といいうる、と理解してください。というのも、病歴に関する情報は「要配慮個人情報」であり、原則、係る個人情報の取得は認められないからです。また、過去の病歴が現在の業務内容に常に影響を及ぼすとか考え難いためです。

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経歴詐称が発覚した際の対応方法まとめ

以上、経歴詐称と懲戒処分との関係をお話ししました。

経歴詐称は基本的な信頼関係を損なう可能性がある行為だとはいえ、その内容や業務との関連性、詐称した内容の重大性を問うことなく、詐称という事実のみをもって懲戒処分を行うことは難しいといえるでしょう。もっとも、職場の規模や既に雇用されている社員との人間関係上、詐称という事実に基づいて懲戒処分を行わないと却って職場の秩序を害する、というケースもあろうかと存じます。その際は、懲戒処分を行う前に、是非、リブラ法律事務所にご相談をお願いします。リブラ法律事務所では、過去の裁判例や具体的な職場の状況に照らし、懲戒処分のリスク等についてお話をさせていただきます。

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Last Updated on 4月 15, 2024 by kigyo-lybralaw

この記事の執筆者
弁護士法人リブラ総合法律事務所

事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。

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