
0.はじめに
「カスタマーハラスメント(カスハラ)」という言葉をご存知でしょうか。顧客や取引先からの暴言、土下座の強要、理不尽な要求——。こうした迷惑行為から従業員を守るための法律が、2025年6月に成立しました。
この法律により、2026年10月1日から、すべての事業者にカスハラ対策が義務として課されます。うちは小さい会社だから関係ないと思っている経営者の方は、今すぐ認識を改める必要があります。
本記事では、運送業・建設業・介護業の中小企業経営者・人事担当者の方に向けて、法改正の全体像から具体的な対策手順、そして2026年10月までに整備すべきチェックリストまで、実務に即した形で解説します。
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1.2026年10月、カスハラ対策が「義務」になる——法改正の全体像
なぜ今、カスハラ対策が法律で義務化されるのか
近年、顧客からの悪質なクレームや理不尽な要求が社会問題化しています。厚生労働省の「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によれば、過去3年間でカスタマーハラスメントの相談があった企業は全体の約28%に上りました。
これまでカスハラに対する横断的な法規制はなく、企業は独自の対応を迫られてきました。しかし、従業員のメンタルヘルス悪化や離職の増加が深刻化する中、国は労働施策総合推進法を改正し、カスハラ対策を事業主の雇用管理上の措置義務として法定化しました。
これにより、カスハラ対策はやった方がいいからやらなければならないへと変わったのです。
対象は「労働者が1人でもいる全事業者」——中小企業も例外なし
改正法の対象となる事業主とは、労働者を1人でも雇用している事業者すべてを指します。大企業だけでなく、社員数名の中小企業や個人事業主も例外ではありません。
「うちは従業員が少ないから大丈夫」「地方の小さな会社には関係ない」という認識は完全な誤りです。むしろ、専任の法務部門や人事部門を持たない中小企業こそ、今から計画的に準備を進める必要があります。
違反した場合のペナルティ
カスハラ対策を怠った事業主には、以下の行政措置が取られる可能性があります。
・報告徴求命令:労働局からの報告要請
・助言・指導:改善に向けた行政指導
・勧告:法的な改善命令
・企業名の公表:社会的信用の失墜
特に企業名の公表は、取引先からの信用低下、採用活動への悪影響、風評被害による売上減少など、事業継続に深刻なダメージを与えかねません。
2.「うちは関係ない」が命取りに——カスハラを放置する3つのリスク
リスク①:従業員の離職と採用難の悪化
カスハラによる精神的苦痛は、従業員の離職に直結します。特に運送業・建設業・介護業は慢性的な人手不足に悩まされており、一人の離職が事業運営に大きな影響を与えます。
「ドライバーが荷主からの暴言に耐えかねて退職した」「介護職員が利用者家族からの過剰要求で燃え尽きた」
こうした事例は枚挙にいとまがありません。カスハラ対策を講じない企業はブラック企業というレッテルを貼られ、新規採用も困難になります。
リスク②:損害賠償請求と企業イメージの失墜
事業主には、従業員が安全に働ける環境を提供する安全配慮義務があります。カスハラを放置し、従業員がメンタルヘルス不調や身体的被害を受けた場合、企業は損害賠償責任を問われる可能性があります。
過去の裁判例では、カスハラ対策を怠った企業に対し、数百万円から数千万円の賠償が命じられたケースもあります。金銭的損失に加え、従業員を守らない会社という悪評は、顧客離れや取引停止にもつながりかねません。
リスク③:行政指導・企業名公表による取引停止
2026年10月以降、カスハラ対策を講じていない企業は行政指導の対象となります。改善が見られない場合は「企業名の公表」という最も重い措置が取られます。
特にBtoB取引が中心の運送業や建設業では、元請け企業からコンプライアンス遵守を厳しく求められます。カスハラ対策未実施として公表された企業は、既存の取引先から契約を打ち切られるリスクがあります。
3.業種別カスハラの実態とは?運送業・建設業・介護業で何が起きているか
【運送業】荷主・配送先からの理不尽な要求と暴言
トラック運送業界では、荷主や配送先からのカスハラが深刻化しています。全日本トラック協会の調査によれば、以下のような被害が報告されています。
・契約にない荷役作業(積み込み・荷降ろし)の強要
・配送時間の遅延に対する長時間の罵倒
・「もう二度と仕事を回さない」という脅迫
・SNSへの悪評投稿をほのめかす威圧
・長時間の荷待ちを強いられながら文句を言えない状況
2024年問題による労働時間規制が強化される中、荷主との力関係に悩むドライバーはまだ多いです。国土交通省はトラックGメンを設置し、荷主への法的措置を強化していますが、個々の事業者も自社でカスハラ対策を講じる必要があります。
【建設業】元請け・下請け構造が生むハラスメントの連鎖
建設業界では、元請け・下請けという重層構造がカスハラの温床となっています。
・元請けの現場監督から下請け職人への暴言・罵倒
・工期遅延を理由にした人格否定発言
・「代わりの業者はいくらでもいる」という脅し
・契約外の追加工事の無償対応強要
・施主からの過剰なやり直し要求
下請け企業は取引関係を維持するために泣き寝入りするケースが多く、現場で働く職人のメンタルヘルスが深刻な状態になっています。しかし、たとえ相手が元請けであっても、事業主には従業員を守る義務があります。
【介護業】利用者・家族からの暴力・過剰要求
介護現場では、利用者本人だけでなく、その家族からのカスハラも深刻です。
・「お前のせいで親が弱った」という暴言
・訪問介護中の身体的暴力(殴る、つねる、髪を引っ張る)
・契約外のサービス(買い物、掃除の範囲拡大)の強要
・「介護保険で賄えるはずだ」という不当な金銭要求
・セクシュアルハラスメント
介護サービスは正当な理由なくサービス提供を拒否できないという特性があり、対応が難しい側面があります。しかし、厚生労働省の指針では、悪質なカスハラがある場合はサービス提供を拒否できる場合もあるとされています。事業所として毅然とした対応ができる体制を整備することが重要です。
4. 中小企業でも今日から始められる!カスハラ対策5つのステップ
何から手をつければいいかわからない中小企業経営者の方に向けて、具体的な対策手順を解説します。
ステップ①:経営トップによる方針の明確化と社内周知
まず最初に行うべきは、当社はカスハラを許容しないという明確な方針を策定し、経営トップ自らが社内外に発信することです。
・カスハラ防止方針の文書化
・社長名義での全従業員向けメッセージ発信
・朝礼や会議での繰り返しの周知
・社内掲示板やイントラネットでの方針掲載
トップが本気で取り組む姿勢を見せることで、従業員は会社が自分を守ってくれるという安心感を得られます。これがカスハラ対策の土台となります。
ステップ②:相談窓口の設置と担当者の選任
従業員がカスハラ被害を報告できる相談窓口を設置します。中小企業では、総務担当者や管理職が窓口を兼務することも可能です。
・相談窓口担当者の選任(複数名が望ましい)
・相談方法の明確化(対面、電話、メール等)
・相談者のプライバシー保護ルールの策定
・相談したことを理由とした不利益取扱いの禁止の明文化
重要なのは、相談しやすい雰囲気づくりです。相談したら仕事がやりにくくなるのでは?という不安を払拭する仕組みが必要です。
ステップ③:対応マニュアル・フローの整備
カスハラが発生した場合の対応手順を文書化し、従業員に周知します。
・カスハラの定義と具体例の明示
・初期対応の手順(上司への報告、記録の取り方)
・エスカレーションルール(誰に、どのタイミングで報告するか)
・複数人対応への切り替え基準
・警察通報の判断基準
・顧客対応の打ち切り基準
現場の従業員が迷わず行動できるよう、具体的かつ実践的な内容にすることがポイントです。
ステップ④:従業員への研修・教育の実施
マニュアルを作成しただけでは不十分です。定期的な研修を通じて、従業員のカスハラ対応スキルを向上させます。
・カスハラの定義と具体例の理解
・正当なクレームとカスハラの見分け方
・初期対応のロールプレイング
・記録の取り方(日時、内容、相手の言動)
・メンタルヘルスケアの重要性
年1回以上の研修実施が望ましいとされています。新入社員研修にもカスハラ対策の内容を組み込みましょう。
ステップ⑤:契約書・重要事項説明書への条項追加
顧客や取引先との契約書に、カスハラ防止に関する条項を追加します。
・従業員への暴言・威圧・過度な要求をお断りする方針の明記
・カスハラ行為があった場合のサービス停止・契約解除条項
・録音・録画を行う場合がある旨の事前告知
契約書に明記しておくと、いざという時に毅然とした対応が取りやすくなります。
5.【実践チェックリスト】2026年10月までに整備すべき15項目について
以下のチェックリストを活用し、自社のカスハラ対策の進捗を確認してください。
■ 方針・体制の整備
□ 1. カスハラを許容しない旨の基本方針を策定している
□ 2. 基本方針を全従業員に周知している
□ 3. 経営トップがカスハラ対策へのコミットメントを表明している
■ 相談窓口の設置
□ 4. 相談窓口を設置し、担当者を選任している
□ 5. 相談窓口の連絡先を従業員に周知している
□ 6. 相談者のプライバシー保護ルールを定めている
□ 7. 相談を理由とした不利益取扱い禁止を明文化している
■ マニュアル・規程の整備
□ 8. カスハラの定義と具体例を明示したマニュアルがある
□ 9. 対応フロー(報告・エスカレーション)を文書化している
□ 10. 悪質なケースへの対処方針(警察通報、取引停止等)を定めている
□ 11. 就業規則にカスハラ対策の条項を追加している
■ 教育・研修
□ 12. 従業員向けのカスハラ研修を実施している
□ 13. 管理職向けの対応研修を実施している
■ 契約・対外対応
□ 14. 契約書・重要事項説明書にカスハラ防止条項を追加している
□ 15. 顧客・取引先にカスハラ防止方針を周知している
▶ 10項目以上にチェックが入っていれば、基本的な対策は整備されています。
チェックが入らない項目は、2026年10月までに優先的に対応しましょう。
6. カスハラ対応に顧問弁護士が必要な理由とは?
6-1. なぜ中小企業にこそ顧問弁護士が必要なのか
「マニュアルを作ると言っても、法律の専門知識がない」「カスハラかどうかの判断基準がわからない」「悪質なクレーマーにどこまで対応すべきか迷う」
こうした悩みを抱える中小企業は少なくありません。
カスハラ対策は、労働法、民法、刑法など複数の法律が絡む複雑な領域です。自社だけで対応しようとすると、かえって法的リスクを高めてしまう可能性もあります。
顧問弁護士がいれば、以下のようなサポートを受けることができます。
・カスハラ対応マニュアルの作成・監修
・契約書へのカスハラ防止条項の追加
・従業員研修の講師対応
・カスハラ発生時の初期対応アドバイス
・悪質なケースへの法的対応(警告文送付、民事訴訟等)
6-2. リブラ法律事務所が選ばれる3つの理由
大分県を拠点とするリブラ法律事務所は、地域の中小企業の労務問題を数多く手がけてきました。カスハラ対策においても、以下の強みで皆様をサポートします。
【理由①】迅速対応
カスハラ問題は、対応が遅れるほど事態が悪化します。リブラ法律事務所では、お問い合わせいただいたら迅速に対応いたします。
【理由②】地域密着
大分県内の運送業、建設業、介護業の事業者様との豊富な顧問契約実績があります。地域特有の商慣習や取引関係を理解した上で、現実的かつ実効性のあるアドバイスを提供します。東京の大手法律事務所にはできない、きめ細やかなサポートが当事務所の強みです。
【理由③】実務重視
「法律相談だけで終わり」ではありません。カスハラ対応マニュアルの作成、就業規則の改定、契約書のリーガルチェック、従業員研修の講師対応まで、トータルでサポートします。貴社の業種・規模に合わせたオーダーメイドの対策をご提案します。
6-3. お問い合わせ
「何から手をつければいいかわからない」「今のままで法律上問題ないか確認したい」——どのようなご相談でも、まずはお気軽にお問い合わせください。
【お問い合わせ先】 リブラ法律事務所 電話:097-538-7720 (受付時間:平日9:00〜18:00)
FAX:097-538-7730 ※お電話の際は「カスハラ対策の相談」とお伝えください。
7. カスハラ対策は守りではなく攻めの経営戦略
2026年10月のカスハラ対策義務化まで、残された時間は限られています。しかし、この法改正を単なるコンプライアンス対応として捉えるのはもったいないことです。
カスハラ対策を徹底することは、従業員の安心・安全を守り、離職を防ぎ、採用力を高めることにつながります。この会社は従業員を大切にしているという評判は、優秀な人材の確保に直結します。
また、毅然としたカスハラ対応ができる企業は、顧客や取引先からの信頼も高まります。何でも言いなりになる企業よりも、筋の通った対応をする企業の方が、長期的な信頼関係を築けるのです。
カスハラ対策は、企業を守り、従業員を守り、そして事業を成長させる攻めの経営戦略です。今日から、できることから始めてみませんか。
リブラ法律事務所は、大分県の中小企業の皆様のカスハラ対策を全力でサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。
Last Updated on 2月 16, 2026 by kigyo-lybralaw
事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。 |




