
1. 「建設業だから下請法は関係ない」──その思い込みが、2026年1月から命取りになる
「うちは建設業だから、下請法なんて関係ない」
大分市で建設業を営む経営者の方と話していると、十中八九、この言葉が出てきます。先代から受け継いだ会社、地元の協力会社と二十年、三十年と続けてきた付き合い。注文書は毎回出しているし、支払いが遅れたことも一度もない。だから関係ない、と。
この記事は、まさにそういうあなたのために書いています。元請として外注先に仕事を流す立場にあり、これまで大きなトラブルもなく経営してきた。けれど最近、「2026年1月に下請法が変わった」という話を耳にした。あるいは取引先から「取適法、対応されてますか」と聞かれた。そして調べてみたものの、自社が対象なのかどうか、はっきりしないまま不安だけが残っている――そんな方です。
先に、結論を申し上げます。建設工事の施工そのものは、取適法(旧・下請法)の対象外です。 ここはあなたの認識どおりで、間違っていません。公正取引委員会と中小企業庁も、「建設業を営む者が業として請け負う建設工事は対象とならない」と明示しています。
ただし、です。設計図の作成委託、プレカット材の製造委託、資材の運送委託――こうした「工事以外の委託」については、建設業者であっても取適法の対象になり得ます。 そして2026年1月1日の法改正で、その守備範囲はむしろ広がりました。
「建設業だから関係ない」――この思い込みこそが、いま最も危ない。なぜそう言えるのか、これから順を追って説明します。
▼関連記事はこちら▼
【2026 年 1 月施行】取適法(旧下請法)で中小企業の取引が激変!「知らなかった」では済まない 7つの変更点と今すぐやるべき対応
元請け業者のための建設トラブル対応について弁護士が解説【2025年最新版】
2. 注文書はちゃんと出している。それでも、なぜ不安が消えないのか
注文書はきちんと出している。支払いも期日どおり。長年の協力会社と揉めたこともない。それなのに、なぜ不安が消えないのでしょうか。
おそらく、あなた自身が薄々気づいているからです。「追加工事のとき、いつも電話一本、口頭で済ませているな」「あの単価、こちらの都合で何年も据え置いてもらっているな」「設計事務所への外注、契約書らしい契約書を交わしていないな」と。
私たちが企業法務のご相談を受けていて感じるのは、経営者の方が口にする不安は、たいてい氷山の一角だということです。「罰則を受けたくない」という言葉の下には、もっと深い、言葉になりにくい不安が沈んでいます。
それは、こういうものではないでしょうか。「いまさら書面化だ、ルールだと言い出したら、長年付き合ってきた協力会社との関係が、よそよそしくなってしまうのではないか」。あるいは「これまで自分がやってきたやり方は、実は間違っていたのか」。法律違反そのものより、関係が壊れること、そして自分の過去が否定されることのほうが、よほど怖い。
その不安は、まっとうな経営者だからこそ抱くものです。そして、はっきり申し上げておきます。それは、正しく整理すれば必ず解消できる種類の不安です。 あなたのこれまでのやり方を否定する話ではありません。これからの関係を、もっと確かなものにする話です。
3. 建設業法と取適法の境界線は「契約の目的」で決まる
では、本題に入ろう。建設業法と取適法の境界線は、どこにあるのか。
判断の基準は、たったひとつだ。「契約の目的」である。業種で決まるのではない。「建設業を営んでいるから」では決まらない。その取引で何を委託しているのか、その中身で決まる。同じ建設会社が同じ協力会社に出す発注でも、中身次第で適用される法律が変わる。ここを取り違えると、すべての判断が狂う。
公正取引委員会および中小企業庁は、「建設業を営む者が業として請け負う建設工事は(取適法の)対象とならない」と明示している。理由は単純だ。建設工事の下請負については、建設業法のなかに取適法と類似の保護規定がすでに置かれている。だから二重に規制する必要がない。それだけのことだ。
問題は、ここから先である。建設業者の取引には、「工事そのもの」ではない委託が、驚くほど多く含まれている。そこを知らずにいると、知らぬ間に違反していた、という事態になりかねない。判定は、3つのステップで進む。
STEP1:その委託は「工事の施工そのもの」か?
まず、これを問う。委託の中身は、建物や構造物を実際に造る作業そのものか。
YESなら、建設業法の世界だ。取適法は出てこない。NOなら、STEP2へ進む。たとえば「基礎工事の一部を協力会社に請け負わせる」はYES。建設業法の話だ。だが「設計事務所に施工図の作成を頼む」はどうか。これは工事の施工ではない。NOだ。STEP2に進むことになる。
STEP2:4つの取引類型
工事そのものでないなら、次の4つのどれかに当たらないかを確認する。
第一に、製造委託。 プレカット材を寸法・形状を指定して製造させる。特注のアルミサッシや鉄扉を仕様指定で製作させる。これらは「工事」ではなく「物の製造」が目的だ。取適法の対象になり得る。今回の改正では、対象となる目的物が広がり、金型に加えて「金型以外の型」(木型や治具など)も含まれるようになった。なお、カタログから既製品を買うだけなら単なる売買であり、対象外だ。
第二に、情報成果物作成委託。 設計図、施工図、BIMモデル、測量データ、各種報告書――成果物が「情報」である限り、取適法の対象となる。つまり、設計を外注する限り、取適法は適用される。 建設業で設計の外注を一切しない会社は、まずない。ここは他人事ではない。
第三に、役務提供委託。 改正で「特定運送委託」が新たに加わった。これは、製造などの目的物の引渡しに必要な運送を委託する取引を指す。建設現場をめぐる資材・機材の運送のうち、この類型に当たるものは対象となる。ただし、工事業者が自ら運送するなど、運送が工事履行の一部に組み込まれている場合は、運送だけを抜き出して対象とするわけではない。
第四に、修理委託。 建設機械や設備の修理を委託する場合、内容次第で対象となる。
STEP3:資本金基準+新設の従業員数基準
取引類型が該当しても、それだけでは適用されない。発注する側(委託事業者)と受ける側(中小受託事業者)の規模要件を満たして初めて適用される。
資本金基準は、製造委託・修理委託・特定運送委託などでは「資本金3億円超 対 3億円以下」、または「1千万円超3億円以下 対 1千万円以下」。情報成果物・役務提供委託などでは「5千万円超 対 5千万円以下」、または「1千万円超5千万円以下 対 1千万円以下」となる。
そして今回、決定的な変更が加わった。従業員数基準の新設である。 製造委託・修理・特定運送委託などでは「300人超 対 300人以下」、それ以外の情報成果物・役務提供委託では「100人超 対 100人以下」。資本金基準か従業員数基準か、どちらか一方に当てはまれば対象となる。
この意味は重い。これまで「資本金を低く抑えて下請法の対象を外れる」「減資して対象外になる」という手法が、現実に存在した。従業員数基準の導入は、その抜け道を封じるためのものだ。資本金1億円でも、従業員数が基準を超えていれば対象になる。「うちは資本金が小さいから関係ない」――その理屈は、もう通用しない。
2026年1月、下請法は「取適法」へ──建設業者が押さえるべき3大改正ポイント
2026年1月1日、下請法はその名称を改めた。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」、新しい通称は「取適法(とりてきほう)」である。「親事業者/下請事業者」という上下関係を思わせる呼称も、「委託事業者/中小受託事業者」へと変わった。だが、名前が変わっても、貫かれている筋道は変わらない。注文の中身を明確にし、代金の決め方と支払いを透明にし、無理なしわ寄せをしない。それだけだ。
建設業者が、特に押さえるべき改正の核心は3つある。
ひとつ、価格協議に応じない一方的な代金決定の禁止だ。 これは、取適法が委託事業者に課す遵守事項の一つとして、新たに明記された。従来の「買いたたき」規制は、決まった代金が著しく低いかどうか、という「結果」を見るものだった。だが今回は、協議のプロセスそのものに踏み込んでいる。中小受託事業者から価格協議の求めがあったのに、協議に応じない、必要な説明をしない――そうやって一方的に代金を決める行為が禁止された。「申し出がなかったから協議しなかった」は、もはや言い訳にならない。資材も労務費も高騰している今、協議のテーブルにつくこと自体が義務になった、と理解しておくべきだ。
具体的に考えてみよう。資材価格が大きく上昇したことを理由に、協力会社が単価の引き上げを申し入れてきた。それを「予算が厳しい」「他社は据え置きで受けている」と一蹴し、協議の場すら設けなかった――これは、典型的な問題例である。たとえ協議の結果として据え置きが妥当だったとしても、協議した記録がなければ、後から「ちゃんと話し合った」と証明できない。記録を残すこと。これが効いてくる。
ふたつ、手形払い等の禁止だ。 取適法の対象取引では、手形払いそのものが原則として禁止される。電子記録債権やファクタリングといった他の支払手段も、支払期日(受領日から起算して60日以内)までに代金相当額の満額を得ることが困難なものは認められない。建設業界には長期手形の慣行が根強く残ってきたが、これは見直しを迫られる。なお、ここで言っているのは取適法の対象となる「工事以外」の委託についての話だ。建設工事そのものの代金支払いについては、建設業法が別途規律している。
みっつ、書面の電磁的交付だ。 従来は、発注内容を記した書面を電子化するには、相手の事前承諾が必要だった。これが電子化のハードルになっていた。改正後は、相手の承諾がなくても、電子メール等で交付できるようになる。ただし、相手から「紙で欲しい」と請求があれば、遅滞なく書面を交付する義務が新設された点には注意が必要だ。
なお、委託事業者には、これら以外にも、発注内容を明示する義務、取引記録を2年間保存する義務、受領日から60日以内に支払期日を定める義務、支払いが遅れた場合に年率14.6%の遅延利息を支払う義務などが課されている。
なぜ、多くの経営者が動けないのか
ここで、先回りして本音を言っておく。
この記事をここまで読んでも、たいていの経営者は動かない。理由は3つだ。ひとつ、「結局うちが対象なのか、まだよく分からない」。ふたつ、「弁護士に相談したら、高い顧問契約を勧められそうで気が引ける」。みっつ、「行政の指導が入ったわけでもないし、今すぐやる理由がない」。
どれも、よく分かる。もっともな理由だ。だが、3つ目だけは、はっきり否定しておく。「今すぐやる理由がない」――これが一番危ない。 行政の指導や、協力会社からの申告は、ある日突然やってくる。来てから慌てても、過去の取引はやり直せない。間に合ううちに整えた会社だけが、何事もなく経営を続けている。それが現実だ。
4. 対応した建設会社が手に入れる「3つの未来」
では、きちんと対応した建設会社は、何を手に入れるのか。3つある。
ひとつ、行政指導・処分のリスクからの解放だ。 建設業の世界で、営業停止や指名停止がどれほどの打撃か、あなたが一番よく知っているはずだ。たとえば建設業法は、施工責任を曖昧にする一括下請負(いわゆる丸投げ)を原則として禁止しており、違反すれば営業停止処分が下りうる。公共工事なら指名停止も待っている。地場の建設業者にとって、これは事業の根を断たれるに等しい。その不安から、完全に自由になれる。
ふたつ、「経営者として、正しく判断している」という確信だ。 これは、自分一人の安心では終わらない。家族に、共同経営者に、顧問税理士に、銀行に――胸を張って「うちはきちんと対応している」と説明できる状態を意味する。後ろめたさのない経営は、判断のスピードそのものを上げる。
みっつ、そしてこれが本質だが――協力会社との関係は、むしろ強くなる。
書面化やルールの整備を、「関係をよそよそしくするもの」だと考えているなら、それは逆だ。曖昧なまま続く関係こそ、いつか必ずこじれる。「言った・言わない」で揉め、追加工事の費用負担で揉め、単価でぎくしゃくする。それを未然に防ぐのが、書面であり、ルールだ。
私たちが大分・九州の建設会社のご相談を受けるなかで、何度も目にしてきた光景がある。最初は「協力会社が気を悪くしないか」と渋っていた経営者が、いざ取引条件を文書で明確にしてみると、相手から「むしろ、こうしてもらえてやりやすくなった」と言われる。きちんとした会社だ、という信頼が積み上がる。長年の付き合いを守るためにこそ、ルールを整える。これは、関係を壊す話ではない。次の二十年、三十年へ関係をつなぐ話だ。
5. まず「自社が対象か」を5分で判定する
まず、自社が対象かどうかを、5分で確かめてほしい。この記事の末尾に、そのためのチェックリストを用意した。手元の取引を思い浮かべながら、上から順にチェックしていけばいい。
「相談したら、高額な顧問契約を勧められる」は誤解です
そのうえで、最後のためらいに答えておく。
「弁護士に相談したら、高い顧問契約を勧められるのではないか」。この心配で踏み出せない経営者は、本当に多い。だから、はっきり言っておく。その心配は要らない。 弁護士法人リブラ法律事務所では、相談と契約を完全に分けている。初回相談に来られて、相談のみで終了される方も多くいらっしゃる。それでいい。まずは「自社が取適法の対象なのか」「どこから手をつければいいのか」を確かめる。それだけで、漠然とした不安の正体が、はっきりした課題に変わる。
東京の大手事務所ではなく、大分・九州の中小建設業の実情を知る私たちだからこそ、地場の協力会社との付き合い方も含めて、現実的な落としどころを一緒に考えられる。同じ「対応せよ」でも、現場を知らない一般論と、地元の事情を踏まえた助言とでは、まるで違う。
6. よくあるご質問
Q1. 初回相談はいくらかかりますか?
30分5,500円(税込)です。Web相談・電話相談も同額です。
Q2. 何を準備すればよいですか?
準備は不要です。手元に契約書・注文書・取引先とのやり取りの記録などがある方は、お持ちいただくとより具体的な助言ができます。
Q3. その場で契約を迫られませんか?
相談と契約は完全に分けています。初回相談に来られて、相談のみで終了される方も多くいらっしゃいます。
Q4. 社内・取引先に知られませんか?
弁護士には守秘義務があります。経営者ご本人とのやり取りに限定する設計も可能ですので、協力会社や社内に知られることなくご相談いただけます。
Q5. 相談だけで終わってもいいですか?
もちろんです。相談のみで終了される方も多く、それで構いません。「自社が取適法の対象か」を確かめるだけでも十分に意味があります。
Q6. 今から取引条件を書面化したら、長年の協力会社との関係が悪くなりませんか?
むしろ逆のケースが多いです。条件を明確にすることで「言った・言わない」のトラブルが減り、相手から「やりやすくなった」と言われることも少なくありません。関係を壊さずに進める伝え方も含めてご相談いただけます。
Q7. これまで口頭発注や単価据え置きをしてきました。過去の分も問題になりますか?
まずは現状を確認し、これからどう整えるかが中心になります。過去の取引をいたずらに問題視するのではなく、リスクの大きいところから優先順位をつけて対応する、現実的な進め方をご提案します。
Q8. うちは資本金が小さいのですが、それでも対象になりますか?
2026年1月の改正で従業員数基準が加わったため、資本金が小さくても従業員数によっては対象になります。「資本金が小さいから関係ない」という判断は、改正後は通用しないケースがあります。ここはまさに確認すべきポイントです。
大分県で弁護士をお探しの建設業の方へ
7. ご相談はこちら
「自社が対象か分からない」「どこから手をつければいいか分からない」――そう感じたら、まずは確かめるところから始めてください。
弁護士法人リブラ法律事務所
大分市中島中央2-2-2
電話:097-538-7720/FAX:097-538-7730
Email:lybra@triton.ocn.ne.jp
初回相談料:30分5,500円(税込)/Web相談・電話相談対応/相談のみで終了も可能
【稟議・家族相談材料】(配偶者・他役員・顧問税理士・銀行にそのままお見せください)
2026年1月、下請法が「取適法」へ改正・施行された。建設工事そのものは対象外だが、設計の外注・プレカット材の製造委託・特定運送委託などは建設業者でも対象になり得る。今回、資本金基準に加え従業員数基準(300人/100人)が新設され、対象が拡大した。違反は指導・勧告の対象で、支払遅延には年14.6%の遅延利息も生じる。当社が対象か確認すべき段階にある。弁護士法人リブラ法律事務所(大分市・097-538-7720)は初回30分5,500円、Web相談可、相談のみでも可。まず現状確認から相談したい。
8.自社ケース判定チェックリスト
手元の取引が取適法の対象になる可能性を確かめるチェックリストはこちらです。
Last Updated on 6月 4, 2026 by kigyo-lybralaw
事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。 |




