社長や管理職の業務命令に従わないからといって、すぐにはその従業員を懲戒
処分することはできません。対処を間違えるとバックペイを求められることも。
1. 労働者は業務命令に従わなくともよいのですか?
そうではありません。
労働者は、経営者に対して、雇用契約に基づき、誠実労働義務を負います。
この「誠実労働義務」とは、経営者からの指揮命令に則って労務を提供する義務のことです。このため、労働者は、基本的に経営者の命令に従うべき立場にあります。労働者としては、業務に関する自分の意見が正しい、と考えるときもあろうかと存じますが、だからといって業務命令に背いてよいわけではありません。
▼関連記事はこちらから▼
社長や上司の指示に応えられない社員を解雇できるか?-問題社員対応(モンスター社員対応)について弁護士が解説!-
2.経営者は、労働者が業務命令に背けば社内ですぐに懲戒処分が可能か
この点も、処分の内容によってはそうとはいえません。
就業規則に、業務命令への不服従が懲戒事由(明示又は一般条項として)となっている場合、従業員が命令違反を繰り返すと、就業規則に基づいて懲戒処分をなすことも可能と言えそうです。
もっとも、懲戒処分としての解雇は慎重に、といえます。
裁判例では、従業員が、職場で、上司からボイスレコーダーを用いた録音を止めるよう再三にわたり業務命令を受けていたのに録音を止めなかったことから、会社側がその従業員を解雇した事案で、解雇を有効と判断したこともあります。使用者側は従業員に対して、労働契約に基づく指揮命令権や施設管理権限があることを根拠としています。
もっとも、この従業員は、以前も同じ理由で懲戒処分を受けていたことから、それ以上の懲戒処分を科しやすい事案であったともいえます。この裁判例は、単純に指揮命令に違反したことのみを根拠としたのではないといえます。
ここで、業務命令違反による懲戒処分が認められるかどうかの考慮要素を紹介します。
・業務命令が実際に発せられていると評価できること
・業務命令違反の事実が存在すること
・業務命令違反が就業規則の懲戒事由となっていること
・懲戒処分の程度が不相当に重くないこと
・懲戒手続が適正であること
ポイントとなる要件について説明します。
業務命令が実際に発せられている
例えば、上司が部下に対して「要請」「お願い」という程度の言い方であった場合は、業務命令と評価できない、ということです。部下の「業務命令とは思わなかった(業務命令なら従ったのに)」という言い訳を許すような言い方は宜しくありません。
また、その従業員の職務外の行為を業務命令として指示できるか、という点も問題となり得ます。
懲戒処分の程度が不相当に重くないこと
処分の程度が不相当に重くないかどうかは、業務命令違反行為の性質、態様、被処分者の勤務歴、他の同種事例における処分の程度、に照らして判断します。
懲戒手続が適正であること
労働契約や就業規則上、懲戒解雇に先立ち、労働者への弁明機会の付与が要求されている場合にこれを怠ったときは、懲戒解雇が無効と判断される可能性が高まる、と考えてください。
そもそも、労働契約や就業規則上に弁明の機会が与えられていなくとも、弁明の機会を付与しなかった場合は手続上の瑕疵が認められる、という見解もあるほどです。懲戒処分をする際には、労働者に対して、弁明の機会を付与する等の手続を履践した方が無難です。
▼関連記事はこちらから▼
会社の財産を横領する問題社員への対処法!-弁護士によるモンスター社員対応-
3 経営者は業務命令に背きがちな従業員にどう向き合うか
そもそも、その従業員が業務命令に背く理由について、経営者側に心当たりはありませんか?例えば残業代を支払っていないとか、職場の安全配慮が十分でないとか、従業員が経営者に対して何らかのシグナルを送っている、という可能性は考えられないでしょうか。経営者に対するシグナルであれば、その従業員は処分したとしても、そのあとにも、業務命令に従わない従業員がでてくる可能性があります。まずは、自社が労働法規や就業規則に則った運営ができているのかを確認する必要性もあるかと存じます。
そもそも、業務命令に従わない従業員に対する確たる対処方法を決めている会社はさほど多くないといえます。というのも、会社は、人を採用することには慣れている反面、命令に従わない従業員がいることを想定した経営体制を構築していないからです。
業務命令に従わない従業員への対処法は、早い段階で、弁護士にご相談して いただければ、適切な対応をとることが可能です。ご相談をご検討ください。
Last Updated on 8月 13, 2024 by kigyo-lybralaw
この記事の執筆者 事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。 |