運送業の「荷待ち時間」は労働時間か?法的判断と運送業者の対応策

0 本原稿のポイント

荷待ち時間が労働時間とみなされたら未払残業代を請求される可能性

荷待ちが労働時間となる理由

荷待ち時間を放置した場合のリスク

事業者が今すぐできる対応策

運送業界の現場では、長年「荷待ち時間の労働時間性」という法的問題が存在し、事業者が賃金を支払うべきか否か、頭を悩ませてきました。 

荷待ち時間とは、ドライバーが荷主の都合により、荷物の積み込みや荷降ろしのために待機させられる時間を指します。具体的には、指定された時間に到着したにも関わらず、荷役作業の準備ができていない、他のトラックの作業が終わるのを待つ、あるいは単に指示を待つといった状況が挙げられます。この時間は、ドライバーにとっては運転業務そのものではないものの、指定された場所から動けず、他の業務を行うこともできず、ひたすら待機を強いられます。いわば「拘束された時間」です。

この荷待ち時間が「労働時間」に該当するのか否かは、運送事業者にとって重要な問題です。なぜなら、もし荷待ち時間が労働時間に該当すると判断されれば、企業はドライバーに対してその時間に応じた賃金(時間外労働であれば割増賃金を含む)を支払う義務が生じ、また、労働時間に応じた休憩時間を与えなければならないからです。事業者がかかる義務を怠れば、未払い残業代の請求リスクや労働基準監督署による是正勧告、さらには企業イメージの低下や人材確保の困難化につながる可能性があります。特に、2024年4月からトラックドライバーにも時間外労働の上限規制(原則年間960時間)が適用されたことを踏まえれば、荷待ち時間を含む労働時間の正確な把握、長時間労働にならないような労働時間の管理は、コンプライアンス遵守と事業継続の両面から

喫緊の課題となっています。

本稿では、この運送業界特有の「荷待ち時間」に焦点を当て、労働時間の基本的な考え方から、荷待ち時間が労働時間に該当するかどうかの具体的な判断基準、関連する重要な裁判例、そして企業が取るべき具体的な対応策を詳細に解説いたします。

1 「労働時間」とは(労働基準法の基本原則)

荷待ち時間の労働時間性を理解する上で、労働基準法における「労働時間」の定義を正確に把握しておく必要があります。労働基準法には、「労働時間」そのものを直接定義した条文はありません。しかし、最高裁判所の判例(三菱重工業長崎造船所事件 最高裁 平成12年3月9日判決など)によって確立された考え方として、「労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間(つまり、会社の指示で動かざるを得ない時間)をいう」と解されています。

この「指揮命令下に置かれている時間」とは、現実に作業に従事している時間だけを指すのではありません。重要なのは、労働者が使用者の明示または黙示の指示により、その指揮命令のもとで、業務に関連する活動を義務付けられているか、あるいはそのような状況下に置かれているかどうかです(黙示的な指示があるといえる場合も指揮命令下におかれているといえます)。

明示的な指示:使用者が具体的に「〇〇の作業をしなさい」「ここで待機

しなさい」と指示している場合。

黙示的な指示:明確な指示がなくとも、業務の性質上、特定の場所にいる

ことや、指示があれば即座に対応できる状態を維持することが客観的に要

求されている場合。例えば、消防士が消防署内で出動に備えて待機して

いる時間などがこれに該当します。

このことから、「手待ち時間(てまちじかん)」も、原則として労働時間に該当します。手待ち時間とは、実際に作業はしていないものの、次の作業指示や顧客の来店などに備えて待機している時間のことです。運送業における荷待ち時間は、この手待ち時間の一種と考えられるケースが多いです。例えば、タクシー運転手が客待ちをしている時間、飲食店の店員が、お客様がいない間も店内で待機している時間は、いずれも労働時間に含まれます。

雑駁にいえば、労働時間か否かを判断する要素は「労働からの解放が保障されているかどうか」です。たとえ作業をしていなくても、使用者の指揮命令下から完全に解放され、労働者がその時間を自由に利用することが保障されていない限り、それは労働時間とみなされる可能性が高いです。

係る基本原則を念頭に置いた上で、ドライバーの荷待ち時間が具体的にどのような場合に労働時間と判断されるかを詳しく見ていきます。

2 ドライバーの「荷待ち時間」が労働時間と判断される要素

ドライバーの荷待ち時間が労働時間に該当するか否かは、上記「使用者の指揮命令下に置かれている時間か否か」という基本原則に基づき、個々の具体的な状況に照らして判断されます。特に重要となる判断要素は以下の通りです。

判断要素内容
(1)場所的拘束性ドライバーが、荷主の敷地内や指定された待機場所など、特定の場所から離れることを許されていない場合、指揮命令下にあると判断され易いです。 たとえ車両内での待機であっても、自由にその場を離れることができなければ、場所的な拘束があるとみなされます。 荷主や会社の指示、あるいは業務の性質上、その場に留まることが実質的に義務付けられているかが重要です。
(2)即時対応義務(作業への即応性)荷主や会社の指示があれば、直ちに荷積み・荷降ろし作業や車両の移動など、次の業務に取り掛かる必要のある状態は、指揮命令下にあると判断され易いです。 「呼ばれたらすぐに行かなければならない」「いつ呼ばれるか分からないから離れられない」といった状況は、労働からの解放が保障されていない状態です。
(3)指揮命令の存在(明示・黙示)荷主や運行管理者から「ここで待機していてください」「〇〇時まで待ってください」といった明示的な指示がある場合はもちろん、明確な指示がなくとも、慣例や業務フロー上、待機することが当然とされている場合(黙示の指示)も、指揮命令下にあると判断され易い要因です。 待機中に日報作成などの付随業務を行うよう指示されている場合も、当然労働時間となります。
(4)業務との関連性荷待ち時間が、本来の運送業務(荷物の積み込み、輸送、荷降ろし)を遂行する上で、必要不可欠なプロセスの一部となっている場合、労働時間性が肯定され易いです。 私的な休憩とは異なり、業務の都合によって発生している待機であるという点が考慮されます。

(5)具体例から見る判断のポイント

労働時間と判断されやすい例

荷主の工場ゲート前で、入場許可が出るまで車両内で待機(いつ呼ばれるか分からず、離れることができない)。

配送センターのバース(接車場所)が空くのを、指定された待機レーンで待つ

(他のトラックの作業状況を常に気にかけ、指示があればすぐに移動する必要がある)。

早朝に到着したが、荷主の業務開始時間まで門の前で待機するよう指示された。

自社の車庫に戻り、次の配送指示を待っているが、休憩時間として明確

に指示されておらず、いつ指示が出るか分からない状態。

労働時間と判断されない可能性のある例(注意が必要)

長距離フェリー輸送中の乗船時間で、車両甲板から離れ、客室等で完全

に自由な時間が保障されており、会社からの指示や連絡も一切ない場

合(ただし、緊急連絡体制などがあれば労働時間性が問われる可能性

もある)。

「〇時から〇時までは完全に休憩時間とし、指示もしない。自由に過ご

して良い」と明確に指示され、実際にドライバーがその場所を離れて

休憩できる状態が確保されている場合(実態はどうだったかが重要)。

このように、荷待ち時間が労働時間にあたるかは、単に「待っている」という事実だけでなく、その間の拘束性の程度、指示の有無、自由利用の可否という具体的な状況を総合的に評価して判断されます。多くの運送現場における荷待ち時間は、これらの要素から労働時間と判断される可能性が高いです。

3 判例に学ぶ(「大星ビル管理事件」)

ドライバーの荷待ち時間そのものではありませんが、待機時間の労働時間性について、実務上、重要な判例は「大星ビル管理事件」(最高裁 平成14年2月28日判決)です。この事件は、ビル管理会社の従業員らの「仮眠時間」が労働基準法上の労働時間に該当するかが争われた事案です。荷待ち時間の労働時間性を検討する際にも参考になります。

(1)事案の概要

大星ビル管理の従業員らは「仮眠時間」を与えられていました。

もっとも、従業員らは、仮眠時間中も、配属先のビルからの外出を原則として禁止され、仮眠室における在室や電話の接受、警報に対応した必要な

措置を執ること等が義務付けられ、飲酒も禁止されていました。

会社側は、仮眠時間は労働時間ではないとして、賃金の支払い対象外としていました。これに対し、ドライバー側が仮眠時間も労働時間にあたるとして、未払い賃金の支払いを求めて提訴しました。

(2)最高裁判所の判断

最高裁は、「労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう」という従来の判断枠組みを再確認した上で、問題となった仮眠時間について、「労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働からの解放が保障されているか否かによって判断すべき」としました。

また「当該時間において、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である」と判示しました。

本件で、従業員らは、仮眠時間中であっても、配属先のビルからの外出を原則として禁止され(場所的拘束性)、仮眠室における在室や電話の接受、

警報に対応した必要な措置を執ること等が義務付けられ(即時対応義務)、

飲酒も禁止されていました(労働から解放されていたとはいえない)。この

ため、本件では従業員らが「労働からの解放が保障されているとはいえず、

使用者の指揮命令下に置かれていた」と結論付け、仮眠時間を労働時間と

認めました。

(3)荷待ち時間への適用

この大星ビル管理事件の判決は、たとえ「仮眠」されていても、実態と

して①労働からの解放が保障されておらず、②場所的な拘束があり、③指示

があれば即時に対応しなければならない義務がある場合には、労働時間に該

当するという明確な基準を示しました。

係る考え方は、運送業における「荷待ち時間」にも当てはまります。荷主

の都合で待機を強いられ、その場を離れることができず、いつ始まるか分か

らない荷役作業に備えなければならない荷待ち時間は、この判例の基準に

照らして、労働時間と判断される可能性が高いです。

この判例から分かることは「(労働時間は)名称等の形式ではなく実態で

判断される」ということです。会社が一方的に「これは休憩時間だ」と主張

しても、あるいは給与明細上、労働時間から除外していたとしても、実態と

してドライバーが使用者の指揮命令下(場所的拘束、即時対応義務など)に

置かれていれば、法的には労働時間として扱われ、賃金支払いの対象となり

ます。つまり、運送業の事業主には、ドライバーの労働時間を管理するため

の措置が求められています(どのような状況でどれだけの時間待機したの

か、客観的な記録を残しておく必要性)。

4 労働時間と判断された場合の法的義務とリスク

荷待ち時間が労働時間と判断される場合、運送事業者には労働基準法に基づき、以下の法的義務が生じます。これらの義務を怠った場合、様々なリスクに直面することになります。

(1)休憩時間の付与義務 (労働基準法第34条)

労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は

少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければなりません。

荷待ち時間が労働時間に含まれることで、1日の総労働時間が長くなり、

結果として法定の休憩時間を満たせなくなる可能性があります。また、休憩

時間は、労働者が労働から完全に解放され、自由に利用できる時間でなけれ

ばなりません。荷待ち時間を休憩時間として扱うためには、その間、一切の

指揮命令から解放されている実態が必要です。

(2)割増賃金の支払い義務 (労働基準法第37条)

待ち時間を労働時間として算入した結果、法定労働時間(原則1日8時

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間、1週40時間)を超えた場合は、その超過時間に対して時間外労働割増賃

金(2割5分以上、月60時間超は5割以上※中小企業も2023年4月~)を

支払わなければなりません。法定休日(原則週1日)に労働させた場合は、

休日労働割増賃金(3割5分以上)が必要です。

また、午後10時から午前5時までの間に労働させた場合は、深夜労働 割増賃金(2割5分以上)が必要です。時間外労働かつ深夜労働の場合は、合計5割以上(月60時間超部分なら7割5分以上)の割増率となります。

荷待ち時間は長時間に及ぶことも多く、これが労働時間とされることで、

高額な割増賃金の支払い義務が発生する可能性があります。

(3)未払い残業代請求のリスク

荷待ち時間を労働時間として扱わず、適切な割増賃金を支払っていなかっ

た場合、ドライバー(退職者含む)から過去に遡って未払い残業代を請求さ

れるリスクがあります。

賃金請求権の消滅時効は、当分の間3年(労働基準法第115条、附則第143条)とされています。つまり、最大で過去3年分の未払い残業代(及び遅延損害金)を請求される可能性があるのです。このため、請求額は、ドライバーの人数や未払いの期間、荷待ち時間の長さによって、極めて高額になるケースも少なくありません。これは企業の経営に深刻な影響を与えます。

(4)労働基準監督署による調査・指導

ドライバーからの申告や定期的な調査により、労働基準監督署が荷待ち

時間の取り扱いを含む労働時間管理の実態を調査することがあります。

調査の結果、法令違反(割増賃金の未払い、休憩時間の不付与など)が

認められた場合、是正勧告が出され、遡及して未払い賃金を支払うよう指導

されます。事業者の行為が悪質と認められる場合や是正勧告に従わない場合

は、書類送検され、罰則(労働基準法違反には懲役や罰金刑が定められて

います)が科される可能性もあります。

(5)その他のリスク

企業イメージの低下

法令違反が明らかになれば、いわゆる「ブラック企業」としてのレッ

テルを貼られ、社会的な信用を失う可能性があります。

人材確保の困難化

労働条件の悪さが知られれば、新たなドライバーの採用が困難になる

だけではなく、既存ドライバーの離職にもつながり、人手不足がさらに

深刻化します。

訴訟リスク

未払い残業代請求が裁判に発展した場合、時間的・金銭的なコストが

かかるだけでなく、敗訴した場合には付加金(未払い額と同額)の支払

いを命じられる可能性もあります(労働基準法第114条)。

これらのリスクを回避するためには、荷待ち時間を原則として労働時間と

捉え、適正な労働時間管理と賃金支払いを行うことが不可欠です。

5 企業が取るべき具体的な対策(荷待ち時間問題への実践的アプローチ)

荷待ち時間問題に起因する法的リスクを回避し、ドライバーが働きやすい環境を整備するためには、運送事業者として以下の具体的な対策を講じることが重要です。これらは単に法的な義務を果たすだけでなく、企業の生産性向上や人材確保にも繋がる取り組みです。

もっとも、下記の全てを一度に行うのは大変です。

まずは、最もリスクが高く、改善効果が見えやすい部分から着手しましょう。例えば、①デジタコ等で『どこで』『どれだけ』荷待ちが発生しているか記録し、②特に長い荷待ちが発生している荷主を特定することから始めてみる

のはいかがでしょうか。

(1)正確な労働時間管理体制の構築

項目内容
客観的な記録方法の導入・活用・デジタルタコグラフ(デジタコ)のデータを活用し、運転時間だけでなく、荷役や待機などの作業時間も正確に記録・分析する。GPS機能付きであれば、待機場所の特定にも役立ちます。 ・タイムカード(始業・終業時刻だけでなく、休憩開始・終了時刻も打刻)、業務日報(作業内容、場所、開始・終了時刻を詳細に記録)、スマートフォンのアプリ等を組み合わせ、客観性と網羅性を高める。 ・手書きの日報の場合は、具体的な待機理由や場所を記載させるように指導する。
荷待ち時間の実態把握と可視化・記録されたデータを分析し、「どの荷主で」「どれくらいの時間」「どのような理由で」荷待ちが発生しているのかを具体的に把握・可視化することで、荷主との交渉や業務改善のデータとなります。 ・ドライバーへのヒアリングも定期的に行い、記録だけでは分からない実情を把握します。
休憩時間との明確な区別と運用ルールの徹底・休憩時間は「労働からの完全な解放」が原則です。就業規則等で休憩時間の開始・終了時刻を明確に定め、その時間中は業務指示を行わない、ドライバーが自由に場所を移動したり過ごしたりできることを保障するルールを徹底します。 ・荷待ち時間中にやむを得ず休憩を取らせる場合は、「○時から○時まで休憩」と明確に指示し、その間の業務指示は行わないこと、自由利用を妨げないことを確認・記録する必要があります。ただし、場所的拘束がある状況での休憩指示は、労働時間と判断されるリスクが残るため、可能な限り避けるべきです。
36協定の適切な締結と運用時間外労働を行わせる場合は、必ず労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。 荷待ち時間を含めた労働時間が協定の上限を超えないよう管理します。

(2)賃金制度の適正化

項目内容
荷待ち時間を含めた残業代計算荷待ち時間を労働時間として正確に把握し、法定労働時間を超える部分については、労働基準法で定められた割増率(2割5分以上、休日3割5分以上、深夜2割5分以上、時間外+深夜5割以上など)で計算した割増賃金を確実に支払います。
固定残業代制度(みなし残業代)の注意点と見直し・固定残業代制度を導入している事業者は多いです。 制度設計を間違うと「基本給」とみなされて残業代を計算することになり、更に高額の残業代を支払わされることになりかねませんので、以下の点に注意し、必要に応じて見直しが必要です。 ・基本給部分と固定残業代部分が明確に区別されていること。 ・固定残業代が何時間分の時間外労働等に対するものか明示されていること。 ・実際の時間外労働等が固定残業時間を超えた場合は、その差額を別途支払うこと。 ・固定残業代の計算基礎となる単価が最低賃金を下回っていないこと。 ・荷待ち時間を含めると、固定残業時間を大幅に超過するケースが多くないか確認し、制度自体や固定残業時間の設定が実態に合っているか見直す。
歩合給と割増賃金の関係整理完全歩合給制であっても、労働時間に応じて計算した額が最低賃金を下回る場合は差額の支払いが必要です。 また、歩合給制であっても時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金の支払いは必要です。 計算方法が複雑になるため、専門家への相談を検討しましょう。

(3)荷主との建設的な対話と交渉

項目内容
荷待ち時間削減への協力要請事業主が把握したドライバーの荷待ち時間の実態データに基づき、具体的な改善策(荷役作業の効率化、パレット化の推進、バース予約システムの導入、受付時間の柔軟化など)を荷主に対して提案し、協力を要請します。
待機料金、契約条件の見直し荷主との契約で、一定時間を超える荷待ちが発生した場合の待機料金(ペナルティ)の設定や、運賃への反映を交渉します。 国土交通省が推奨する「標準的な運賃」を参考にして適正な対価を求める姿勢が重要です。
「トラックGメン」制度の活用国土交通省に設置された「トラックGメン」は、荷主や元請事業者の不適切な行為(不当な長時間荷待ちの強要など)に関する情報収集や是正の働きかけを行っています。 悪質なケースについては、相談・情報提供を検討します。

まずは、荷主に対して『2024年問題で弊社も労働時間管理が厳しくなり、荷待ち時間の正確な把握と削減にご協力をお願いしたい』といった形で、

法律遵守の必要性を切り口に相談してみてはいかがでしょうか。

また、具体的なデータを示しつつ、『〇〇分以上の待機には、標準運賃で推奨されている待機料金のご検討をお願いできませんでしょうか』と、具体的な”お願い”ベースで伝えるのも一手です。

(4)就業規則・労使協定の整備

労働時間、休憩、休日、賃金(特に割増賃金の計算方法)に関する規定を、最新の法令や判例、自社の実態に合わせて明確に整備・改定します。

荷待ち時間の原則的な取り扱い(労働時間として扱うこと)や、休憩時間との区別に関する社内ルールを明文化し、周知徹底します。

(5)ドライバー教育とコミュニケーション

ドライバーに対して、労働時間管理の重要性、デジタコや日報等の正しい

記録方法、休憩時間の適切な取得方法などを定期的に教育・指導します。

会社の労働時間管理方針や賃金制度について丁寧に説明し、理解と協力を得ることが重要です。

日頃からドライバーとのコミュニケーションを密にし、現場の実態や意見を吸い上げ、改善に活かす姿勢が求められます。

これらの対策は、それぞれが独立しているのではなく、相互に関連しています。正確な労働時間の把握が、適正な賃金計算や荷主との交渉の基礎となり、就業規則の整備やドライバー教育が、ルールの定着を促します。一つ一つ着実に進めることが、荷待ち時間問題への有効なアプローチとなります。

6 2024年問題と荷待ち時間(対策が求められます)

2024年4月1日から、自動車運転業務(トラックドライバー)に対して、

時間外労働の上限が原則として年960時間(月平均80時間)に制限される「働き方改革関連法」が適用されます。運送業界における長年の課題であった長時間労働の是正に向けた大きな一歩ですが、同時に多くの事業者にとって、これまでの働き方や業務プロセス、そして収益構造の見直しを迫る、いわゆる「2024年問題」として大きな影響を与えています。

この時間外労働の上限規制と、「荷待ち時間」の問題は関連しています。

(1)上限規制遵守の鍵としての荷待ち時間削減

年間960時間という上限は緩いものではありません。特に、これまで長時間労働が常態化していた事業者にとっては、この上限を遵守するためには、労働時間そのものを削減する必要があります。その際に、運転時間や荷役時間といった実作業時間を削ることは、輸送能力の低下に直結します。

一方で、これまで労働時間として十分に認識・管理されてこなかった「荷待ち時間」は、削減努力によって労働時間を短縮できる、いわば「改善の余地が大きい」時間です。荷待ち時間を削減できれば、その分を実作業時間やドライバーの休息に充てることができ、上限規制の遵守と輸送効率の維持・向上の両立につながります。

(2)生産性向上とドライバー確保への直結

荷待ち時間は、ドライバーにとっても事業者にとっても、いわば非生産的な時間です。この時間を削減することは、ドライバーの拘束時間を短縮し、より効率的な運行を可能にします。結果として、ドライバーの負担軽減や

待遇改善(実働時間に見合った収入の確保)につながり、離職防止や新規

ドライバーの確保にも好影響を与えることが期待されます。労働時間規制が強化される中で、働きがいのある環境を提供できるかどうかが、企業の競争力を左右する重要な要素となります。

(3)荷主との連携強化の必要性

荷待ち時間の発生要因の多くは、荷主側の都合(荷役準備の遅れ、非効率な作業体制、一方的な時間指定など)にあります。上限規制の遵守と事業継続のためには、これまで以上に荷主に対して、荷待ち時間の実態データを示し、具体的な改善策(予約システムの導入、パレット化、荷役作業の分担見直しなど)を提案・要求していく必要があります。「標準的な運賃」の届け出・活用や、必要であれば「トラックGメン」への相談も視野に入れ、適正な取引関係を構築することが不可欠です。

2024年問題への対応は、単に法律を守るという受け身の姿勢ではなく、これを機に非効率な「荷待ち時間」を削減し、生産性を高め、ドライバーが働きやすい環境を実現する、攻めの経営改革のチャンスと捉えるべきです。荷待ち時間の管理と削減は、今や運送事業者が避けては通れない、最重要課題の一つなのです。

7 まとめ(持続可能な運送業実現のために)

運送業界における「荷待ち時間」は、その多くが「労働時間」に該当する可能性が高いです。荷待ち時間に対応せず、適切な労働時間管理や賃金支払いを怠ることは、未払い残業代請求、労働基準監督署の指導、人材流出、そして企業信用の失墜といった深刻なリスクに直結します。特に、2024年4月からの時間外労働上限規制の適用開始により、荷待ち時間を含む総労働時間の管理と削減は、コンプライアンス遵守と事業継続の両面から、もはや待ったなしの状況です。企業が取るべき道は明確といえます。

(1)荷待ち時間は原則として労働時間であると認識すること。

(2)デジタコ等を活用し、客観的かつ正確に労働時間(荷待ち時間を含む)を把握・記録すること。

(3)把握した労働時間に基づき、適正な休憩時間を付与し、割増賃金を正確

に計算・支給すること。

(4)荷待ち時間の実態データを基に、荷主と建設的な対話を行い、削減に

向けた協力を要請すること。

(5)就業規則や賃金制度を法令や実態に合わせて整備し、ドライバーへの

周知徹底を図ること。

これらの取り組みは、一見するとコスト増や手間がかかるように感じるかもしれません。しかし、長期的な視点で見れば、法的リスクを回避し、ドライバーの労働環境を改善し、生産性を向上させ、ひいては社会インフラである運送業を持続可能なものにしていくための、必要不可欠な投資です。

ところで、運送業の事業主の皆様は、下記の点についてお悩みではないで

しょうか。

「自社の荷待ち時間の扱いは法的に問題ないか?」

「デジタコのデータはあるが、どう分析・活用すれば良いか分からない」

「固定残業代制度を見直したいが、具体的な方法が分からない」

「荷主との交渉を有利に進めるためのアドバイスが欲しい」

「2024年問題に対応できているか不安だ」

これまでご確認をいただいたとおり、荷待ち時間を含む労働時間管理や賃金制度は、法的な専門知識が必要であり、対応を誤ると大きなリスクにつながる可能性があります。

リブラ法律事務所では、貴社の状況を丁寧にヒアリングし、労働時間管理体制の構築、就業規則や賃金規定の見直し、荷主対応のアドバイス、助成金の活用提案まで、具体的な解決策をご提案いたします。

まずはお気軽にお問い合わせいただき、貴社のお悩みをお聞かせください。リスクを回避し、ドライバーが安心して働ける、持続可能な経営基盤を築く

お手伝いをさせていただきます。

Last Updated on 6月 10, 2025 by kigyo-lybralaw

この記事の執筆者
弁護士法人リブラ総合法律事務所

事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。

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