1. 製造業の経営者からよくいただくご相談
大分で工場を経営されている方から、当事務所には次のようなご相談が寄せられます。
・「何度注意しても改まらない社員がいる。だが強く言うと『それはパワハラです』と返される」
・「退職した従業員の代理人弁護士から、残業代を請求する内容証明が届いた」
・「裁判所から労働審判の呼出状が届いた。期日まで1か月しかない」
・「構内で請負会社の作業員に直接指示を出しているが、これは問題ないのか」
・「見たことのない労働組合から団体交渉の申入書が届いた」
心当たりのある方は、少なくないはずです。
どのご相談にも、共通する背中合わせの事情があります。「本当はもっと早く手を打ちたかった。だが、あの社員に辞められたら夜勤のシフトが組めない」「総務は経理と兼務の一人だけで、労務の専門知識までは手が回らない」──対応が遅れたのは、経営者の怠慢ではなく、人手不足という構造のせいです。その前提に立ったうえで、それでも打てる手を、これからお示しします。
背景には製造業特有の構造があります。経済産業省の資料によれば、製造業の就業者数はこの約20年で1割以上減少しました。限られた人員で多能工化も追いつかないまま、一人欠けるとラインが止まる。だから問題のある社員にも強く言えず、辞められては困るから曖昧な雇用条件も見直せない。問題は先送りされ、ある日、内容証明や呼出状という形で一気に表面化します。
本記事では、大分・九州の中小製造業に的を絞り、生じやすい労務トラブル8類型の構造と初動、法改正の最新動向、そして弁護士に何ができるのかを解説します。
2. 製造業で生じやすい8つの労務トラブル
先に、8類型すべてに共通する結論を述べておきます。労務トラブルの勝敗を分けるのは、「記録」「書面」「初動」の3つです。各類型を読みながら、自社にこの3つが備わっているか、確かめてみてください。
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2-a 問題社員への対応 「口頭で何度も注意した」は、法的にはゼロ回
結論から言えば、記録に残っていない注意指導は、後の紛争では「なかったこと」になります。
無断欠勤、協調性の欠如、指示違反──問題行動への対応として多くの経営者が取るのが「口頭での注意の繰り返し」です。しかし、いざ解雇や退職勧奨の局面になると、会社側は「改善の機会を十分に与えた」ことを証明しなければなりません。そこで証拠となるのは、指導記録・注意書・改善指導書といった書面だけです。書面がなければ、どれだけ丁寧に指導していても、解雇は「性急で無効」と判断されるリスクが高くなります。
手順はこうです。①事実を特定した指導記録を残す、②改善されなければ書面で注意・警告する、③それでも改善されない場合にはじめて処分を検討する。この順番を踏んでいるかどうかが、すべてです。
2-b 現場のハラスメント 「指導」と「パワハラ」の線引き
2022年4月から、中小企業を含むすべての企業にパワハラ防止措置(相談窓口の設置等)が義務付けられています。未対応であれば、まずそこからです。
その上で、経営者・現場リーダーの萎縮に答えておきます。業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な指導は、パワハラには該当しません。問題になるのは、人格への攻撃(「だからお前はダメなんだ」)、他の従業員の面前での長時間の叱責、達成不能なノルマの強要といった、業務上の必要性・相当性を欠く言動です。つまり、2-aで述べた「事実を特定した記録に基づく指導」は、パワハラ対策としても機能します。記録は、従業員を守ると同時に、指導する側をも守るのです。
なお、明確な暴言がなくても職場環境を悪化させる「不機嫌ハラスメント(フキハラ)」については、別記事で詳しく解説しています。
>部下から「フキハラ」の訴えを受けた経営者へ|パワハラ3要件で考える、その不機嫌は問題にできるのか
2-c 未払い残業代トラブル 「申請がなかった残業」にも支払義務はある
「うちは残業を申請制にしているから、申請のない分は残業ではない」──この理屈は、裁判では通りません。労働時間は実態で判断されます。申請がなくても、会社が残業を黙認していた(知り得たのに止めなかった)場合、それは労働時間です。
製造業で特に危ないのは、①始業前の段取り・清掃・朝礼、②「名ばかり工場長」(権限も待遇も伴わない管理監督者扱い)、③要件を満たさない固定残業代、の3つです。残業代請求権の時効は3年。悪質と判断されれば同額までの付加金が上乗せされ、月60時間を超える時間外労働には50%以上の割増率(中小企業も2023年4月から適用済み)がかかります。厚生労働省の公表では、令和6年に全国の労基署が取り扱い解決した賃金不払事案は22,354件・約172億円。前年から約70億円増えており、請求の波は確実に強まっています。
2-d 雇い止め・偽装請負 「非正規だから調整弁に使える」は過去の常識
有期契約社員の雇止めは自由ではありません。契約更新を繰り返し、更新への合理的期待が生じている場合、雇止めには客観的合理性・社会的相当性が必要です(労働契約法19条)。通算5年を超えれば無期転換申込権も発生します(同18条)。さらに2024年4月からは、契約更新上限の有無や無期転換申込機会の明示が義務付けられました。「今回で更新は終わり」を口頭で済ませる運用は、もう成り立ちません。
そして偽装請負。構内請負の作業員に、貴社の社員が直接作業指示を出していれば、それは請負ではなく労働者派遣と評価されるおそれがあります。違法な偽装請負と判断されれば、労働契約申込みみなし制度(労働者派遣法40条の6)により、その作業員を直接雇用する義務が生じ得ます。指揮命令を誰が行っているか──この一点を、いま一度確認してください。
なお、下請・外注取引の適正化ルールは2026年1月施行の取適法(旧下請法)で大きく変わりました。あわせて解説記事をご確認ください。
>【2026 年 1 月施行】取適法(旧下請法)で中小企業の取引が激変!「知らなかった」では済まない 7つの変更点と今すぐやるべき対応
2-e 労災事故 はさまれ・巻き込まれは「会社の責任」を問われる
プレス機へのはさまれ、回転体への巻き込まれ、フォークリフトとの接触。製造業の労災は重篤化しやすく、労災保険給付とは別に、安全配慮義務違反による損害賠償(慰謝料を含む)を請求されるのが通常です。安全カバーの不備、安全教育の記録がない、ヒヤリハットの放置──こうした事情は、そのまま会社の過失の証拠になります。
さらに注意すべきは、後述する労働安全衛生法改正により、保護の対象が自社の労働者だけでなく構内で働く請負・個人事業者にも広がっていくことです。労災発生時の初動(労基署への報告・証拠保全)は別記事で詳しく解説しています。
2-f 競業避止義務違反 退職者が図面と顧客を持っていく前に
金型図面、加工条件のノウハウ、取引先リスト。製造業の競争力そのものが、退職者とともに競合他社へ流出する事案は後を絶ちません。
典型的な経緯はこうです。中堅の技術者が「一身上の都合」で退職する。送別会まで開いて送り出した数か月後、長年の取引先から発注が途絶える。調べてみると、退職者が同業他社に移り、そこがほぼ同じ仕様・少し安い単価で営業をかけていた──。この段階でご相談いただいても、打てる手は限られます。入社時の誓約書がない、就業規則に競業避止条項がない、図面データへのアクセス制限もなかったとなれば、法的には「会社が秘密として管理していなかった情報」と扱われかねないからです。
結論を言えば、この類型は事後の回復が最も難しく、事前の備えがすべてです。就業規則の競業避止条項と秘密保持条項、入社時・退職時の誓約書、秘密情報の管理体制(アクセス制限・持出禁止の明示)。これらが整っていなければ、不正競争防止法上の「営業秘密」としての保護すら受けられないおそれがあります。
2-g 労働審判 申立てから第1回期日まで、原則40日しかない
労働審判を申し立てられた会社に、まず知っていただきたい事実は一つです。第1回期日は申立てから原則40日以内に指定され(労働審判規則13条)、会社側の答弁書の提出期限はその1週間〜10日前。つまり、呼出状が届いてから実質1か月弱で、会社側の主張と証拠のすべてを出し切らなければなりません。
労働審判は原則3回以内の期日で終結し、平均審理期間は約3か月。しかも多くの事件は第2回までに終わり、労働審判委員会の心証は第1回期日でほぼ固まります。第1回で出し遅れた主張を後から挽回する機会は、事実上ありません。期日の変更も原則認められず、欠席すれば過料の制裁もあります。呼出状が届いたら、その日のうちに弁護士に連絡する──これが唯一の正解です。
2-h 団体交渉 拒否はできない。しかし、すべて飲む必要もない
ある日突然、社外の労働組合(合同労組・ユニオン)から団体交渉申入書が届く。解雇した元従業員や、在職中の従業員が一人で加入できる組合です。
ここで押さえるべき原則は二つ。第一に、正当な理由なく団体交渉を拒否することは不当労働行為であり(労働組合法7条2号)、拒否・放置は最悪の選択です。第二に、誠実に交渉する義務はあっても、要求に合意する義務はありません。資料を示して説明し、協議を尽くせば、結論として要求を受け入れないことは適法です。
初回の交渉で会社側がやってしまいがちな失敗は、三つあります。感情的に言い返す。その場で即答・約束する。そして、議事録を取らない。いずれも後で会社を縛る材料になります。逆に言えば、冷静に聞き、記録し、「社内で検討のうえ書面で回答します」と引き取る──これだけで初回は十分に合格点です。
3. 製造業トピック 労基法・安全衛生法改正の最新動向
法改正の情報は、「確定したもの」と「検討中のもの」を分けて把握することが重要です。
確定した改正で最も重要なのは、労働安全衛生法の改正です(2025年5月14日公布・令和7年法律第33号、2026年1月から段階的に施行)。柱は次のとおりです。
・構内の個人事業者・請負作業者への安全衛生対策の拡大:保護の対象が自社の労働者から「作業従事者」へ広がり、混在作業場所での連絡調整等の措置が求められます。構内請負を使う工場には直接影響します(2-d・2-eと地続きの論点です)
・高年齢労働者の労災防止措置(努力義務・2026年4月1日):ベテラン頼みの現場が多い製造業にとって、段差解消・照度改善・作業配分の見直しは実質的な必須課題です
・50人未満の事業場へのストレスチェック義務化(2028年頃施行見込み):中小工場も対象になります
・化学物質管理の強化(施行時期は項目により異なる)
このほか、熱中症対策の義務化(2025年6月施行)は既に適用中、カスタマーハラスメント対策の義務化(2026年10月)も控えています。
一方、労働基準法本体の「40年ぶり大改正」は、まだ確定していません。厚生労働省の研究会報告書(2025年1月)で、連続勤務の上限規制、勤務間インターバルの義務化、法定休日の特定義務などが提言されましたが、2026年通常国会への法案提出は見送られ、審議が続いています。ただし方向性は明確です。労働時間管理はこれからさらに厳格化する。その前提で、いまのうちに勤怠記録と就業規則を整えた会社が、施行時に慌てない会社です。
4. 製造業の労務トラブルで弁護士ができること
8つの類型を並べてきました。あらためて見渡すと、敗因は常に同じ3つに行き着きます。記録がない。書面がない。初動が遅い。弁護士法人リブラ法律事務所がお手伝いできるのは、この3つの解消です。
(1)予防 書面と仕組みの整備
就業規則(競業避止・秘密保持条項を含む)、雇用契約書・労働条件通知書(2024年改正対応)、誓約書、指導記録の運用ルール、構内請負の契約と運用の点検。貴社の工場の実態に合わせて設計します。
整備を終えた工場の景色を想像してみてください。現場リーダーが萎縮せずに指導できる。指導される側も、基準が明確だから納得できる。総務担当者は「何かあったら相談できる先」を持ち、一人で抱え込まなくてよくなる。求人票には、労働条件を胸を張って明記できる。労務の不安が消えた分、経営者は本来の仕事──品質と受注──に集中できる。書面と記録の整備とは、紛争対策であると同時に、現場の空気を変える投資です。
(2)紛争対応 会社側に立つ代理人として
残業代請求への反論・交渉、労働審判の答弁書作成と期日対応、団体交渉への同席・対応方針の設計、労災の損害賠償交渉。とりわけ労働審判と団体交渉は初動の数日で結果が変わります。
(3)顧問社労士との役割分担
「社労士の先生がいるから大丈夫」と思われるかもしれません。手続や給与計算、就業規則の届出は社労士の領域です。しかし、紛争の代理交渉・裁判手続は弁護士にしかできません。実際、当事務所は社労士の先生方と連携して案件にあたることが多く、顧問社労士との関係はそのままに、紛争局面だけ弁護士が引き受ける形が可能です。
ここまで読み進めてくださった方は、すでに「人を大切にしながら、守るべきものは守る経営」を志向されているはずです。その方針を、気合や属人的な配慮ではなく、書面と仕組みに落とし込む。それが私たちの仕事です。
当事務所は大分市中島中央にあります。工場にも足を運べる距離で、顔の見える対応をお約束します。
5. まとめ
製造業の労務トラブル8類型を貫く敗因は、「記録がない・書面がない・初動が遅い」の3つでした。そして2026年の安全衛生法改正は、守るべき範囲を構内の請負作業者や高齢の働き手にまで広げていきます。規制が厳しくなる時代の裏返しとして、先に整備を済ませた工場は、労務リスクの低さそのものが採用力・取引先からの信用になります。まだ間に合います。ただし、労働審判の40日が象徴するように、トラブルが起きてからでは時間は残されていません。
ご相談の前に、よくいただくご質問
Q1. 初回相談はいくらかかりますか?
30分5,500円(税込)です。Web相談・電話相談も同額で承ります。
Q2. 何を準備すればよいですか?
準備は不要です。就業規則・雇用契約書・タイムカード・届いた申立書や申入書など、手元に資料がある方はお持ちいただくと、より具体的なご案内ができます。
Q3. その場で契約を迫られませんか?
相談と契約は完全に分けています。初回相談にお越しになった方の約半数は、相談のみで終了されています。
Q4. 社内や取引先に知られませんか?
弁護士には法律上の守秘義務があります。やり取りを経営者ご本人(または担当者)に限定する進め方も可能ですので、ご安心ください。
Q5. 相談だけで終わってもいいですか?
もちろんです。前述のとおり、半数の方は相談のみで終了されています。「状況を整理して、選択肢を知りたいだけ」というご利用も歓迎です。
Q6. 顧問の社労士がいます。弁護士にも相談して、関係が気まずくなりませんか?
なりません。給与計算や手続は社労士、紛争対応や法的判断は弁護士と、役割が異なります。当事務所は社労士の先生方と連携して案件にあたることが多く、顧問社労士との関係はそのままに、必要な場面だけ弁護士が加わる形が可能です。
Q7. まだ紛争になっていません。「指導の仕方」の段階で相談してもいいのですか?
その段階こそ、最もご相談いただきたいタイミングです。指導記録の残し方、注意書の文面、雇止め通知の手順──紛争になる前の一手で、その後の展開は大きく変わります。
Q8. 労働審判の呼出状が届きました。期日まで時間がありません。すぐ対応してもらえますか?
はい。労働審判は答弁書の提出期限まで実質1か月弱しかないため、最優先で対応します。呼出状が届いたら、まずお電話ください(097-538-7720)。
製造業の労務トラブル・労務環境整備のご相談は、弁護士法人リブラ法律事務所へ
・電話:097-538-7720(FAX:097-538-7730)
・所在地:大分県大分市中島中央2-2-2
・初回相談:30分5,500円(税込)/Web相談・電話相談も同額で対応
・相談のみで終了していただいて構いません
製造業・労務トラブル予防チェックリスト いくつ「はい」と言えますか?
□ 全従業員と雇用契約書(労働条件通知書)を取り交わしている(2024年改正の明示事項に対応済み)
□ 就業規則に競業避止・秘密保持の条項がある
□ 問題行動への注意指導を、日付入りの記録で残している
□ パワハラ相談窓口を設置し、従業員に周知している
□ 始業前の段取り・清掃を含む労働時間を、客観的な方法で記録している
□ 固定残業代は「金額・時間数の明示」と「不足分の差額精算」の要件を満たしている
□ 有期契約社員の更新手続と更新上限の明示を、書面で行っている
□ 構内請負の作業員に、自社の社員が直接作業指示を出していない
□ 機械の安全カバー・安全教育の実施記録が整っている
□ 退職者から秘密保持の誓約書を取得する運用がある
□ 労働審判・団体交渉の申入れが届いたときの初動(即日、弁護士へ連絡)を決めている
□ 困ったときにすぐ相談できる弁護士がいる
(チェックが付かない項目が3つ以上あれば、トラブルの火種が既に埋まっている状態です。)
社内への説明用まとめ(約200字)
製造業では、問題社員対応・ハラスメント・残業代(時効3年、令和6年の賃金不払事案は全国約172億円)・雇い止め・偽装請負・労災・競業避止・労働審判(準備期間は実質1か月弱)・団体交渉の各リスクがあり、2026年施行の安全衛生法改正で構内請負・高齢者への安全対策も求められます。予防の要は就業規則・契約書・記録の整備です。大分市の弁護士法人リブラ法律事務所(097-538-7720)は会社側の労務対応に対応。初回相談30分5,500円、Web相談可、相談のみでも可。
Last Updated on 7月 12, 2026 by kigyo-lybralaw
事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。 |











