0 はじめに
日本の物流業界は今、深刻な課題に直面しています。
トラックドライバーの不足や高齢化、長時間労働の常態化に加え、2024年4月から適用された時間外労働の上限規制(いわゆる「2024年問題」)により、輸送能力の低下が懸念されています。また、CO2排出量削減といった環境問題への対応、さらにはEC市場の拡大に伴う小口多頻度配送の増加など、物流を取り巻く環境は複雑化・高度化しています。
政府は、係る状況に鑑み、国民生活や経済活動に不可欠な物流機能を持続可能な形で維持・発展させるため「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律(物流総合効率化法、通称「物効法」)」および「貨物自動車運送事業法」の改正を行いました。
これらの改正法(通称「改正物流関連2法」)は、物流の効率化、トラックドライバーの労働条件改善、そして業界の構造的な課題である多重下請構造の是正などを目的としており、令和7年4月1日から順次施行されています(一部規定は準備期間を経て施行)。
本稿では、この改正物流関連2法の主な内容と、荷主企業や物流事業者に
求められる対応について詳しく解説します。
1 改正物流総合効率化法(物効法)のポイント
改正物効法は、荷主と物流事業者が連携して、サプライチェーン全体の 視点から物流の効率化を進めることを主眼としています。主な改正点は以下の通りです。
(1)対象範囲の拡大と「流通業務」の再定義
従来の物効法は、主に「輸送」「保管」「荷さばき」「流通加工」を対象 としていました。
今回の改正で、より広範な効率化を促すため、法律の目的や基本方針に「商流・生産との一体的な実施」や「農林水産物・食品の輸出促進に資する措置」などが追加されました。これにより、例えば農水産品の輸出入に関連するコールドチェーン(低温物流)の構築なども、法律の支援対象となりやすくなっています。
(2)荷主に対する規制的措置の導入(努力義務と義務化)
今回の改正で最も注目される点の1つが、荷主に対する規制的措置の導入です。改正法は、物流の非効率(特にドライバーの長時間労働の原因となる荷待ち・荷役時間)に、荷主側の慣行や要求が大きく影響している、と見ています。係る観点からの改正は下記のとおりです。
①全ての荷主に対する努力義務
全ての荷主は、物流負荷の低減と生産性向上に資するため、以下の措置に努めることが求められます。
- ・荷待ち・荷役時間の削減
トラック予約受付システムの導入、パレット等の活用による荷役
作業の効率化・省力化、検品作業の簡略化・効率化などです。
具体的な目標として、「1運行における1回の受渡しごとの荷待ち
時間等を原則1時間以内とし、やむを得ない場合を除き2時間を
超えない」ことが掲げられています。
- ・積載率の向上
発注量の平準化、リードタイムの確保、モーダルシフト(トラック
から鉄道・船舶への転換)、共同輸配送の実施など。国は「203
0年度までに積載率44%以上」という目標を掲げています。
- ・その他
物流DXの推進、環境負荷低減に資する取り組み(EVトラック導入
支援等)など。
②特定荷主制度の創設(義務化)
1年間の貨物輸送量が一定規模以上(具体的な基準は令和7年度の調査等に基づき政令で定められる予定ですが、現段階では「9万トン以上」などが目安とされています)の荷主は「特定荷主」として指定され、上記の努力義務に加え、以下の義務が課されます。
- ・物流統括管理者の選任
自社の物流を統括し、効率化を推進する責任者を選任し、国に届け出る必要があります。
- ・中長期計画の策定・提出
物流効率化のための具体的な目標や取り組み内容を盛り込んだ中長期計画を作成し、国に提出しなければなりません。
- ・定期報告
計画の実施状況について、国に定期的に報告する義務があります。
報告された内容は国によって評価され、取り組み状況が公表される予定です。これにより、荷主企業の取り組みを社会的に可視化し、更なる改善を促します。
この特定荷主制度は、実質的に大口荷主に対して物流効率化への積極的な関与と責任を求めるものであり、違反した場合には国による指導・助言、勧告、命令、罰則が科される可能性もあります。
(3)物流効率化に向けた計画認定制度の拡充・強化
物効法には、物流効率化に資する事業計画を国が認定し、支援する制度がありましたが、今回の改正でその内容が拡充・強化されました。
①認定対象事業の明確化・拡大
モーダルシフト、共同輸配送、輸送網の集約に加え、倉庫内作業の効率化、自動化・機械化設備の導入、農水産品等の流通合理化なども認定対象として明確化されました。
②特定流通業務施設の整備促進
物流拠点(物流センター、倉庫、トラックターミナル等)の整備計画も認定対象となり、税制優遇や融資制度等の支援を受けやすくなります。
③手続の簡素化
計画の軽微な変更に関する手続きの簡素化や、申請・報告の電子化が進められます。
この計画認定制度を活用することで、荷主や物流事業者は、効率化に向けた投資負担の軽減や関係者との連携強化、が期待できます。
2 改正貨物自動車運送事業法のポイント
改正貨物自動車運送事業法は、主にトラック運送事業における取引の適正化、ドライバーの労働条件改善、そして多重下請構造の是正に焦点を当てています。
(1)荷主・元請事業者に対する規制強化
物効法が荷主への努力義務や特定荷主への義務を課すのに対し、改正貨物自動車運送事業法では、より直接的な規制を導入しています。
①荷主・元請事業者の配慮義務
荷主や元請運送事業者(最初に運送を引き受けた事業者)に対し、トラック運送事業者がドライバーの労働時間に関する規制(改善基準告示など)を遵守できるよう、必要な配慮をする義務を課しました。
荷主や元請運送事業者が配慮を著しく怠っていると認められる場合には、国土交通大臣による勧告・公表の対象となります。
②荷待ち・荷役時間等に関する措置の義務化
荷主・元請事業者に対し、トラックドライバーの荷待ち・荷役時間を削減するための措置(例:予約システムの導入、荷役作業の効率化)を講じることを義務付けています。
③運送契約の書面交付義務の強化
荷主と運送事業者間、および元請運送事業者と下請運送事業者間で運送契約を締結する際、運送する貨物の内容、運送日時、発着地といった基本情報に加え、「運賃・料金」およびその内訳(高速道路利用料、燃料サーチャージ、有料の附帯業務(荷役、検品、仕分け等)の料金を含む)を書面に明記し、相互に交付・保存(原則1年間)することが義務付けられました(電磁的方法による作成・保存も可能ですが、一定の要件を満たす必要があります)。
これにより、従来曖昧にされがちだった附帯業務の対価などを明確にし、適正な取引を促します。荷主が書面交付義務を怠った場合、運送事業者は契約を拒否しやすくなりました。また、書面交付義務違反した運送事業者には行政処分が科される可能性があります。
(2)多重下請構造の是正
トラック運送業界では、荷主から元請、一次下請、二次下請…と何重にもわたって運送業務が委託される「多重下請構造」が常態化し、末端の実運送事業者の運賃が低く抑えられ、ドライバーの低賃金や長時間労働の一因となっていると指摘されてきました。今回の改正では、係る構造を是正するための措置が導入されました。
①実運送体制管理簿の作成・保存義務
元請運送事業者に対し、委託した運送業務について、実際に運送を行う事業者(実運送事業者)の名称、住所、請負階層などを記録した「実運送体制管理簿」の作成・保存(1年間)を義務付けました。誰が実際に運送を担ったのかを明確にします。作成対象は、1運送あたり1.5トン以上の貨物です。下請事業者は、元請事業者からの求めに応じて、必要な情報を提供しなければなりません。
②下請け制限(努力義務)と運賃交渉義務
元請運送事業者に対し、下請けに出す場合、原則として2次下請までに制限するよう努めること、また、実運送事業者が適正な運賃・料金を収受するよう、荷主に対して必要な交渉を行うことを義務付けました。
③特別一般貨物自動車運送事業者(特定利用運送事業者)制度
1年間の利用運送(自社で運送せず他社に委託する)の取扱量が極めて多い事業者(年間100万トン以上)を「特別一般貨物自動車運送事業者」として指定し、係る事業者に対し、利用運送の適正化に関する規程(運送利用管理規程)の作成・届出や、その運用を管理する責任者(利用運送管理者)の選任・届出等を義務付けました。これにより、大手事業者の下請管理に対する責任を強化します。
これらの措置により、取引の透明性を高め、不当な中抜きを抑制し、実運送を担う事業者が適正な対価を得られる環境を整備することを目指しています。
(3)標準的な運賃の活用促進
国は、令和2年、トラック運送のコスト構造を反映した「標準的な運賃」を告示しました。今回の法改正と連動し、この標準的な運賃を参考に、荷主と運送事業者が適正な運賃水準について協議・決定することを一層促しています。
3 事業者への影響と求められる対応
今回の法改正は、荷主企業、物流事業者双方に大きな影響を与え、具体的
な対応を迫るものです。
(1)荷主企業
①コスト意識の変化
ドライバーの労働条件改善や適正な対価の支払いは、輸送コストの上昇につながる可能性があります。単なるコスト削減だけでなく、安定的な輸送力確保の観点から、物流コストへの意識を変える必要があります。
②物流管理体制の強化
特に特定荷主に指定される可能性のある企業は、物流統括管理者の選任や中長期計画の策定、実績管理など、社内の物流管理体制を強化する必要があります。
③効率化への投資
荷待ち・荷役時間削減のための予約システム導入、パレット化推進、倉庫内作業の自動化・省力化など、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を含む効率化への投資が求められます。
④運送事業者との連携強化
契約書面の整備、附帯業務の明確化、リードタイムの確保、発注量の平準化など、運送事業者との対等なパートナーシップに基づいた協力関係の構築が不可欠です。
(2)物流事業者
①コンプライアンス体制の強化
契約書面の作成・保存、実運送体制管理簿の作成・管理、ドライバーの労働時間管理の徹底など、法令遵守体制の整備が急務です。
②荷主との交渉力強化
標準的な運賃や書面化義務を根拠に、荷主に対して適正な運賃・料金や労働条件改善となる取引条件を積極的に交渉していく必要があります。
③効率化・生産性向上
自社の輸配送効率化(配車計画最適化、共同配送等)、倉庫内作業の効率化、DX推進など、生産性向上への取り組みが求められます。
④下請管理の徹底(元請事業者)
実運送体制管理簿の整備、下請事業者への適正な支払い、情報共有等を徹底する必要があります。
⑤事業者間連携の推進
共同輸配送や中継輸送など、事業者間の連携による効率化も有効な手段となります。
4 まとめ
改正物流関連2法の改正は、物流の持続可能性を確保するための重要な内容を含んでいます。荷主と物流事業者がそれぞれの責任を果たし、互いに協力して物流全体の効率化と労働環境の改善に取り組むことが求められています。
短期的にはコスト増や業務負担増といった課題も生じますが、中長期的には、安定した物流サービスの提供、業界の魅力向上、そして社会全体の持続的発展につながるものと期待されます。この変革期において、関係者1人ひとりが法改正の趣旨を理解し、前向きに対応していくことが、未来の物流を支える鍵となるものと理解しています。
この点、今回の改正で加わった「運送契約の書面交付義務」について、法律が求める記載事項が過不足なく記載されているのか、また「荷主・元請事業者に対する規制強化」に関連し、どこまでの措置を実施したら義務を果たしたといえるのか、については、弁護士等専門家の意見を聞いた方がより円滑に業務を遂行できると考えています。
改正物流関連2法への対応につき弁護士に相談したいとお考えであれば、お気軽にご相談下さい。
以 上
Last Updated on 6月 11, 2025 by kigyo-lybralaw
事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。 |