
施設形態別のリスク特性と、経営者・管理者が今すぐ取るべき対策とは
「うちの施設では虐待なんて起きていない」——そう断言できる経営者や管理者の方は、どれほどいらっしゃるでしょうか。
令和4年度の厚生労働省調査によると、介護施設従事者等による高齢者虐待の判断件数は856件。相談・通報件数は2,795件と過去最多を更新しました。しかも、この数字は「発覚した」ケースに過ぎません。
特に注目すべきは、虐待が発生した施設の内訳です。特別養護老人ホームが30.9%、有料老人ホームが29.5%と入所型施設が上位を占める一方、通所介護(デイサービス)での発生も決して少なくありません。
「入所型と通所型では、虐待が起きるメカニズムが根本的に異なる」——これが、数多くの介護施設の法務相談に携わってきた私たちの実感です。
本記事では、老人ホーム(入所型施設)とデイサービス(通所型施設)における虐待発生リスクの違いを徹底解説します。あなたの施設が抱える「見えないリスク」を明らかにし、今日から実践できる具体的な対策をお伝えします。
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1. 老人ホームとデイサービスにおける虐待発生リスクの違い
まず、施設形態による虐待リスクの違いを整理しましょう。同じ介護施設でも、入所型と通所型では、虐待が発生しやすい状況や要因が大きく異なります。
【老人ホーム(入所型施設)の特徴的リスク】
入所型施設では、利用者が24時間365日施設内で生活します。この「密室性」と「継続性」が、虐待リスクを高める最大の要因です。
・夜間の少人数体制
深夜帯は1~2名の職員で複数の利用者を見守るため、ストレスが集中しやすい
・外部の目が届きにくい
家族の面会がない時間帯や、居室内での介助は第三者の目に触れにくい
・職員と利用者の関係固定化
毎日同じ利用者と接することで、「慣れ」や「甘え」が生じやすい
・身体拘束のリスク:転倒防止等を理由とした不適切な拘束が常態化しやすい
実際、入所型施設での虐待の約6割が「身体的虐待」であり、その多くが夜間や早朝など職員が少ない時間帯に発生しています。
【デイサービス(通所型施設)の特徴的リスク】
一方、デイサービスは日中のみのサービス提供であり、利用者は毎日自宅に帰ります。
この特性から、入所型とは異なるリスクが存在します。
・時間的制約によるプレッシャー
送迎、入浴、食事、レクリエーションと限られた時間内に多くの業務をこなす必要がある
・利用者の入れ替わり
日によって利用者が異なるため、個々の特性把握が不十分になりやすい
・家庭での虐待発見の役割
在宅介護者(家族)による虐待を発見する「最前線」としての責任がある
・心理的虐待のリスク
急かしたり、できないことを責めたりする言動が生じやすい
デイサービスでは、身体的虐待よりも「心理的虐待」や「介護放棄(ネグレクト)」の割合が相対的に高い傾向があります。時間に追われる中で、「早くして」「何度言ったらわかるの」といった言葉が、虐待として認定されるケースも少なくありません。
【見落としがちな共通リスク】
両施設に共通するのは、「虐待の芽」が見過ごされやすいという点です。
・慢性的な人手不足による過重労働
・認知症ケアの知識・技術不足
・職員間のコミュニケーション不全
・「これくらいは仕方ない」という組織風土
特に、人員配置基準ギリギリで運営している小規模施設では、1人の職員が担う負担が大きく、虐待リスクが高まります。「うちは小さい施設だから大丈夫」という認識こそが、最も危険な落とし穴なのです。
2. なぜ虐待は起きるのか?職員のストレスと家族が抱える不安とは
「虐待をする職員は、もともと問題のある人間だ」
このような認識は、虐待防止の最大の障壁です。
厚生労働省の調査によると、虐待の発生要因の第1位は「教育・知識・介護技術等に関する問題」(56.1%)。次いで「職員のストレスや感情コントロールの問題」(22.9%)、「虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制等」(21.5%)と続きます。
つまり、虐待は個人の資質ではなく組織の問題として発生しているのです。
【職員が抱えるストレスの実態】
介護現場で働く職員は、日々多大なストレスにさらされています。
・身体的負担
移乗介助、入浴介助など腰痛リスクの高い業務が連続する
・精神的負担
認知症利用者からの暴言
・暴力、セクシャルハラスメントへの対応
・時間的負担
記録業務、会議、研修など直接介護以外の業務も多い
・人間関係
上司や同僚との軋轢、利用者家族からのクレーム対応
特に深刻なのは、これらのストレスを「当たり前のこと」として我慢する風潮です。「介護職なら仕方ない」「利用者のためだから」という自己犠牲的な意識が、問題の表面化を妨げています。
ある特別養護老人ホームで発生した虐待事件では、加害職員が「利用者から毎日暴言を浴びせられ、誰にも相談できなかった」と供述しています。この職員は、入職当初は高い志を持った真面目な職員として評価されていました。
【家族が抱える不安と施設への期待】
一方、利用者の家族も様々な不安を抱えています。
・「施設で適切なケアを受けているか」という漠然とした不安
・「何か問題があっても言い出しにくい」という遠慮
・「自分が介護できないから預けている」という罪悪感
・「施設任せにしていいのか」という葛藤
こうした家族の不安が、時として過度なクレームや過干渉という形で表れることがあります。これが職員のストレスをさらに高め、悪循環を生む原因となっています。
【経営者・管理者が見落としがちな「組織の問題」】
虐待が発生した施設の多くに共通するのは、以下のような組織的課題です。
・相談窓口はあっても機能していない
・研修は形式的で、現場に活かされていない
・「問題を報告すると評価が下がる」という雰囲気がある
・管理者自身が現場の実態を把握していない
「うちの施設は風通しがいい」と経営者や管理者が思っていても、現場の職員は全く異なる認識を持っていることが少なくありません。この認識のギャップこそが、虐待の温床となるのです。
3. 老人扱いが引き金に?不適切ケアと虐待の境界線
「虐待」と聞くと、殴る・蹴るといった暴力行為を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、実際の虐待認定事例の多くは、もっと日常的な行為から始まっています。
【不適切ケアとは何か】
高齢者虐待防止法では、虐待を5つの類型(身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待、ネグレクト)に分類しています。しかし、現場で最も判断が難しいのは、明確な虐待とは言えないものの「不適切」と評価される行為です。
・利用者を「ちゃん」付けや愛称で呼ぶ
・「もう少し待ってね」と言ったまま長時間放置する
・着替えや排泄介助の際、カーテンを閉めない
・食事の際に座らせたまま職員が立って介助する
・「危ないから」と本人の意思を確認せずに車椅子を固定する
これらは、一見すると「親しみを込めた対応」「効率的な業務遂行」に見えるかもしれません。しかし、高齢者の尊厳という観点から見れば、いずれも問題のある行為です。
【グレーゾーンの具体例】
特に判断が難しい「グレーゾーン」の事例を見てみましょう。
事例1
「ちょっと待って」の繰り返し トイレ介助を求められた職員が「今忙しいから、ちょっと待ってね」と言い、結局30分以上放置してしまった。
→これは状況によっては「ネグレクト」と判断される可能性があります。1回の「待って」は許容範囲でも、それが常態化すれば虐待です。
事例2
転倒防止のための「見守り」 転倒リスクの高い利用者を、職員の目が届く場所に座らせ、立ち上がろうとするたびに「座っていて」と制止する。
→物理的な拘束はしていませんが、「行動の自由を制限している」という点では身体拘束に準ずる行為と評価される可能性があります。
事例3
入浴拒否への対応 入浴を強く拒否する利用者に対し、「今日はお風呂の日だから」と説得を続け、最終的に半ば強引に入浴させた。
→清潔保持は重要ですが、本人の意思を無視した強制的な介入は、程度によっては虐待と認定されます。
【法的視点から見た境界線】
弁護士の立場から申し上げると、虐待か否かの判断は以下の観点から行われます。
・行為の客観的態様:具体的に何をしたか ・行為者の認識:虐待の意図があったか、または結果を予見できたか ・被害者への影響:身体的・精神的にどのような影響があったか ・行為の継続性・反復性:一度きりか、繰り返されていたか ・代替手段の有無:他に適切な方法がなかったか
特に重要なのは「代替手段の有無」です。「やむを得なかった」という抗弁が認められるためには、他の方法を検討した上で、それでも当該行為しか選択肢がなかったことを示す必要があります。
【老人扱いが虐待の入り口になる理由】
「おじいちゃん」「おばあちゃん」と呼ぶ、子どもに話しかけるような口調で接する、こうした老人扱いは、一見すると親しみの表現に見えます。
しかし、これらの行為には重大な問題があります。
・高齢者を一人の大人として尊重していない
・職員と利用者の間に上下関係を作り出す
・この程度は許されるという意識を生む ・段階的にエスカレートしやすい
虐待事件の多くは、このような軽微な不適切ケアの積み重ねから始まっています。最初は「ちゃん付け」で呼ぶことから始まり、やがて命令口調になり、最終的には暴言や暴力に発展する——このような経過は、決して珍しいことではありません。
4. 虐待の兆候を見逃さないために
虐待を防止するためには、早期発見が極めて重要です。「まだ虐待は起きていないから大丈夫」という認識は危険です。兆候が見つかった時点で対応すれば、虐待を未然に防ぐことができます。
【利用者に見られる兆候】
身体面では、説明のつかない傷やアザ、急激な体重減少、脱水症状や栄養不良の兆候に注意が必要です。同じ部位に繰り返し傷ができる場合は、特に慎重な確認が求められます。
精神面・行動面では、特定の職員を怖がる・避ける、急に口数が減る、表情が乏しくなる、「帰りたい」「助けて」と訴えることが増えるなどの変化がサインとなります。
【職員に見られる兆候】
言葉遣いが乱暴になる、利用者の前で溜息をつく・舌打ちをする、「この人は何を言ってもわからない」という発言がある、特定の利用者を避ける——これらは要注意のサインです。
勤務態度の面では、遅刻・欠勤の増加、休憩時間に一人で過ごすことが多くなる、イライラしていることが多い、「辞めたい」「もう限界」という発言なども見逃してはいけません。
【組織として確認すべきポイント】
虐待防止の体制が形式だけでなく実質的に機能しているか、定期的に確認する必要があります。委員会の開催、指針の周知、研修の実施、担当者の選任、相談窓口の設置——これらが実際に動いているかが重要です。
また、職員配置に余裕があるか、夜勤体制に無理がないか、休憩時間が確保されているか、有給休暇が取得できる環境かなど、運営面のチェックも欠かせません。
さらに、問題を報告しやすい雰囲気があるか、管理者が現場の声に耳を傾けているか、職員間で気になる行為を指摘し合えるかなど、組織風土の確認も重要です。
本記事の巻末に、施設で活用できる具体的なチェックリストを掲載しています。月1回の管理者巡回、3ヶ月に1回の委員会確認、6ヶ月に1回の全職員自己チェックなど、定期的な確認にご活用ください。
5. 虐待が疑われる場合の対処法と弁護士に相談できること
虐待の疑いが生じた場合、適切な初動対応が極めて重要です。対応を誤れば、利用者の被害が拡大するだけでなく、施設の存続そのものが危ぶまれる事態に発展しかねません。
【虐待発覚時の対応フロー】
Step1
利用者の安全確保(最優先) 虐待が疑われる場合、何よりもまず利用者の安全を確保します。必要に応じて医療機関を受診させ、傷病の治療を行います。
Step2
事実関係の調査 ・利用者本人からの聞き取り(可能な場合) ・関係職員からの聞き取り ・防犯カメラ映像の確認 ・介護記録等の確認
※この段階で「隠蔽」は絶対にNGです。調査の過程で得た情報は、適切に記録・保管してください。
Step3
加害職員への対応 調査期間中は、加害が疑われる職員を利用者から引き離す必要があります。具体的には、担当変更、業務停止命令、自宅待機などの措置を検討します。
Step4
家族への報告 暫定的な調査結果が出た時点で、速やかにご家族へ報告します。この報告を怠ると、「隠蔽しようとした」という疑念を持たれ、信頼関係が決定的に損なわれます。
Step5
行政への通報 高齢者虐待防止法により、養介護施設従事者等には虐待の通報義務が課されています。市町村への通報は法的義務であり、これを怠れば行政処分の対象となります。
【行政処分のリスク】
虐待が認定された場合、行政から以下のような処分を受ける可能性があります。
・改善勧告
文書による改善指導
・改善命令
期限を定めた改善措置の命令
・指定の一部効力停止
新規利用者の受入停止など
・指定取消
最も重い処分、事業継続が不可能に
特に、虐待の事実を隠蔽したり、改善勧告に従わない場合は、処分が加重される傾向にあります。
【弁護士に相談できること】
虐待問題に直面した際、弁護士は以下のようなサポートを提供できます。
1. 初動対応のアドバイス 「何から手をつければいいかわからない」という混乱状態でも、優先順位を整理し、適切な対応手順をお伝えします。
2. 事実調査のサポート 聞き取り調査の方法、証拠の保全、記録の作成など、法的に有効な調査の進め方をアドバイスします。
3. 加害職員への対応 自宅待機命令、懲戒処分、解雇など、労働法上の問題を踏まえた適切な対応を検討します。
4. 家族・行政との交渉 説明の仕方、書面の作成、交渉の同席など、外部との対応をサポートします。
5. 再発防止策の策定 虐待防止マニュアルの整備、研修プログラムの構築など、組織改善を支援します。
【リブラ法律事務所に相談するメリット】
虐待問題は、発覚した瞬間から時間との勝負です。対応が遅れれば遅れるほど、状況は悪化します。
リブラ法律事務所では、大分県内の介護施設からのご相談に迅速に対応しています。
・当日・翌日の相談対応
緊急性の高い案件は、最短で当日中にご相談いただけます
・地域事情に精通
大分県内の行政機関との関係性を活かした対応が可能です
・介護業界の理解
介護現場特有の事情を理解した上でアドバイスいたします
「虐待かもしれない」と思った時点で、できるだけ早くご相談ください。その段階であれば、まだ選択肢は多く残されています。
しかし、事態が深刻化してからでは、取れる手段は限られてしまいます。行政処分が出てから慌てて弁護士を探しても、すでに手遅れということも少なくありません。
虐待の予防から発生時対応・再発防止まで、一貫したサポートを提供できるのが、私たちの強みです。
まずはお電話でご状況をお聞かせください。初回相談では、今すぐ取るべき対応と、今後の見通しについてお伝えします。
まとめ
本記事では、老人ホームとデイサービスにおける虐待発生リスクの違いについて解説しました。
・入所型施設では密室性や継続性がリスク要因となり、身体的虐待が起きやすい
・通所型施設では時間的制約・利用者の入れ替わりがリスク要因となり、心理的虐待やネグレクトが起きやすい
・虐待は個人の問題ではなく組織の問題として発生する
・不適切ケアの段階で対処すれば、虐待を未然に防げる
・虐待が疑われた場合は、迅速かつ適切な初動対応が不可欠
令和6年度から、全介護サービス事業者に対して高齢者虐待防止の取り組みが完全義務化されました。体制が整っていない事業所は減算の対象となり、経営にも直接的な影響が生じます。
「まだ虐待は起きていないから」「小さい施設だから」という認識は、最も危険な落とし穴です。虐待は、どの施設でも起こり得ます。だからこそ、今この瞬間から対策を始める必要があるのです。
虐待防止体制の構築、職員研修の実施、万が一の発生時対応——これらすべてについて、法律の専門家としてサポートいたします。
「うちの施設は大丈夫だろうか」 そう少しでも感じたら、それが相談のタイミングです。
リブラ法律事務所は、大分県内の介護施設の皆様からのご相談を、いつでもお待ちしております。
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