介護現場におけるグレーゾーンとは?「虐待に当たる不当な身体拘束」も踏まえ弁護士が解説!

介護現場におけるグレーゾーンとは?「虐待に当たる不当な身体拘束」も踏まえ弁護士が解説!

介護の現場では、施設側が利用者に何らかの行動制限を行うことがあります。基本的には、利用者の安全のためです。

しかし、最近、介護施設が、認知症男性に『おむついじり』しにくい下着やオーバーオールを着せた(家族が同意している)ことが『虐待に当たる不当な身体拘束』として、ある地方自治体が当該施設に対して6か月間の新規利用者受け入れ禁止の行政処分を科した例があります。

※参考:https://news.yahoo.co.jp/articles/75a36322252c8f7e79ef0f11a24311c5b782ec6e

以下、介護現場における拘束措置の限界について考察します。

1 介護施設が執る行動制限措置

介護施設は、基本的に利用者の安全を第1に考えています。このため、利用者の安全を考慮して、様々な行動制限措置を執ることがあります。

介護施設が考える利用者の行動制限措置として、例えば、利用者の行動を直接制限することが考えられます。具体的には、ベッドの四点柵の設置、車いすに安全ベルトを設置、経管の自己抜去を防ぐために両手にミトンをはめる措置、です。

また、他の行動制限措置として、利用者の行動をモニタリングすることがあります。例えば、離床センサーやセンサーマットの設置、あるいは、施設の廊下にカメラを設置することです。利用者の行動を直接制御するものではありませんが、利用者が“施設に見られている”として、自主的に行動を制限することがあります。

これらの措置は、いずれも、利用者の安全確保のための措置、でひとまとめにすることが可能です。もっとも、上記の各措置の違いは、利用者の行動を直接制限するかそうでないか、です。

2 行動制限措置の限界

この点、厚生労働省は、平成13年に「身体拘束ゼロへの手引き」を公表しています。それによれば“身体拘束をやむを得ず行う理由として・・・、徘徊や興會状態での周囲への迷惑行為、転側のおそれのある不安定な歩行や、点滴の抜去などの危険な行動等を防止するため、が挙げられることがある”、“しかし、それらの状況には必ずその人なりの理由や原因があり、ケアする側の関わり方や環境に問題があることも少なくない。したがって、その人なりの理由や原因を徹底的に探り、除去するケアが必要”であり、そうすれば身体拘束を行う必要もなくなる、とあります。つまり、基本的には、利用者の行動を直接制限する行動(典型的には身体拘束)はすべきでないという立場です。

実際、介護保険指定基準には、下記の身体拘束禁止規定が存在します。

「サービスの提供にあたっては、当該入所者(利用者)又は他の入所者(利用者)等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者(利用者)の行動を制限する行為を行ってはならない」

この「緊急やむを得ない場合」か否かの判断基準として、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3つの要件を満すかどうか、を判断しなければなりません。

しかも、介護施設は、これらの3要件の確認等の手続を慎重に実施しなければならず、かつ、下記のとおり、身体拘束をした場合には記録をしなければなりません。

介護保険指定基準に関する通知

「緊急やむを得ず身体拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況、緊急やむを得なかった理由を記録しなければならないものとする」

されているケースに限られる、とされています。

いささか厳しい事例ですね。とはいえ、利用者(主として高齢者)の自由意思を尊重するという介護の基本姿勢からすれば、行動制限の最たるものである身体拘束は基本的に認めない、という方向での介護を奨励することになります。

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もっとも、上記事例は「施設による虐待」があったかどうかが問題となったもので、「虐待」は、身体的な虐待に限らず、心理的な虐待、経済的な虐待を含むものと解釈されています。心理的な虐待、経済的な虐待も、一種の行動制限といえるでしょう。ここで、心理的虐待とは、高齢者虐待防止法上「高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと」と定義されています。

介護施設は、この観点から、身体的拘束のみならず、施設側が行った行為が

「心理的・経済的」な虐待に該当しないかどうかを慎重に検討する必要がでてきます(もっとも、経済的虐待はあまり考えられません)。

上記事例を「心理的虐待」の有無という観点からみると、おむついじりをしづらい下着やオーバーオールの形状やその頻度が、利用者にある種の屈辱感を与えるものであるなど、利用者に対して拒絶的な対応と評価される場合には、虐待、という判断もありうるかと存じます。

また、例えば、無断徘徊や転倒が危惧される利用者に対するモニタリングの一環として、音が鳴るスリッパを履かせたり、身体に鈴をつけるといった措置は、利用者の行動を直接に制限するものではないものの、利用者にとっては拒絶的な対応と評価される場合もありうるかと存じます。

3 まとめ

法律上、介護施設内で虐待、あるいは「虐待を受けたと思われる」事態を認識した者は、市町村に通報しなければならないとされています。

しかし、介護施設の現実の運用として、虐待にあたる可能性がある措置まで直ちに通報していては仕事になりません。また、職員が、通報したら施設の他の職員から疎外されることをおそれ、通報を控えることも考えられます。

虐待のグレーゾーン対応の難しいところです。

介護施設の唯一正しい対応、は見出しづらいものの、一般論としては、施設、組織全体の風通しをよくし、オープンに協議できる体制が重要かと存じます。

そのような体制づくり、身体拘束や介護事故に関連する問題に直面した際には、法的専門知識を持つ弁護士にご相談ください。

弁護士は、身体拘束や介護事故に関連する問題やトラブルが発生した場合、

以下のようなサポートを提供できます。

法的アドバイス

介護事故予防の観点から助言可能です

事故時の対応

不幸にも、施設内で介護事故が生じた場合に、施設の代理人として交渉をする事も可能です。

大分県で介護サービス業を営む経営者の方へ

Last Updated on 4月 8, 2024 by kigyo-lybralaw

この記事の執筆者
弁護士法人リブラ総合法律事務所

事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。

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