
- 1. はじめに:「実地指導で指摘はなかった」ホームにこそ読んでほしい理由
- 2. 住宅型有料老人ホームを運営する上での注意点
- 3. 介護保険法改正のポイント(令和8年法律第51号)
- 3-1. 届出制から登録制へ
- 3-2. 「囲い込み」対策の三本柱
- 3-3. 登録施設介護(予防)支援の創設
- 3-4. 指導監督と罰則の強化
- 3-5. 入居者紹介事業の適正化
- 3-6. 施行日と、まだ決まっていないこと
- 4. 適法にサービス提供体制を構築するための実務対応
- 4-1. 入居契約書・重要事項説明書の総点検
- 4-2. ケアマネジメントの独立性確保方針の策定・公表
- 4-3. 会計の分離
- 4-4. 職員研修と記録
- 4-5. 紹介事業者との契約整理
- 5. 今すぐ確認できるチェックリスト
- 6. 弁護士に相談するメリット
- 7. 当事務所のサポート
- 8. よくあるご質問
- 9. お問い合わせ
- 10. 理事会・顧問税理士向け要約
1. はじめに:「実地指導で指摘はなかった」ホームにこそ読んでほしい理由
「うちは県の標準指導指針を守っているし、実地指導でも大きな指摘は受けていない」。大分県内で住宅型有料老人ホームを運営されている経営者の方から、この一年ほど、こうした言葉を何度も伺いました。そのたびに、同じ方が少し声を落として続けられます。「ただ、登録制になるという話を業界紙で読んで、うちのやり方がこのまま続けられるのかは正直わからない」と。
この不安には理由があります。2026年6月25日に公布された「社会福祉法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第51号)によって、有料老人ホームは老人福祉法上の「届出制」から「登録制」へ移行することが決まりました。厚生労働省は、中重度の要介護者などを入居対象とするホームを登録の対象とし、「現存する有料老人ホームの大半が対象となる」と想定しています。全国の有料老人ホーム約2万5千棟・定員約95万人のうち、住宅型は約2万棟・約63万人を占めており(厚生労働省「社会福祉法等の一部を改正する法律の概要について」)、この改正が向けられている先は、まさに住宅型ホームです。
「まだ政令も県条例も固まっていないのだから、決まってから動けばいい」というお考えも理解できます。ただ、登録制の柱である「併設事業所への誘導の禁止」「ケアマネジメントの独立性確保」「会計の分離」は、いずれも契約書の書き換えや経理体制の再構築を伴い、施行が見えてから着手して間に合うものではありません。この記事では、法律で確定した内容と、まだ政令・条例に委ねられている内容を分けたうえで、大分・九州の中小規模のホームが今から何をすべきかを整理します。
2. 住宅型有料老人ホームを運営する上での注意点
2-1. 「届出だけで運営できる」構造そのものがリスクになってきた
住宅型有料老人ホームは、老人福祉法に基づき都道府県知事へ届出を行えば運営できます。介護保険法上の「指定」を受ける介護付き有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)とは異なり、開設にあたって人員配置基準や設備基準の審査を受けるわけではなく、各都道府県の「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」に沿った行政指導が中心でした。参入しやすい反面、入居者保護の仕組みが法律上は薄く、この点が長く課題とされてきました。
大分県は、県内の有料老人ホーム一覧・サービス付き高齢者向け住宅一覧に加えて、「未届け有料老人ホーム一覧表」まで公表しています(令和8年9月1日時点、大分県高齢者福祉課介護サービス事業班)。届出の有無が県のホームページで誰でも確認できる状態にあるということは、入居者のご家族や紹介事業者、金融機関が、そのホームの法令順守の姿勢を「届出」という入口の段階から見ているということでもあります。
2-2. 併設事業所への誘導(いわゆる「囲い込み」)
住宅型ホームの多くは、家賃や管理費を抑えて入居しやすくし、同一法人または併設の訪問介護・通所介護・居宅介護支援事業所の介護保険サービスで収益を確保するモデルで運営されています。このモデル自体が直ちに違法なわけではありません。問題とされているのは、入居者の主体的な選択を制約する形で併設・隣接事業所の利用へ限定・誘導すること、そして区分支給限度額いっぱいまでサービスを組み込むことが常態化していることです。厚生労働省の改正概要資料も、住宅型ホームについて「併設・隣接事業所の利用への限定・誘導等による入居者の主体的な選択の制約」を課題として明記しています。
「入居者にはほかの事業所も選べると口頭で説明している」というホームは少なくありません。しかし、入居契約書や重要事項説明書に併設事業所の利用を前提とした記載が残っていたり、ケアプランの作成者が併設の居宅介護支援事業所に固定されていたりすれば、行政から見た実態は「誘導」と評価されうるのです。説明していることと、書面・運用がずれていないかを確認する必要があります。
2-3. 入居契約・重要事項説明・前払金
有料老人ホームは老人福祉法上、契約前の重要事項説明書の交付、誇大広告の禁止、家賃・サービス費等以外の金品受領の禁止、前払金の返還保全措置が求められています。今回の改正では、これらが登録ホームの義務として条文上さらに明確化されます(老人福祉法第29条の22〜第29条の25)。特に、入居一時金を受け取っているホームで保全措置の契約が古いままになっているケース、契約書のクーリングオフ条項や退去時精算の条項が県の指導指針の改定に追随できていないケースが、実務では散見されます。
2-4. 虐待防止・身体拘束・事故対応
住宅型ホーム自体には介護保険施設のような運営基準が法律上ありませんが、併設の介護保険事業所には虐待防止委員会の設置や身体拘束の適正化が義務づけられており、入居者に事故が起きた場合の損害賠償責任は、住まいとしてのホームにも及びえます。「介護は併設事業所の責任」という切り分けは、裁判ではそのまま通用しません。事故記録、家族への説明、再発防止策の文書化を、ホームと事業所のどちらが担うのかを平時から決めておくことが、賠償リスクと行政対応の両面で効いてきます。
3. 介護保険法改正のポイント(令和8年法律第51号)
ここからは、法律で確定した事項を中心に整理します。正確には、社会福祉法・老人福祉法・介護保険法などを一括で改正する法律であり、有料老人ホームに関する部分は主に老人福祉法の改正です。
3-1. 届出制から登録制へ
都道府県知事は、①書面による入居契約、②入居者に不当な条件を付さない契約、③運営に関する重要事項を定めていること、④設備・運営が都道府県条例で定める基準に適合していること、といった要件を満たすホームを登録します(老人福祉法第29条の18)。都道府県条例で定める基準には、職員の配置および員数、指定居宅サービス等の適切な利用の確保、入居者の適切な処遇および安全の確保が含まれる予定です。厚生労働省は、この基準について「現行の標準指導指針を遵守しているホームにとって、過度な負担とならない水準」を想定していると説明していますが、裏を返せば、指導指針を実質的に守れていないホームは登録の入口で止まることになります。登録の更新は5年ごとが想定されています。
3-2. 「囲い込み」対策の三本柱
改正の核心は次の三点です。第一に、特定の介護サービス事業者の利用を入居の要件とすることの禁止。第二に、ケアマネジメントの独立性確保に関する方針を策定し、公表すること。第三に、住まい事業と介護サービス事業の会計を分離すること。いずれも、これまで「望ましい」とされてきた事項が、登録の要件として法的な位置づけを持つようになります。
3-3. 登録施設介護(予防)支援の創設
登録ホームの入居者に対する相談支援の新しい類型として、「登録施設介護(予防)支援」が創設されます。ケアプランの作成に加え、地域活動への参加支援などの地域生活相談を担い、登録住宅型ホーム事業者・登録施設介護支援事業者・介護サービス事業者の三者が対等な立場で情報共有する構造が制度上担保されます。利用者負担は資料上「原則として1割(未確定)」とされ、既存の居宅介護支援事業者については当面の間、新たな指定申請を不要とする経過措置が示されています。具体的な要件や報酬は、今後の社会保障審議会介護給付費分科会等で議論される予定です。
3-4. 指導監督と罰則の強化
都道府県知事は、登録ホームに対して報告徴収・質問・立入検査(第29条の33)を行い、改善勧告・改善命令(第29条の28)、事業の制限・停止命令、登録の取消し(第29条の35)ができます。市町村にも、登録住宅型ホームへの立入検査・指導の権限が与えられます。罰則としては、登録を受けずに事業を行った場合および命令に違反した場合に「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」、虚偽の届出に「30万円以下の罰金」が定められています。
3-5. 入居者紹介事業の適正化
有料老人ホーム協会による優良事業者の認定制度が創設され、紹介手数料が月額家賃・管理費等の居住費用をベースとしていることの公表が求められる方向です。紹介会社との契約内容や手数料の設定を見直す必要が生じるホームもあるでしょう。
3-6. 施行日と、まだ決まっていないこと
原則的な施行日は令和9年(2027年)4月1日です。ただし、有料老人ホーム制度の見直しについては、「法律の公布後2年以内に政令で定める日」または「3年以内に政令で定める日」とされている部分があり、円滑な移行のための経過措置が設けられます。あわせて、ケアマネジャーの資格更新制の廃止(公布後1年6月以内に政令で定める日)、夜間対応型訪問介護の廃止と定期巡回・随時対応型訪問介護看護への統合も同じ法律に含まれています。
厚生労働省の「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」は、2026年7月29日の第8回会合で、登録基準、登録事務、対象となるホームの範囲、紹介事業者の優良認定制度の四つを論点として具体化の議論を始めており、秋頃を目途に社会保障審議会介護保険部会へ報告する予定です。つまり、細部はこれから固まりますが、大枠は動きません。
4. 適法にサービス提供体制を構築するための実務対応
4-1. 入居契約書・重要事項説明書の総点検
まず、入居契約書、重要事項説明書、管理規程、パンフレットのすべてから、併設事業所の利用を前提とする表現を洗い出します。「介護サービスは当法人の訪問介護事業所が提供します」という一文があるだけで、入居要件化と評価されるおそれがあります。他の事業所を選択できること、選択しても入居継続に影響がないことを、書面上明示する方向で改めます。前払金の保全契約、退去時精算、クーリングオフの各条項も、県の指導指針の最新版と突き合わせます。
4-2. ケアマネジメントの独立性確保方針の策定・公表
登録要件となる「独立性確保に係る方針」は、作って終わりではなく公表が前提です。併設の居宅介護支援事業所との関係、ケアプラン作成時の説明手順、入居者からの事業所変更希望への対応フロー、区分支給限度額に対するサービス量の妥当性を確認する仕組みを、A4で1〜2枚の方針文書にまとめ、ホームページや重要事項説明書に添付できる形にしておきます。
4-3. 会計の分離
住まい事業(家賃・管理費・食費)と介護保険事業の会計を分離します。既に部門別会計を導入している法人でも、共通経費の按分基準、人件費の付け替え、併設事業所からホームへの「協力金」のような不透明な資金移動がないかを、顧問税理士と一緒に確認してください。ここは弁護士と税理士の連携が最も効く領域です。
4-4. 職員研修と記録
虐待防止・身体拘束適正化の研修を、併設事業所だけでなくホームの生活相談員や夜間職員にも広げ、受講記録を残します。事故報告の様式と家族説明の手順を、ホーム・事業所共通で定めます。
4-5. 紹介事業者との契約整理
紹介会社との契約書を確認し、手数料の算定根拠、入居者への開示、退去時の返金条件を整理します。優良認定制度の詳細が固まり次第、認定事業者との取引へ移行できるよう準備しておきます。
5. 今すぐ確認できるチェックリスト
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• 入居契約書・重要事項説明書に、特定事業所の利用を前提とする記載がない
• 入居者が他の介護サービス事業者を選べることを書面で明示している
• ケアマネジメントの独立性確保に関する方針を文書化し、公表の準備ができている
• 住まい事業と介護保険事業の会計が分離され、共通経費の按分基準が文書化されている
• 前払金の保全措置が現行契約に対応している
• 誇大広告に該当しうる表現(「24時間看護師常駐」等)を広告・ウェブサイトから点検した
• 事故発生時の記録・家族説明・再発防止の手順がホームと事業所で共有されている
• 虐待防止・身体拘束適正化研修の受講記録がホーム職員分も残っている
• 紹介事業者との契約で手数料の算定根拠と開示方法が明確になっている
• 大分県の有料老人ホーム一覧に自社の届出内容が正しく掲載されている
6. 弁護士に相談するメリット
第一に、「法律で確定したこと」と「政令・県条例でこれから決まること」を切り分けて、今やるべき投資と待つべき投資を判断できることです。改正内容は一次資料である厚生労働省の概要資料や条文にあたらなければ正確に把握できず、業界の噂話をもとに過剰な設備投資をしてしまうケースも、逆に様子見のまま施行を迎えてしまうケースも、どちらも避けられます。
第二に、契約書や方針文書を「行政に見せられる文書」として整えられることです。登録申請、報告徴収、立入検査の場面で、ホームが提出する書面がそのままホームの評価になります。
第三に、事業所指定と異なり、登録の取消しや事業停止命令は住まいとしてのホームそのものに向けられます。入居者の生活の場を守るという観点から、行政との協議を早期に、そして記録に残る形で進める必要があり、そこに弁護士が関与する意味があります。
7. 当事務所のサポート
7-1. 適法性チェック
弁護士法人リブラ法律事務所では、住宅型有料老人ホームを運営する法人向けに、入居契約書・重要事項説明書・管理規程・広告物の点検、併設事業所との関係整理、ケアマネジメントの独立性確保方針の起案、会計分離に関する顧問税理士との連携までを一括して行う適法性チェックを提供しています。介護・福祉分野の顧問先が多く、大分県の標準指導指針の運用実態を踏まえた実務的な助言が可能です。
7-2. 行政対応支援
実地指導・立入検査への事前準備、報告徴収への回答書の作成、改善勧告・改善命令を受けた場合の改善計画書の起案と行政との協議、登録申請にあたっての書類整備を支援します。行政に対して事業者側の事情を法的に整理して伝え、入居者の生活を止めずに是正を進めることを最優先にします。
8. よくあるご質問
Q1. 初回相談はいくらかかりますか?
30分5,500円(税込)です。Web相談・電話相談も同額でご利用いただけます。
Q2. 何を準備すればよいですか?
準備は不要です。入居契約書、重要事項説明書、県からの通知など、手元に資料がある方はお持ちいただければ、より具体的にお話しできます。
Q3. その場で契約を迫られませんか?
相談と顧問契約・受任は分けています。初回相談者の約半数は、相談のみで終了されています。
Q4. 社内・取引先に知られませんか?
弁護士には守秘義務があります。経営者ご本人とのやり取りに限定する設計も可能です。
Q5. 相談だけで終わってもいいですか?
もちろんです。半数の方が相談のみで終了されています。現状の確認だけでも、お気軽にご相談ください。
Q6. 現場の職員に知られずに相談できますか?
可能です。書面点検は経営者からお預かりした資料のみで進められます。
Q7. 監督官庁に話が漏れませんか?
弁護士が相談内容を行政に伝えることはありません。行政との協議を行うのは、依頼者の判断でその方針を決めた後です。
9. お問い合わせ
弁護士法人リブラ法律事務所(大分市) 電話:097-538-7720(FAX:097-538-7730)
Email:lybra@triton.ocn.ne.jp
初回相談30分5,500円(税込)。Web相談・電話相談対応。相談のみでの終了も可能です。
10. 理事会・顧問税理士向け要約
2026年6月公布の社会福祉法等改正(令和8年法律第51号)により、住宅型有料老人ホームは届出制から登録制へ移行し、特定事業所利用の入居要件化の禁止、ケアマネジメント独立性方針の公表、会計分離が登録要件となります。無登録運営は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。原則施行は2027年4月1日。弁護士法人リブラ法律事務所(大分市、097-538-7720)が契約書点検・方針起案・行政対応を支援。初回相談30分5,500円、Web相談可、相談のみでも可。
参照した一次資料
- 厚生労働省「社会福祉法等の一部を改正する法律の概要について」(令和8年法律第51号)https://www.mhlw.go.jp/content/001717214.pdf
- 厚生労働省老健局「社会福祉法等の一部を改正する法律について【報告】」(有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会資料)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001729451.pdf
- 大分県「有料老人ホーム(サービス付き高齢者向け住宅)一覧」(令和8年9月1日現在)https://www.pref.oita.jp/site/144/yuuryourouzinnho-muitirann.html
Last Updated on 10月 16, 2026 by kigyo-lybralaw
事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。 |




