労働時間の管理の適切な方法とは?弁護士が解説!-違法にならないために-

労働時間の適切な管理について弁護士が解説!

1.労働時間を適切に管理するメリットとは?

「労働時間」とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」で

あり、労働時間該当性は、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる、とされています(大星ビル管理事件‐最判平成14年2月28日、大林ファシリティーズ事件‐最判平成19年10月19日)。企業の皆さまは、タイムカードで労働時間を管理している、と回答されるでしょうが、それだけで十分でしょうか。

(1)労働時間を管理するのは割増賃金の計算のため

企業は、従業員に生じる割増賃金(残業代)を計算するため、労働時間を適正に把握し、管理する義務を負担しています。厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を定め、使用者が労働時間の適正な把握のために講ずべき措置を明らかにしました。

また、令和2年4月1日以降、法改正により、残業代や未払い賃金の消滅時効(請求期間)は2年間から5年に延長されました。この点は、当面の間3年とされているものの、早ければ令和6年4月1日から原則通り5年と扱われる可能性が否定できません。加えて、令和5年4月1日から、中小企業も、月60時間超の残業代の割増利率が25パーセントから50パーセントに引き上げられています。法改正によって、残業代や未払い賃金トラブルに巻き込まれる

リスクや経済的な負担は増加していることから、労働時間の把握は一層大事なものとなっています。

(2)労働時間を管理するのは医師による面接指導の実施のため

労働安全衛生法では、企業が、一定の残業時間を超える労働者に対し、医師による面接指導を行う義務を負います(同法66条の8の2)。このため、企業は、面接指導の要否を判断するため、労働時間の状況を把握すべき義務も負担します(同法66条の8の3)。

企業がこれらの義務を怠った場合は、行政庁による立入調査や行政指導がなされる場合があります。

企業が従業員の時間外労働時間を正確に把握していなければ、予期せぬ残業代請求をされることもありますし、適切に面接指導を行わなかったことで労働災害が発生した場合は安全配慮義務違反による損害賠償請求をされることがあります。このため、企業が従業員の労働時間を把握することは重要な事業活動の一部といえます。

2.タイムカードのみで労働時間を管理することの困難性

ところで、企業は、タイムカードで労働時間を管理している、と回答する場合が多いのではないでしょうか。実際、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、労働時間を把握する方法として以下を挙げており、タイムカードを利用している企業が多いといえます。

①使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること

②タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。

③自己申告。ただし、上記①又は②の方法によることなく、これを行わざるをえず、必要な措置を講じた場合に限る。

大抵の場合、タイムカードの出退勤時間=労働時間、といえるでしょう。

しかし、労働の現場では、明らかに労働が終わっているのに、終わった後も中々退勤の打刻をしない従業員、あるいは、退勤の打刻をした後に残業をする従業員がいます。この場合、タイムカード上の出退勤時間≠労働時間であり、企業にとってはどちらにしても好ましくありません。タイムカードによる労働時間の管理が難しい場合、それ以外の方法で、労働時間の管理方法も検討に値します。例えば、クラウド勤怠管理システムは、仕事場所に直行・仕事場所から直帰する従業員の労働時間をより正確に把握しやすいシステムです。もっとも、職場の労働時間の管理方法を急に変えることも難しいでしょうし、管理方法を変えた結果労働者が出退勤時間を記録しづらくなったことで「労働時間の管理は企業側の義務であり、管理できない方が悪い」として、従業員が主張する労働時間を丸呑みするよう迫られることも予想されます。この点は、企業に合った方法で工夫すべきでしょう。

企業が労働時間の把握が困難だからといってこれを放置すると、後に、従業員側から残業代請求や企業の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求において、従業員がいうとおりの労働時間が裁判上認められることも十分考えられます。このため、企業は、従業員の労働時間管理を放棄することはできません。

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3.まとめー労働時間を管理するための具体的なサポート

時間外労働は、雇用契約で定める所定労働時間を超えて提供される労務であり、実態はともかく例外的な労務提供行為です。例外的なものである以上、企業側が時間外労働を厳格に管理すべき立場にあることを意識すべきといえるでしょう。具体的に何をするか、ですが、下記をご参考にされ、自社に適合した方法での労務管理をお薦めします。

・時間外労働を行う場合は、従業員から上司に対し、事前に、時間外労働の具体的必要性を明示した申告を求める(就業規則の改訂が必要となる場合があります)

・タイムカードその他の客観的記録と一致しない時間外労働が発生している日がある場合は、その齟齬について、できる限り速やかに、その従業員から理由を聴取するなどして労働時間性を確認し、実際の労働時間を記録し、管理する

・従業員が、事前に、上司が承認していないのに時間外労働を繰り返す場合は、その従業員に残業を禁止する職務命令を発する

・就業規則に「タイムカードは従業員の出退勤を確認するために利用するもので、労働時間を把握するためのものではない」と明示するなど、タイムカードの出退勤記録≠労働時間であることを明示する(=となった場合でも、それは結果論である、ということ)

以上、企業が従業員の労働時間を管理する場合の留意点についてお話をしました。従業員の労働時間の管理方法を考えることは企業の具体的な組織体制を考えることにもつながります。一朝一夕では組織体制を変えることができない

ため、労働時間の管理は継続的に取り組み、絶えず方法を見直すことが必要となります。このため、労働問題に関する知識や経験が豊富な弁護士や法律事務所の支援を受けながら、労働時間を正確に把握する制度を設計することをお勧めいたします。

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Last Updated on 1月 13, 2024 by kigyo-lybralaw

この記事の執筆者
弁護士法人リブラ総合法律事務所

事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。

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