営業秘密とは

1.はじめに

もと従業員の競業他社への引き抜きやもと従業員による競業行為については別のところでお話しいたしました。(競業避止については、こちらをご確認ください。

企業にとっては、いずれの事態も心中穏やかざるものがありますが、従業員にとっても職業選択の自由・営業の自由があることから、係る行為自体が直ぐに違法となるわけでなく、違法と評価される場合には、不法行為に基づく損害賠償請求や不正競争防止法に基づく差止請求が考えられ得る、ということを述べました。

もと従業員は、過去の自分の知見を活かした職場で職務を全うしようとするところ、その従業員が就業していた企業側からすれば、その企業内における秘密やノウハウを不当に利用するのではないかが気になるところです。

実際、もと従業員が企業の秘密を保持したまま他の企業に転職してその秘密を使用することで、企業間のトラブルが発生することもあります。

しかし、企業が守りたい秘密と、裁判所で保護の対象となる「秘密」は少し違います。以下では、不正競争防止法の「営業秘密」についてお話しします。

2.営業秘密の意義

不正競争防止法では、企業が他社に知られたくない事項のうち、「営業秘密」に該当し、他社が「営業秘密」を不正に使用・開示する行為が同法の行為に該当する場合、企業が他社に対し、侵害行為の差止めや損害賠償を請求することができる、とされています(不正競争防止法2条1項4号から10号)。

もっとも、不正競争防止法では、営業秘密の意義を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定めており(不正競争防止法2条6項)、企業が他社に知られたくない情報の全てを「営業秘密」と扱うわけではありません。

企業が他社に知られたくない情報が、不正競争防止法の「営業秘密」として扱われるためには、①秘密として管理されていること(秘密管理性)、②生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)、③公然と知られていないこと(非公知性)、という3つの要素

をクリアする必要があります。以下でみていきます。

3.営業秘密の要件

(1)秘密管理性について

この要件を満たすためには、その情報に接することができる従業員等からみて、その情報が会社にとって秘密としたい情報であることが分かる程度に秘密管理措置がなされていること(例えば、その情報へのアクセス制限やマル秘表記があること等)が必要になります。

つまり、従業員にとってもその情報が秘密として他の情報とは異なる取扱いをしていることが認識できる状態におかないといけません。

営業秘密か否かが問題となった裁判例は多数あるところ、裁判所は、その情報が秘密として管理されていたか否かを判断する要素として

①その情報とその情報を取り巻く環境

(業界におけるその情報の位置づけ、情報の性質、その企業の規模、

実際に誰がその情報にアクセスしていたかー重要か否かの判断ー)

②情報が漏えいした経緯

(従業員による漏えいか、不正取得によるものか

ーよくあるルートで漏えいしたのか否かー取り扱われ方の判断―)

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③情報の取扱い方(秘密として自由利用が禁止されるということが

従業員にとって認識できる状態だったかー秘密と認識されていたかー)

④情報の実際の取り扱い状況

の4つを総合的に考慮する姿勢がみられます。

①から④のうち、1つでも秘密らしからぬ取扱いをされていれば直ちに営業秘密性が否定されるわけではありません。ですが、とりわけ重要視されるのは③で、秘密表示(㊙、「confidential」等)があるか、パスワード設定があるか、他の情報と区別されているか、複製物をどう管理しているか、外部との秘密保持契約の有無、秘密保持誓約書の有無、秘密保持に関する研修・指導、就業規則における営業秘密の取扱い、といった外形的事情から「営業秘密」性を判断する傾向が強いといえます。秘密として管理していないということは、さほど重要な情報ではない、と判断されてもやむを得ないところです。

(2)有用性について

有用性は「財・サービスの生産・販売、研究開発等の事業活動を行っていくうえで有用」であることを意味し、事業活動で実際に使用・利用されたり、そのことで費用の節約や経営効率の改善につながるのであれば有用性があるといわれています。

有用性がある情報の具体例は、製品の設計図・製法、基礎的な研究データ等の技術情報、顧客名簿、仕入先リスト、販売マニュアル等があげられます。

他方で、企業が行う反社会的な行為や脱税の方法等公序良俗に反する内容は、その企業にとっては秘密にしたくとも「営業秘密」に該当しないといわれています。

ある情報につき有用性を否定的に解した裁判例もありますが、基本的には有用性が肯定されることは多いです。

(3)非公知性について

非公知性とは「保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態にあること」を意味し、具体的には、その情報が合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物に記載されていない、という状態を意味します。

一般的な傾向としては、秘密管理性が認められれば公知性が認められる可能性が高まると言えます。もっとも、特に技術情報については、その情報の性質や、関連する技術情報が刊行物で公になっている場合における非公知性の程度や、公知情報との同一性の程度、公知情報の組み合わせ、公知情報の選択等、公知性が問題となる点は複数あります。

4.その他

3で記載した3つの要素があってはじめて、不正競争防止法上の「営業秘密」となり、法的保護の余地がでてきます、ですが、私がお話を聞く限り、大抵の企業は「秘密管理性」をみたせていません。この秘密管理性は、扱う情報の内容・質によって管理の仕方が異なるところ、大抵の企業は、管理の煩雑さをクリアできていない状況です。

企業として守りたい情報、とりわけ「営業秘密」として法的保護の対象としたい情報があるのなら、速やかに専門家にご相談をされ、秘密として管理するための社内整備体制(就業規則等を含む)につき協議をした方がよいです。

秘密管理性は、従業員に、いかにその情報が「秘密」であると認識してもらうかが肝であるところ、管理体制が整えば、守りたい情報が無用に社外流出することを防止できるからです。

リブラ法律事務所では、企業の秘密情報の管理体制構築のために尽力することが可能です。お気軽にご相談ください。

Last Updated on 12月 18, 2023 by kigyo-lybralaw

この記事の執筆者
弁護士法人リブラ総合法律事務所

事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。

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