「発症前おおむね6か月以内に業務による強いストレスを受けた」とは?令和5年に改訂された指針のご紹介いたします

「発症前おおむね6か月以内に業務による強いストレスを受けた」とは?令和5年に改訂された指針のご紹介いたします

「発症前おおむね6カ月以内に業務による強いストレスを受けた」と従業員に言われた!

「発症前おおむね6カ月以内に業務による強いストレスを受けた」とは、従業員が、業務遂行の過程で心理的負荷による精神障害を被ったとする労災請求事案で、労災認定を受けるための要件の1つです。

<認定要件>

・対象疾病を発病していること

・対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

・業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。

上記認定要件のうち、1つ目と3つ目は、医師の診断書や当該労働者に他のストレス発生原因があったか(離婚、近親者の死亡等)で判断され、比較的客観性があるのに対して、2つ目は、労働基準監督署によって認定基準が異なると行政の一貫性という点からも問題が生じかねませんでした。

厚生労働省は、平成23年に「心理的負荷による精神障害の認定基準について」という通達を出し、係る通達に基づいて業務上生じた精神障害か否かを判断してきました。上記2つ目の要件との関係では、心理的負荷による精神障害の認定基準に添付されている「業務による心理的負荷評価表」(以下「評価表」といいます。)を用いて

①その従業員が遭遇した出来事が、この評価表に記載されている出来事にあてはまるかを検討する

②あてはまる出来事があれば、その出来事の心理的負荷の強度が「強」になるかを検討し、強と判断されれば上記2つ目の要件があると判断する

ただし、具体的な事例で、評価表上「中」と判断された場合でも、その他の要素(例えば長時間労働)が加われば要件をみたします。企業側として注意すべき点です。

厚生労働省は、令和5年9月1日、上記通達の一部を改訂し、今後は、改訂後の通達で判断をすることを公表しました。

今回は「対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること」という要件につき、改訂された通達でどのような内容となっているのかをお伝えします。

改訂後の内容

大まかにいえば、評価表に新しい出来事が追加され、パワハラ6類型が明記されました。全体的には、精神障害の悪化の場合のハードルが低くなりました。

(1)パワハラを原因とする労災

評価表で、心理的負荷が強と評価されるパワハラは下記のとおりです。

・上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合

・上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合

・人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がないまたは業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃が執拗に行われた場合

・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃が執拗に行われた場合

・心理的負荷としては中程度の身体的攻撃、精神的攻撃を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合

上記のパワハラのうち「執拗」とは、係る行為が反復継続する状態です。執拗とみられない場合、評価表上、心理的負荷は中となります。上記5つのいずれかに該当するパワハラがあれば労災と認定されますが、

どれにも該当しないのであれば、労災と認定されません。ただし、心理的負荷の強度が中に該当するパワハラの出来事があり、かつ、精神障害発病前の6ヶ月間のどこかで、1ヶ月100時間程度の時間外労働をしていたのであれば、心理的負荷は強と評価されます。

(2)評価表にカスハラや感染症対応が追加された

評価表には具体的な出来事が記載されており、係る出来事に該当すれば、その心理的負荷の強度が「強」か検討する、という枠組みがありました。今回、改訂により、評価表に新しい具体的出来事が追加されました。追加された具体的出来事の1つ目は、顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けたこと、いわゆるカスハラです。カスハラの心理的負荷が強になる場合は、次のとおりです。

・顧客から、人格や人間性を否定するような言動を反復・継続するなどして執拗に受けた

・顧客から威圧的な言動等その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える著しい迷惑行為を、反復・継続するなどして執拗に受けた

というものです。ここで「執拗」という言葉の意味は上記と同様です。

追加された新しい具体的出来事の2つ目は、感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事したこと、です。心理的負荷が強になるのは次の場合です。

・新興感染症の感染の危険性が高い業務に急遽従事することとなり、防護対策も試行錯誤しながら実施する中で、施設内における感染等の被害拡大も生じ、死の恐怖を感じつつ業務を継続した

評価表にこれらの新たな出来事が加わったことは、企業の従業員に対する安全配慮義務に影響を与えます。即ち、企業が、上記2つの出来事に対する対策もとらなかった、対策はとったが不十分だった場合に、その従業員が精神疾患を患った場合は、安全配慮義務に違反したとして損害賠償責任を負う可能性が高まった、ということです。

(3)評価表にパワハラ6類型が明記された

パワハラの6類型とは、次の6つです。

・暴行等の身体的攻撃

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・人格や人間性を否定するような精神的攻撃

・無視等の人間関係からの切り離し

・業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求

・業務上の合理性無く仕事を与えない等の過小な要求

・私的なことに過度に立ち入る個の侵害

評価表には、これまで、1つ目と2つ目が明記されていましたが、今回の改訂で3つ目から6つ目まで明記されました。

もっとも、3つ目から6つ目の類型で心理的負荷が強になるのは、反復・継続するなどして執拗に受けた場合です。ある従業員に対してこれらの行為が執拗になされたかどうかを認定するのは容易でないものの、これらの行為をパワハラと明記したことには意味があります。この点も、企業の従業員に対する安全配慮義務の内容に影響を及ぼします。

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(4)精神障害の悪化の要件緩和

精神障害の悪化とは、問題となっている業務による心理的負荷を受ける前から精神障害の通院歴があり、それが悪化した場合です。ある従業員が、精神障害のために医療機関に通院していたという場合、

一般論として、ささいな心理的負荷に過大に反応する傾向が見られ、悪化の原因が「大きな心理的負荷」に起因するとは限らない、つまり、仕事による強い心理的負荷が、精神障害の悪化の原因であると判断しづらい、という側面がありました。そのため、改訂前は、悪化前おおむね6ヶ月以内に特別な出来事がなければ、労災と認定されないという状況でした。

ここで、特別な出来事とは下記の場合です。

・生死にかかわる、極度の苦痛を伴う業務上の病気や怪我をした

・発病直前の1ヶ月におおむね160時間を超える時間外労働を行った特別な出来事は、とても酷い出来事、だといえます。

このため、従業員が主張する精神疾患が「悪化」と評価される場合、労災と認定されず、認定のハードルが高かったといえます。

今般の改訂により、精神障害の悪化前概ね6ヶ月以内に特別な出来事がない場合でも、業務による強い心理的負荷により悪化したときには、悪化した部分について労災と認定されることになりました。精神障害の悪化の場合、労災と認定されるための要件が緩和され、改訂前に比べると、労災と認定される可能性が高まりました。

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まとめー専門家が早い段階から労災事案に関わることの重要性

別の原稿でも書きましたが、企業内で労災の可能性がある従業員については、弁護士が早い段階から関わった方が、企業にとって良いです。

<労災に強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリット>

リブラ法律事務所では、過去、労災事案に企業側で関わった経験があり、その際の知見を企業側に提供することが可能です。また、具体的な労災事案がなくとも、私たちは「企業の(従業員に対する)安全配慮体制の構築」について助言することが可能です。安全配慮体制の構築は、労災の未然防止にも  つながります。お気軽にご相談ください。

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Last Updated on 12月 22, 2023 by kigyo-lybralaw

この記事の執筆者
弁護士法人リブラ総合法律事務所

事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。

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