社員の業務上横領が発覚したらどうするか!弁護士が解説

0.はじめに

社員が会社の金銭や物品を持ち帰っている場合にどう対応するか、以下では、その社員をどう扱うべきかをお伝えします。同じような事案に悩まれている場合は、最後までお読みください。

1.業務上横領罪とはー具体例―

社員が会社の財産(金銭や物品)を着服すると、業務上横領罪が成立する可能性があります。ここで、業務上横領罪とは、他人(会社を含みます)から、業務上、管理を任された財産を、自分のものであるかのように取得、着服、処分、隠匿する犯罪です。業務上横領の具体例は下記のとおりです。

・会社の経理担当社員が、会社預金口座から金銭を出金し、着服する

・会社の営業担当社員が、取引先から回収した金銭を着服する

・会社の物品管理担当社員が、倉庫にある物品をメルカリ等で処分する

その社員が単独で行った場合も、他人と共同で行った場合も業務上横領罪が成立します。

2.会社は業務上横領した社員に何ができるか 

では、会社は、その社員に何ができるでしょうか。

(1)損害賠償請求

社員の業務上横領は、不法行為に該当します。会社は、その社員に対して不法行為に基づく損害賠償請求をなすことができます。ここで注意して欲しいことは、被害の事実やその従業員が着服したことを知った時から3年を経過すると、損害賠償請求ができなくなることです。横領行為が発覚したときは、速やかに方針を検討しましょう。

(2)懲戒処分

会社は、その社員を就業規則に基づいて処分することが可能です。通常の就業規則には、社員が犯罪に該当する行為をした場合に、懲戒処分をすることができると書かれています。業務上横領罪は犯罪であるため、会社は、その従業員に対して懲戒処分をなすことが可能です。会社が、懲戒処分としてどういう処分をするかは、横領総額、横領行為の回数、横領行為の期間、手口の悪質性や、過去、会社で同種事案により処分した場合の内容、を考慮して決めることになります。もっとも、懲戒処分をなすにあたっては、後の3で述べるように、社員が横領行為をしたことを示す証拠を収集しておかなければなりません。懲戒処分はいわば会社の刑法ともいえることから、あやふやな根拠で社内罰を与えるわけにはいきません。もう1つ注意すべきことは、懲戒処分は、会社を退職した人物に対してなすことができないということです。つまり、業務上横領をした社員が退職している場合は、事後的に懲戒処分を下すことはできません。この場合は就業規則を確認し、例えば、その社員に懲戒解雇事由がある場合は退職金を支給しない、あるいは減額できる、という規定があれば、その規定を活用しましょう。社員が、会社の懲戒処分の動きを察知して、先手を打って自主退職を申し出ることがあります。この場合に、すんなり退職を認めるべきか、という相談を受けることがありますが、私は、よほど業務上横領の証拠がある、という場合でなければ、自主退職を受け容れるように指導します。理由は、自主退職を認めても損害賠償請求・刑事告訴が可能ですし、退職金不支給・減額規定があれば、この規定に基づいた処理が可能だからです。どうしても懲戒解雇したい、という会社も多いのですが、そうなると、社員も必死に懲戒解雇の有効性を争ってくることが予想され、紛争が未確定のまま長期化してしまいます。

(3)刑事告訴

刑事告訴とは、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、処罰を求めることです。告訴すれば、刑事責任を追及できる可能性がでてきます。業務上横領罪は「10年以下の懲役」が下される、重い部類の犯罪です。横領額が高額であれば、社員に対して実刑判決がくだされることもあります。刑事告訴して実際に捜査がなされれば、その社員にとって強烈なプレッシャーとなることは間違いがありません。刑務所に行くのは嫌ですから。このため、その社員は、告訴により捜査が開始すると、会社に対して被害を弁償して刑事裁判を免れたいという意識が芽生え、その社員に資力がなくとも、親族等から被害弁償を受けられることがあります。反面、会社がその社員の求めに応じて被害弁償を受けてしまうと、刑事処分が軽くなり、そもそも、刑事裁判にならない可能性がでてきます。このため、その社員から被害弁償を申し出られた場合は、その対処を慎重に検討することになります。この他、その社員を刑事告訴することは、社内での再発防止につながるものの、他方で、刑事裁判になるとマスコミを通じて社内で事件があったことが流布される(会社名が明るみになる)可能性もあります。このため、刑事告訴するかどうかは慎重に考えなければなりません。

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3.社員に対する手段をとるために必要なこと

証拠の確保です。その社員がいつ、何を横領したのかがわかる証拠があるか、について十分に検討され、証拠を確保してください。証拠がなければ、告訴を受理してもらえませんし、懲戒処分や損害賠償請求も怪しくなります。ここで、検討の方法は、他の社員や取引先への聞き取り、取引に関する客観的な記録(在庫、納品書、現金出納等お金や物品の流れが分かる資料、その社員が犯行を行っている画像)の収集、確認が考えられます。ただし、その社員に動きを察知されると、証拠隠滅のおそれがあります。このため、調査や証拠収集は慎重に進め、たとえ、他に業務上横領を行った可能性が否定できないとしても、確実に証拠により証明できる業務上横領行為のみを損害賠償・懲戒処分・告訴の対象としてください。なお、証拠として一番効果が高いのはその社員による自白です。本人が業務上横領行為を自白したのであれば、そのことを必ず書面にしてください。

4.まとめ

ある社員に業務上横領の疑いが生じたとしても、疑いだけでは会社としての手段をとることはできません。会社内部では、その従業員が業務上横領を行ったことが明らかである場合でも、その点に関する証拠がなければ、第三者(警察、裁判所)を説得することはできません。
また、業務上横領が発覚した場合に、その社員にどういう手段をとるのかについては、手段をとった場合のメリット・デメリットを比較検討したうえで決定しなければなりません。会社は、大抵、業務上横領を行った社員に対する扱いに慣れていません。このため、会社が初動で適切な行動を取れないことが多く、気が付けば時間を浪費することにもなりかねません。そもそも、会社は、社員が業務上横領を働いてもすぐに察知でき、かつ、その点に関する証拠も早期に集められる、早期の懲戒処分も可能である、という体制をとっておくことが大事であり、日常業務から社員の不正を予防できるような仕組みを構築したほうがよいです。リブラ法律事務所では、個別に、社員の業務上横領についてご相談を受けることも可能ですが、やはり、顧問契約を締結して日常的に会社の業務フローに接することで、実際に業務上横領が発覚した場合もスムーズに助言(調査方法や捜査機関や裁判所にとって効果的な証拠の収集)をなすことが可能です。社員の業務上横領が発覚した、どうしたらよいか、とお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。

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Last Updated on 8月 19, 2024 by kigyo-lybralaw

この記事の執筆者
弁護士法人リブラ総合法律事務所

事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。

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