1.就業規則が必要な理由
労働基準法上、常時10人以上の従業員を使用する事業場がある会社は、「就業規則の作成及び届出の義務」を負担しています。にもかかわらず、就業規則を作成していない場合は労働基準法違反となり、30万円以下の罰金が科されます。
裏を返せば、常時10名未満の従業員を使用する事業所がある会社には就業規則の作成及び届出義務がないともいえます。とはいえ、就業規則は社内のルールであるため、従業員の数に関わらず作成しておいた方がよいでしょう。もし就業規則を作成していない場合は、後で述べる通り、会社が様々な不利益を被ります。
2.就業規則がない場合の不都合
(1)扱いにくい従業員がいても懲戒処分ができない
就業規則がない場合、扱いにくい従業員が問題行動を起こした場合でも、懲戒処分を科すことができません。会社は、懲戒処分を社内秩序維持のためになすところ、処分ができないと秩序を維持しづらくなり、会社の労務管理がやりにくくなります。
(2)従業員が守るべき会社のルールがはっきりしない
社長のみなさまは、例えば、採用した従業員の指や手に小さいとはいえ入れ墨があった、職場に着てくる服装が職場の雰囲気にそぐわない、という経験をしたことがありませんか。そんなとき、就業規則で「従業員が職場で守るべきルール」を決めておかなければ、指導をすることの明確な根拠がないといえます。そのことは、従業員間での軋轢となることが予想されます。この点、会社の就業規則で「服務規律」を定め、会社の従業員として守るべきルールを明確にしておいた方がよいです。
また、最近では、副業として複数の仕事を掛け持つ従業員も増えてきたところ、副業に就く際には会社に連絡するように、との就業規則がなければ、例えば会社の秘密が競合他社に漏れた場合の対処方法や、自社の仕事がおろそかになることが多いといえます。
(3)その他
就業規則がなければ、下記のような場合に困ることになります。
・定年がない
→民法や労働基準法には、定年に関する定めはありません。このため、雇用契約の際に個別に合意しないと、定年のない雇用契約
・病気休職者の扱いに困る
→民法や労働基準法には、休職期間や復職の時期、あるいは休職が相当続いた場合にどう扱うかの定めはありません。このため、就業規則がなければ、病気休職する場合のルールがないことになってしまい、従業員が病気になった時の対応をめぐってトラブルになることがあります。
・職務に不真面目な者がいても思った通りの減給ができない
→民法や労働基準法には、減給の定めはありません。このため、給与に見合う仕事や成果を出さない従業員に対しても、給与の減額などの対応ができません。
3.その他のルールがない場合の不都合
就業規則がないということは、普通、従業員の賃金に関する規定や正社員以外の社員に対するルールもありません。
労働基準法上、就業規則には「賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」を必ず記載しなければなりません。
従業員やその他の社員にとって自分の給与額、その他の手当の有無、定期昇給の有無、退職金の有無は最も関心が高い事項です。従業員や社員からみて、賃金に関するルールがないということは、経営者の一存で給与が決められるのなら仕事を頑張っても意味がないとして、モチベーションの低下につながります。
また、正社員に対する就業規則はあってもパートに関する規則がない場合は、通常、正社員に関する就業規則がそのまま適用される可能性があります。よくパートは正社員ではないから独自のルールを作る必要がない、と誤解されることがありますが、常時10人以上の従業員を使用する事業場では、その全従業員について適用される就業規則を作成することが義務づけられています。この場合、パート社員用の就業規則がなければ労働基準法違反か、あるいは、正社員の就業規則を適用されることにもなりかねません。
また、コロナ禍でテレワークによる勤務を検討された企業もあるところ、従業員にテレワークを認める際は、就業規則の中か、あるいは、別途テレワークに関するルールを作成する必要があります。細かい例だと、テレワークの通信費は誰が負担するか、在宅勤務の従業員と携帯電話で話すときの通話料は誰が負担するか、在宅勤務の従業員の労務管理をどうするか、は、いずれも、事前にルールを決めておかないと、人によって扱いが変わることがあり得、従業員間に不公平感が生まれます。
4.まとめ
従業員は、意外と、他の職場と自社との待遇の違いを情報交換しあいます。
その際、自社に就業規則や他のルールがない、となると、取扱いが不明確ということになり、従業員から信用を失いかねません。
そればかりか、就業規則を含めたルールは、その企業にとっての秩序の基礎となります。就業規則には、通常、始業・終業時刻、休憩時間や休憩を定めますが、その決め方から企業の秩序が形成されます。また、有給休暇は、労働基準法の要件を満たすと自動的に発生しますが、従業員からすると、有給休暇の取得方法がルール化されていないと、安心して有給休暇を利用してよいかどうかが分からずに利用を遠慮し、不満がたまることもあります。特に、自社の規模を大きくしていきたいと願う社長にとって就業規則を含めたルールの決定は絶対に必要です。
就業規則や社内のルールのつくり方ですが、インターネットにあるひな形を用いるのも1つのやり方でしょう。しかし、就業規則や社内ルールは、中小企業にとっては社長が一番知る必要があるところ、できあいのひな形を利用するだけでは、そのルールの意味や根拠を理解することが困難です。また、ひな形はその会社の個別の事情を考慮しておらす、個別の事情を定めようと思うと法律に違反する等といった事態も生じがちです。
また、就業規則については内容を定めるだけではだめで、従業員の過半数代表から話を聞いたり、労働基準監督署に届け出たり、その就業規則を日頃どう管理するか、といった細かな段階があります。ひな形を用いるだけでは、その点をどうしたらよいか分からなくなります。
リブラ法律事務所では、就業規則の策定に精通した弁護士が就業規則作成のご相談に対応します。その企業の実情に応じた就業規則等のルールを策定することも可能です。
就業規則等の社内ルールが整備されておらず、お困りの企業様はぜひご相談ください。
▼弁護士による対応はこちらから▼
Last Updated on 12月 18, 2023 by kigyo-lybralaw
この記事の執筆者 事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。 |