介護業における問題社員への適切な対応方法を弁護士が解説!

1.介護施設の職員に特有の労務問題

介護施設の職員に特有の労務問題として、以下の3つを挙げることができます。

(1)高い離職率

介護職は身体的・精神的に負担が大きい仕事であり、長時間労働や夜勤が多いことが一般的です。また、感謝の言葉を直接的に受けることが少ないことや、給与水準が低いことが、モチベーションの低下や職場への不満につながり、離職につながりやすいとされています。

(2)職員間のコミュニケーション不足

介護施設では、職員が多忙であるために、十分なコミュニケーションの時間が取れないことが多いです。特に、シフト制で勤務する職員間では、業務の引き継ぎや情報共有が不十分になることがあり、これがミスやトラブルの原因となることがあります。

(3)感情労働によるストレス

介護職は、利用者やその家族との密接な関わりが求められるため、感情労働が非常に大きいです。利用者のニーズに応え続けることで、感情的な負担が蓄積しやすく、ストレスやバーンアウト(燃え尽き症候群)を引き起こす原因となります。

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2.1を原因とする問題職員の特徴

介護施設における問題社員が発生する原因は、介護施設特有の労務問題と密接に関係しています。以下に、それぞれの問題社員の特徴と、対応する労務問題との関連を説明します。

(1)利用者への対応が不適切

関連する労務問題: 感情労働によるストレス

介護職員は、日々利用者と密接に関わりながら感情的な負担を背負っています。このような感情労働によるストレスが蓄積すると、職員は適切に感情をコントロールできず、利用者への対応が不適切になる可能性が高まります。

(2)業務に対する責任感が欠如している

関連する労務問題: 高い離職率

介護職は長時間労働や過剰な業務負担が多いため、職員がバーンアウトしやすい環境です。このような環境では、職員が疲労やモチベーションの低下により、業務に対する責任感が希薄になり、結果として業務を怠けるようになることがあります。

(3)職場の規律やルールを守らない

関連する労務問題: 職員間のコミュニケーション不足

介護施設では、シフト制や業務の多忙さから、職員間でのコミュニケーションが不足しがちです。このような状況では、規律やルールに対する共通認識が薄れ、職員がルールを守らない傾向が強まります。また、コミュニケーション不足によって、問題がエスカレートする前に気づかれないこともあります。これらの要因が組み合わさり、問題社員が生まれやすい環境が形成されることになります。これらの問題に対処するためには、労務管理の改善が不可欠ですすし、この点は介護施設を運営されている皆様もご承知で、打てる対策は打たれていると存じます。

3.問題職員に対応できない場合のリスク

問題職員の職務態度を改善しなければ、その職員が、施設内で、下記のような問題を引き起こすリスクがあります。

(1)利用者への対応が不適切な職員が引き起こす問題

①利用者の不満・クレームの増加

利用者やその家族が職員の対応に不満を抱き、クレームが増えることで、施設の評判が低下するリスクがあります。

②利用者の健康状態の悪化

不適切な対応によって、利用者に必要なケアが適切に行われない場合、利用者の健康状態が悪化するリスクが高まります。

③職員間の信頼関係の崩壊

不適切な対応を目撃した他の職員が、チーム全体のモチベーションに悪影響を与え、信頼関係が崩れることがあります。

(2)業務に対する責任感が欠如している職員が引き起こす問題

①業務の滞りや遅延

責任感が欠如している職員がいると、予定されていた業務が滞るか、遅延することで他の職員にも影響が出ます。

②業務ミスの増加

業務に集中できず、責任感が不足しているため、ミスが発生しやすくなります。これにより、利用者のケアに重大な影響を及ぼす可能性があります。

③他の職員への過剰な負担

責任感の欠如により、他の職員がその穴埋めをしなければならず、結果として過労やストレスを引き起こします。

(3)職場の規律やルールを守らない職員が引き起こす問題

①施設内の安全リスクの増加

規律やルールを守らないことで、利用者や他の職員の安全が脅かされる可能性があります。例えば、緊急時の対応が遅れるなどのリスクが考えられます。

②職場の秩序の乱れ

ルール違反が常態化すると、他の職員もそれに影響され、職場全体の秩序が乱れることがあります。

③法的リスクの増加

労働基準法や介護保険法などの法規制を無視する行為が発生し、外部に発覚した場合、施設が法的責任を問われるリスクがあります。これらの問題は、介護施設の運営やサービスの質に深刻な影響を及ぼすため、問題職員に対して早期に適切な対応を取ることが重要です。

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4.法的対応の重要性と注意点

介護施設として問題職員を注意・指導していき、業務態度が改善されればよいのですが、改善されない場合は、当該職員の解雇をも視野に入れざるをえません。もっとも、業務態度が改まらない職員であっても、解雇は相当ハードルが高いと考えてください。以下では、施設側の不当解雇と言われないために注意すべきポイントを、重要度が高い順に整理しました。

(1)解雇を根拠づける事実について十分な証拠を収集する

解雇理由を正当化するためには、職員の問題行動に関する具体的な証拠が必要です。これには、職員の業務態度やパフォーマンスに関する記録、警告や指導履歴、目撃者の証言などが含まれます。証拠が不十分な場合、解雇が不当とみなされるリスクが高まります。

(2)適切な手続きを踏む

解雇手続きが法的に適切に行われていなければ、手続き上の不備を理由に不当解雇と主張される可能性があります。解雇前に口頭や書面での警告、懲戒処分の履行など、段階的な手続きを経ることが求められます。

(3)就業規則に基づいた対応をする

施設の就業規則に問題行動が明確に規定されており、解雇理由が規則に基づいていることが必要です。他方、就業規則が曖昧で、職員が規則に対する理解が不足している場合、規定の解釈について複数の選択肢がありえ、不当解雇とされるリスクが高まります。

(4)公平な処遇を維持する

他の職員に対して同様の問題行動に対する処遇が異なる場合、解雇が差別的または不公平とみなされる可能性があります。同じ問題に対して一貫した対応を行うことが重要です。

(5)解雇理由を明確に説明する

解雇の際には、職員に対して具体的な解雇理由を明確に伝えることが重要です。職員が理由を理解しないまま解雇された場合、感情的なトラブルに発展し、不当解雇として争われる可能性があります。これらのポイントを考慮して解雇を進めることで、不当解雇とされるリスクを最小限に抑えることができます。

5.具体例から見る手続選択

以下では、問題職員に辞めてもらったケースを具体的にお伝えします。

(1)退職勧奨

職員Aは、介護施設での勤務態度に問題があり、利用者や他の職員とのトラブルが頻発していました。しかし、職員Aの過去の勤務歴や年齢を考慮し、解雇すると労働問題になる可能性があると判断し、施設側は、懲戒解雇は避けたいと考えました。そこで、施設側はAとの面談を複数回行い、これまでの問題行動について具体的な事例を提示しました。その上で、Aに対して今後の改善が期待できないので解雇も考えられるが、できれば自主的に退職して欲しい、という施設の意向を伝えました。その際、施設側は、退職後の再就職支援や退職金の増額などの条件を提示し、Aが自発的に退職するよう促しました。Aはこれを受け入れ、円満に退職しました。この事例のポイントは、退職勧奨を受け入れやすい条件を提示し、Aのプライドや将来に配慮しつつ、対話を重ねて円満な退職を実現した点です。

(2)懲戒解雇

職員Bは、介護施設のルールを無視し、施設内で重大な事故を引き起こしました。また、複数回の警告や指導を無視し、同様の問題行動を繰り返していました。施設側としては、他の職員や利用者の安全を確保するために、早急な解雇が必要でした。そこで、施設側は、Bの問題行動に関する証拠を収集し、就業規則に基づいて懲戒解雇の手続きを進めました。Bには、これまでの警告や指導の履歴と共に、具体的な解雇理由を明確に説明しました。施設側は、解雇の理由や手続きが法的に適切であることを示し、不当解雇として争われるリスクを最小限に抑えました。この事例のポイントは、Bの問題行為について証拠をきちんと収集できたことです。そのうえで、手続きを厳格に行ったことで、Bは懲戒解雇を受け容れました。

(3)普通解雇

 職員Cは、介護施設での業務パフォーマンスが低く、何度も指導を受けましたが改善が見られませんでした。また、チーム内のコミュニケーションにも問題があり、他の職員との連携が困難な状況が続いていました。そこで施設側は、Cに対して業務改善計画を提示し、具体的な目標と期限を設定し、業務改善を促しました。しかし、Cの業務に改善が見られなかったため、施設はCに対して普通解雇の手続きを進めることになりました。施設側は、解雇に至るまでのプロセスや理由をCさんに丁寧に説明し、納得の上で退職に至りました。この事例のポイントは、Cに業務改善の機会を与え、段階的な手続を踏むことで、Cに解雇の正当性を理解してもらったことが大事でした。

(4)雇止め

職員 Dは、介護施設で有期雇用契約の職員として働いていました。契約期間は1年で、これまでに2回更新されていました。しかし、最近、Dの業務パフォーマンスが低下しており、さらに施設の経営状況の変化もあって、契約更新が難しい状況になっていました。そこで、施設側は、Dとの契約期間終了の3か月前に面談を実施しました。面談では、Dに、これまでの契約期間中の評価とともに、今後の契約更新が難しい理由を丁寧に説明しました。施設側は、Dに対して、雇用終了に至る経緯やその根拠を明確にしつつ、次の就職活動の支援も提案しました。具体的には、ハローワークでの就職斡旋や、退職後の生活支援に関する情報提供を行いました。その結果、Dは、施設側の説明を理解し、納得の上で契約満了を迎えることに合意しました。Dはその後、施設の支援を受けて新しい職場を見つけ、円満に退職しました。施設側も、適切な手続きを踏んで雇止めを行ったことで、トラブルを回避できました。この事例のポイントは、雇止めに至るまでの過程で適切なコミュニケーションと支援が行われたことが、円滑な退職につながりました。重要なのは、契約終了の理由を明確にし、職員が納得する形での対応を行うことです。これらは、適切な手続きや配慮を行うことで、円満な退職を実現した、双方にとってよい解決といえます。

6.まとめー弁護士が早期に関与することのメリット

介護施設における問題職員の業務改善にあたり、早期に弁護士が関与する、とりわけ、顧問弁護士として関与してもらうことには、以下の3つのメリットがあります。

(1)法的リスクの回避と予防

 顧問弁護士が関与することで、法的なリスクを早期に発見し、回避するための助言を受けることができます。特に、問題職員に対する対応が不当解雇やパワハラと見なされないよう、法令に基づいた適切な手続きを踏むことが可能になります。

(2)迅速な対応と意思決定のサポート

 問題職員の対応に際し、現場での迅速な意思決定が求められる場合があります。顧問弁護士が常に相談できる状態にあることで、法的な観点から即座にアドバイスを受け、最適な行動を選択することができます。これにより、問題が大きくなる前に対処できる可能性が高まります。

(3)職場環境の安定化と信頼構築

 職員に対して公正かつ適切な対応が取られていることを示すためにも、顧問弁護士の存在は重要です。弁護士が関与することで、職員は施設の対応が公正かつ法的に正しいものであると理解し、職場全体の信頼関係が向上します。これにより、施設の運営が安定し、他の職員のモチベーションにも良い影響を与えることが期待できます。いかがでしょうか。勿論、弁護士が、紛争毎にご相談をお聞きして対応することもできます。しかし、今後のこともありますので、顧問弁護士として契約し、当該弁護士に早い段階から問題職員対応に関与してもらうことは、施設運営のリスク管理と職員対応の両面で大きな効果を発揮することは間違いありません。まずは、リブラ法律事務所にお気軽にご相談ください。

Last Updated on 8月 19, 2024 by kigyo-lybralaw

この記事の執筆者
弁護士法人リブラ総合法律事務所

事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。

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