従業員から残業代請求をされた!どうすれば?会社側の対処法について弁護士が解説!

0.はじめに

従業員から未払い残業代を請求された場合、会社側の対処方法は、大別すると5つあります。以下で、それぞれの方法について解説します。その際、それぞれの方法に対して、会社からの反論が奏功する場合をご紹介します。

1.従業員が主張する労働時間が正確でないこと

今は、従業員の労働時間をタイムカードで管理する会社が多いです。従業員は、残業代を請求する際に、タイムカードを証拠として提出して時間外労働時間があったことの証拠としてきます。裁判所は、基本的に、タイムカードに印字されている労働時間の記載を信用し、その時間は実際に仕事をしていたものと推認します。このため、会社側が、“従業員が勤務時間中に「業務に関係ないWebサイトを閲覧していた」、「私的なメールを送信していた」、「デスクのパソコンで仕事をせずにゲームをしていた」、「喫煙するために頻繁に離席していた」から、その時間は仕事をしていない”と主張しても、その主張は認められず、タイムカード通りの労働時間を認定することがほとんどです。もっとも、会社側が、その従業員について「Webサイトを〇月〇日の何時から何時まで閲覧していた」「〇月〇日に私的なメールを送信するために〇時間もかけていた」「喫煙のための離席を合計すると○時間になり、その状態が〇月〇日から×月×日まで続いていた」という事情を克明に記録していた場合は話が変わってきます。裁判所は、そこまで克明に記録を残せるということは、会社側がきちんと労働時間管理をしていたと判断することもあるからです。また、タイムカードに記載された時間が印字ではなく手書きであるなど、人為的な操作がなされている場合は、その主張する労働時間に疑いを差しはさむ余地があるといえます。

要は、その従業員が労働していなかった時間を具体的に、証拠をもって示す必要があり、これに成功すれば、タイムカードどおりの労働時間を認定することはありません。こういうことがあるので、会社は、従業員に対し、日頃から、タイムカードの打刻を適切になすように指導し、不適切であれば「その日に」「その場で」指導する必要があります。

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2.従業員が会社の許可を得ずに残業していたこと

この点に関し、会社側からは、就業規則には残業について上司の事前の許可を得ないといけないとなっているのに、実際には得ていない、許可を受けていない残業は認められない、との主張が考えられます。会社の実際の運営は「就業規則上は、上司の許可がなければ残業を認めていないが、上司が、従業員が残業していることを知りながら、特に許可を求めなかった(残業を黙認していた)」ことが多いです。裁判所は、このような場合に「許可をしていたのと同じ」として残業代請求を認めます。ですから、単に就業規則では残業が許可制だと主張しても通らないのです。他方、会社が具体的に許可なし残業を認めていなかった場合、即ち、許可なし残業が発生しないように会社側が日々従業員を指導していたのであれば、許可なし残業を労働と認めない、と判断される可能性はあります(その場合でも、タイムカードの打刻時間が残業禁止指導と齟齬がないように打刻についても指導をする必要はあります)。

3.従業員が管理監督者であること

管理監督者とは「監督若しくは管理の地位にある者」(労働基準法41条)をいい、管理監督者に該当する場合は法律上、残業代は発生しません。もっとも、管理監督者の労働時間は把握する必要がありますし、深夜労働については割増賃金を支払う必要があります。この点は誤解が生じやすいので、念のためお伝えします。 会社の就業規則では、特定の役職についた従業員を管理監督者と定め、残業代は支払わない旨規定していることがあります。ですが、ある従業員が管理監督者といえるかどうかは、就業規則の記載ではなく、裁判所が判断します。裁判所は、ある従業員が管理監督者に該当するかどうかについて「経営者と一体的地位にある従業員かどうか」という判断基準を用います。判断基準該当性の考慮要素は、①管理職に「労務管理上の重要な権限」が付与されていたか、②管理職が「経営方針の決定に関与する立場」にあったか、③管理職の「出退勤」が自由であったか、④管理職が「残業代を支払わなくてもよい程度の待遇」を受けていたか、です。現実の裁判では、管理監督者性を否定されることの方が多いのですが、会社内で特定の立場にあった従業員については、係る主張をなすことを検討してもよいでしょう。

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4.従業員に対して固定残業代を支払っていること

会社は、従業員からの残業代請求に対して、固定残業代を支払っているためこれ以上支払う必要はない、という反論をなすことが考えられます。もっとも、固定残業代は、その制度設計を間違うと残業代として支払ったとは扱われず、裁判で、別途残業代を支払うよう命じられることもあります。固定残業代として認められるためには、就業規則や契約書にどう記載するか(区分明確性)、どういう根拠で固定残業代を定めたのか(対価性)について十分に検討しなければなりません。とても注意が必要な制度です。実際、会社側の固定残業代主張が認められず、更に残業代を支払わされている裁判例が多々あります。

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5.残業代請求権が時効により消滅していること

残業代については、給与支払日の翌日から起算して3年で消滅時効にかかります。会社がこれを主張して残業代の支払いを免れることが可能です。もっとも、残業代の消滅時効期間は、現時点で3年となっているものの、令和7年4月1日以降は、消滅時効期間が5年に延長される可能性があります。この根拠は、民法上の債権の消滅時効期間が、原則、5年又は10年であり、残業代の3年の消滅時効がむしろ異質であることから、民法の原則と別異に扱う理由がないとして、5年と扱われる可能性はあります。この点、ご留意をお願いします。

6.まとめ

いかがだったでしょうか。従業員からの残業代請求については、会社側からも相応の反論が不可能ではないことをお伝えいたしました。裁判所が、残業代請求があった場合に重視しているのは「労働実態」です。このため、単に「就業規則等に○○と書いている」というだけでは、残業代請求を退ける根拠とならないことを改めてお伝えいたします。日々の運営から残業代を発生させないように管理していくことが大事だ、ということです。もっとも、会社によっては、従業員の労働時間を個別に管理するのは無理、ということもあろうかと存じます。リブラ法律事務所では、会社にとって意図せぬ残業代が発生することで経営上のリスクとならないようサポートをいたします。サポートの仕方としては、就業規則等の規定の内容確認、労働時間管理の実態確認、会社側の人的・物的事情をお聞きし、その会社にとって最適な体制の構築に尽力いたします。勿論、個別の従業員から残業代請求を受けたら、その都度ご相談をいただくことも可能ですが、私は、会社と顧問契約を締結して、個別の残業代問題のみならず継続的に会社と弁護士が関わっていくことをお薦めします。と申しますのも、就業規則に不備があり、あるいは、労働時間管理の実態が芳しくないことから、このままでは今後も同じ問題が起こることが明確になるなど、個別対応以外にも会社として対応すべき点が色々と出てきたときに、スポットで相談をしづらくなってくるからです。ましてや、残業代請求毎に相談する弁護士が違う、ということになると、話の通りがよくありません。

リブラ法律事務所と顧問契約を結んだ場合は、例えば

・個別の残業代請求事案で、会社側の反論が通りそうかを、その都度、電話、メール、ウェブ会議で弁護士に相談できる

・今後、同種事案で残業代を発生させないために何をしたらよいのか、をいつでも弁護士に電話、メール、ウェブ会議で相談できる

・就業規則等社内規則の内容が法律に適合しているか、あるいは法改正に対応しているかについて、いつでも弁護士に電話、メール、ウェブ会議で相談できる

というサービスを受けられます。会社にとって問題である従業員の労働時間管理には継続的な取り組みが必要です。会社が、特定の弁護士にいつでも相談できる体制を作ると、その弁護士も会社の社風や実情を深く理解でき、正しい対応を選択できます。是非、顧問契約の締結をご検討ください。

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Last Updated on 8月 13, 2024 by kigyo-lybralaw

この記事の執筆者
弁護士法人リブラ総合法律事務所

事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。

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