【運輸業向け】フリーランス新法とは?その概要から実務対応、今後の展望まで徹底解説

0.はじめに

近年、働き方の多様化が進む中で、フリーランスという働き方を選択する人が増えています。運輸業界においても、例外ではありません。このような背景を受け、フリーランスとして働く人々を保護するための新たな法律、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、通称「フリーランス新法」が2令和6年11月1日に施行されました。

本稿では、運輸業に携わる皆様に向けて、フリーランス新法により、実際にどのような対応が必要になるのか、そして今後の運輸業界におけるフリーランスの活用について、詳しく解説していきます。ぜひ、今後の事業運営の参考にしていただければ幸いです。

1.「フリーランス新法」制定の経緯

フリーランスは、その自由な働き方から多くの人に選ばれていますが、一方で、発注者との間で立場の弱さから、不当な扱いを受けるケースも少なくありませんでした。具体的には、以下のような問題点が指摘されていました。

(1)契約内容の不明確さ

業務内容や報酬、支払い条件などが曖昧なまま契約が締結されることがあり、後々トラブルに発展する可能性がありました。

(2)一方的な契約解除

発注者の都合で、予告期間が十分にないまま契約が解除されることが

あり、フリーランスの生活基盤を不安定にする要因となっていました。

(3)不当な廉価買い叩き

フリーランスの専門性やスキルに見合わない低価格で業務を依頼される

ことがあり、適正な報酬が得られない状況がありました。

(4)ハラスメント行為の存在

発注者からのハラスメント行為により、フリーランスが安心して業務に

取り組めないケースがありました。

このような状況を改善し、フリーランスが安心してその能力を発揮できる環境を整備するために、フリーランス新法が制定されたのです。

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2.フリーランス新法の概要-運輸業に関わる主要なポイント-

フリーランス新法は、特定の要件を満たす「特定受託事業者」(主に法人以外のフリーランス)と「特定委託事業者」(フリーランスに業務を委託する事業者)との間の取引を対象としています。

運輸業では、個人で貨物自動車を運転するドライバーや、特定の業務を請け負うフリーランスと契約する場合にこの法律が適用される可能性があります。

運輸業者は、フリーランスとの関係で「特定委託事業者」となることが多いです。特定委託事業者がなすべきことは以下のとおりです。

(1)特定委託事業者の契約条件明示義務(第3条)

書面による契約内容の明示

特定受託事業者に対して、業務委託の内容、報酬の額、支払期日、

支払い方法、契約期間、契約解除の条件などを記載した書面(電磁的

記録を含む)を交付する義務が課せられます。これにより、契約内容

が明確化され、後々のトラブルを未然に防ぐことが期待されます。

(2)報酬の遅延に対する遅延利息の支払い(第4条)

特定受託事業者への報酬の支払いが遅れた場合、特定委託事業者は

遅延利息を支払う義務があります。これにより、フリーランスの経済的な安定が図られます。

(3)一方的な契約解除等の制限(第5条)

特定委託事業者は、特定受託事業者に責任がないにもかかわらず、

一方的に契約を解除したり、報酬を減額したりする行為が制限され

ます。正当な理由がない限り契約解除や報酬減額は認められません。

(4)特定受託事業者の給付の受領拒否の禁止(第6条)

特定委託事業者は、特定受託事業者が提供した業務の成果物などに

ついて、正当な理由なく受領を拒否することが禁止されます。

(5)特定受託事業者の責に帰すべき事由による契約解除等の予告(第7条)

特定受託事業者の責に帰すべき事由によって契約を解除し、あるいは

報酬を減額したりする場合、特定委託事業者は原則として30日前までにその予告を行う必要があります。

(6)ハラスメント対策(第9条)

特定委託事業者は、特定受託事業者に対して、業務遂行に関連して

ハラスメントを行ってはなりません。また、ハラスメントを防止する

ための措置を講じる義務も課せられます。

特定委託事業者が上記の義務を履行することで、特定受託事業者はより安心して業務に取り組めます。契約内容の明確化、報酬の確実な支払い、不当な契約解除の防止等、様々な面で保護が強化されます。

3.運輸業への影響-利点と懸念点-

フリーランス新法の施行は、運輸業者に様々な影響を与えます。ここでは、そのメリットと懸念点について見ていきましょう。

(1)利点

①多様な働き方の推進と人材確保

フリーランスという働き方を希望する人材に業務を委託しやすくなる

ため、人材不足が深刻な運輸業界において、新たな人材確保の手段と

なる可能性があります。

②柔軟なリソースの活用

繁忙期や特定のプロジェクトに必要な期間だけ、フリーランスに業務

を委託することで、柔軟なリソースの活用が可能になります。

③専門性の高いスキルやノウハウの活用

特定のスキルや経験を持つフリーランスに業務を委託することで、

自社にない専門知識やノウハウを活用することができます。

(2)懸念点

①業務委託契約の明確化と事務負担の増加

これまで曖昧なまま行われていた業務委託契約について、書面での

明確な取り決めが必要となるため、事務手続きが増加する可能性が

あります。

②コスト増加の可能性

報酬の遅延に対する遅延利息の支払い義務や、一方的な契約解除の

制限などによりコストが増加する可能性があります。

③労務管理の複雑化

フリーランスは労働者ではないため、労働基準法などの労働関連法規

は直接適用されません。ただし、ハラスメント対策など、一定の配慮

が必要となるため、労務管理が複雑になる可能性があります。

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④契約内容の見直しと調整

既存のフリーランスとの契約内容について、新法の規定に適合する

ように見直しや調整が必要となる場合があります。

4.運輸業者が取るべき対応-具体的な対策-

フリーランス新法の施行に向けて、運輸業者は以下の点について具体的な対策を講じる必要があります。

(1)既存の業務委託契約の見直しと契約書の改訂

現在、フリーランスと締結している業務委託契約の内容を改めて確認し、新法の規定に適合するように契約書を改訂する必要があります。特に、業務内容、報酬、支払い条件、契約期間、契約解除の条件などを明確に記載するようにしましょう。

新たな契約締結プロセスの構築:今後、新たにフリーランスと業務委託

契約を締結する際には、新法の規定を遵守した契約書を作成し、交付する

プロセスを構築する必要があります。

(2)社内ルールの整備と従業員への周知

フリーランスとの取引に関する社内ルールを整備し、関連する従業員に

対して新法の内容や対応について周知徹底する必要があります。

(3)ハラスメント対策の実施

フリーランスに対するハラスメントを防止するための研修や相談窓口の

設置など、具体的な対策を実施する必要があります。

(4)報酬支払いプロセスの見直し

フリーランスへの報酬支払いが遅延しないように、支払いプロセスを見直

し、必要に応じて改善を行う必要があります。

新法の解釈や具体的な対応について不明な点がある場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。

5.フリーランス側の視点-新法による利点と注意点-

フリーランス新法の施行は、フリーランスとして働く人々にとっても大きな変化をもたらします。

(1)利点

①契約内容の明確化による安心感

発注者から書面で契約内容が明示されることで、業務内容や報酬、支払

い条件などが明確になり、安心して業務に取り組むことができるようになります。

②報酬の遅延に対する保護

報酬の支払いが遅れた場合には、遅延利息を請求できるため、経済的な

不安が軽減されます。

③不当な契約解除からの保護

正当な理由がない限り、一方的に契約を解除されることがなくなるため、安定した業務遂行が可能になります。

④ハラスメントからの保護

発注者からのハラスメント行為が禁止されるため、安心して働くことが

できる環境が整備されます。

(2)注意点

①契約内容の確認の重要性

発注者から提示された契約書の内容をしっかりと確認し、不明な点があれば必ず質問するようにしましょう。

②自身の権利の理解

フリーランス新法によって自身にどのような権利が保障されているのか

を理解しておくことが重要です。

③証拠の保管

契約内容に関する書面や、業務遂行に関する記録などを適切に保管して

おくことが、万が一のトラブル発生時に役立ちます。

6.運輸業界におけるフリーランスの可能性

フリーランス新法の施行は、運輸業界におけるフリーランスの活用をさらに促進する可能性があります。以下の分野での活躍が期待されます。

(1)貨物自動車運転

個人事業主として貨物自動車を運転するフリーランスドライバーは、繁忙

期の人手不足解消や、特定の地域への配送など、柔軟な対応が求められる

場面で重要な役割を果たすでしょう。

(2)軽貨物配送

EC市場の拡大に伴い、ラストワンマイル配送の需要が増加しており、軽貨

物を中心としたフリーランスの配送ドライバーの活躍が期待されます。

(3)倉庫内作業

ピッキングや梱包などの倉庫内作業においても、繁忙期に合わせてフリー

ランスを活用する動きが広がる可能性があります。

(4)事務・管理業務

事務処理やデータ入力、経理などのバックオフィス業務においても、

リモートワークが可能なフリーランスに業務を委託する企業が増える可能性

があります。

ただし、運輸業者側がフリーランスを活用する際には、新法の規定を遵守することはもちろん、フリーランスとの良好なコミュニケーションを築き、互いに協力しながら業務を進めていくことが重要となります。

7.まとめ

フリーランス新法の施行は、運輸業界においても、働き方の多様化を促進し、新たな人材活用や柔軟なリソース運用を可能にする一方で、契約内容の明確化やハラスメント対策など、企業側には新たな対応が求められます。

本稿で解説した内容を踏まえ、貴社においても早めに新法への対応を進め、フリーランスとのより健全な取引関係を構築していくことが、今後の事業成長に繋がるはずです。

運輸業者の皆様において、今後、フリーランスと交わす契約書の内容や取引における具体的な注意点の把握等について、さらに詳しい情報や具体的な対応策についてご関心をお持ちでしたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

貴社の状況に合わせた契約内容や業務フローをご提案させていただきます。フリーランス新法に留意しつつ、運輸業界におけるフリーランスの積極的な

活用を図るべく、社内体制を整備していきましょう。

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Last Updated on 5月 18, 2025 by kigyo-lybralaw

この記事の執筆者
弁護士法人リブラ総合法律事務所

事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。

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