
「うちの施設では虐待なんて起きていない」──そう思っていませんか?
厚生労働省の調査によると、介護施設における高齢者虐待の判断件数は年々増加しており、令和3年度には739件が報告されています。これは前年度から24.2%もの増加です。全国の多くの介護施設が、今まさにこの問題と向き合っています。
虐待問題は、一度発覚すれば施設の存続を揺るがす重大な事態に発展します。行政処分、損害賠償請求、そして何より大切な「地域からの信頼」を失うことになりかねません。
しかし、虐待は「悪い職員がいるから起きる」という単純な問題ではありません。その多くは、職員のストレスや不安、組織体制の問題など、根本的な原因から生じています。
本記事では、大分県で介護施設の法務支援を行うリブラ法律事務所が、高齢者虐待の定義から予防策、万が一発覚した場合の対処法まで、経営者・管理者の視点から詳しく解説します。
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介護施設における高齢者虐待とは?実際に虐待とされた事例とは?
1. 身体拘束は虐待?高齢者虐待の定義と5つの「種類」
高齢者虐待とは、高齢者虐待防止法(正式名称:高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)において定義される、高齢者の権利利益を侵害する行為全般を指します。
重要なのは、「虐待の自覚があるかどうかは問わない」という点です。職員が「良かれと思って」行った行為であっても、利用者の権利を侵害していれば虐待と判断される可能性があります。
① 身体的虐待
殴る、蹴る、つねるなどの暴力行為のほか、やむを得ない場合以外の「身体拘束」も身体的虐待に該当します。
車椅子やベッドへのベルト固定、介護衣(つなぎ服)の着用強制、ミトン型手袋の使用、居室への施錠などは、切迫性・非代替性・一時性の3要件を満たさない限り、違法な身体拘束となります。「転倒防止のため」「人手が足りないから」という理由は、正当化の根拠になりません。
② 介護放棄(ネグレクト)
必要な介護を意図的に、または結果的に怠ることを指します。入浴や排泄介助の放置、十分な食事・水分を提供しないこと、必要な医療サービスを受けさせないことなどが該当します。ナースコールを届かない場所に置く、長時間放置するといった行為も、ネグレクトとみなされる可能性があります。
③ 心理的虐待
怒鳴る、罵る、無視する、侮辱的な態度をとるなど、精神的に苦痛を与える行為です。「ちょっと待って」「だめでしょ」といった何気ない言葉による行動制限──いわゆる「スピーチロック」も、心理的虐待の一種として問題視されています。
排泄の失敗を笑う、子ども扱いする、他の利用者の前で叱責するといった行為は、利用者の尊厳を深く傷つけます。
④ 性的虐待
本人の同意のない性的な行為やその強要、性的羞恥心を与える行為を指します。排泄介助時の不必要な露出、卑猥な言動なども含まれます。
⑤ 経済的虐待
本人の同意なく財産を使用したり、金銭の使用を不当に制限する行為です。施設で預かっている金銭の着服、必要な日用品を購入させないなどが該当します。
これら5つの虐待類型は、単独で発生することもあれば、複合的に起こることもあります。特に、身体的虐待と心理的虐待は同時に発生するケースが多く、厚生労働省の調査でも被虐待高齢者の51.5%が身体的虐待、38.1%が心理的虐待を受けていたと報告されています。
2. 大分県の老人ホーム・介護施設における虐待の実態
全国的な統計を見ると、介護施設従事者による虐待は確実に増加傾向にあります。令和3年度の虐待判断件数739件のうち、施設種別では特別養護老人ホームが228件(30.9%)と最多で、有料老人ホーム218件(29.5%)、グループホーム100件(13.5%)と続いています。
大分県においても、この全国的な傾向と同様の状況が見られます。高齢化が進む地方都市では、介護人材の確保が困難であり、慢性的な人手不足が虐待リスクを高める要因となっています。
注目すべきは、虐待を受けた高齢者の72.9%が要介護度3以上、76.4%が認知症日常生活自立度Ⅱ以上という点です。つまり、介護負担が大きく、意思疎通が困難な利用者ほど、虐待被害に遭いやすいという実態があります。
「うちは大丈夫」と考えている施設ほど、リスクに気づかないまま問題が深刻化するケースが少なくありません。虐待は、いつ、どの施設でも起こりうる問題として、経営者・管理者は常に意識しておく必要があります。
3. なぜ虐待は起きる?職員の「不安」やストレスなどの原因
「虐待をする職員はモラルに問題がある」──そう断じてしまうのは簡単です。しかし、厚生労働省の調査結果は、まったく異なる実態を示しています。
原因① 教育・知識・介護技術の問題(56.2%)
虐待発生要因の半数以上を占めるのが、この項目です。認知症の症状への理解不足、適切な介助技術の未習得、虐待の定義そのものを知らないといった問題が、意図せず虐待につながっています。
無資格・未経験で介護現場に入った職員が、十分な研修を受けないまま対応に追われるケースは珍しくありません。「なぜ利用者がそのような行動をとるのか」を理解できないまま、苛立ちや困惑が虐待行為に発展することがあります。
原因② 職員のストレス・感情コントロールの問題(22.9%)
介護職は、身体的にも精神的にも負担の大きい仕事です。認知症の利用者から暴言を浴びせられたり、暴力を受けたりすることも日常的にあります。そうしたストレスを抱え込み、誰にも相談できないまま限界を迎えてしまう職員がいます。
特に夜勤帯は、少人数で多くの利用者に対応しなければならず、心身の疲労が蓄積しやすい状況です。そうした中で、些細なことがきっかけとなり、感情が爆発してしまうことがあります。
原因③ 組織風土・管理体制の問題(21.5%)
「問題を報告しても取り合ってもらえない」「ミスを報告すると叱責される」──そのような組織風土は、虐待を助長します。職員が声を上げにくい環境では、小さな問題が放置され、深刻化していきます。
過去に虐待が発覚した際に隠蔽を試みた施設では、「報告しても意味がない」という空気が蔓延し、再発リスクが著しく高まります。
原因④ 人員不足・過重労働
慢性的な人手不足は、すべての問題の根底にあります。人員基準をかろうじて満たす程度の配置では、一人ひとりの利用者に丁寧に向き合う余裕がありません。「効率化」の名のもとに、身体拘束が常態化するケースもあります。
4. 虐待が発覚した際の具体的な対処方法
虐待が発覚した場合、初動対応が極めて重要です。対応を誤れば、問題がさらに拡大し、取り返しのつかない事態に発展する可能性があります。
最も重要なこと:隠蔽は絶対にしない
まず強調しておきたいのは、虐待の隠蔽は絶対に行ってはならないということです。「事を荒立てたくない」「評判に傷がつく」という思いから、問題を内々に処理しようとする施設がありますが、これは最悪の選択です。
隠蔽が発覚した場合、行政処分は格段に重くなり、施設の社会的信用は完全に失墜します。何より、隠蔽体質は虐待の再発を招き、被害者を増やすことになります。
ステップ1:利用者の安全確保と状況確認
虐待を認知したら、まず利用者の安全を最優先に確保します。身体的虐待の場合は、怪我の有無を確認し、必要に応じて医療機関を受診させます。加害が疑われる職員を、当該利用者の担当から即座に外すことも必要です。
ステップ2:事実関係の調査
関係職員への聞き取り、防犯カメラ映像の確認、利用者本人への聴取などを通じて、事実関係を明らかにします。聞き取りの際は、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」を明確にし、必ず記録を残します。
加害が疑われる職員への聴取は、客観的証拠を固めた後に行うのが原則です。先に本人に確認すると、口裏合わせや証拠隠滅のおそれがあります。
ステップ3:ご家族への報告
調査がある程度進んだ段階で、ご家族に報告します。行政や警察への通報より先に、ご家族への報告を行うことが重要です。報道などで先に知ることになれば、施設への不信感は決定的なものになります。
ステップ4:市町村への通報
高齢者虐待防止法により、養介護施設従事者は、虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合、速やかに市町村に通報する義務があります。通報後は、行政の指示に従い、必要な調査に協力します。
ステップ5:再発防止策の策定と実施
事実確認と原因分析を踏まえ、具体的な再発防止策を策定します。単に「研修を行う」といった抽象的なものではなく、「何が原因で」「どのような対策を」「いつまでに」「誰が責任者として」実施するのかを明確にした計画が必要です。
5. 組織として高齢者虐待を予防するために
虐待は、発生してから対応するのでは遅すぎます。予防体制を整えている施設とそうでない施設では、リスクの大きさが根本的に異なります。
予防策① 職員のストレスケア体制の構築
虐待の根本原因であるストレスへの対処は、最優先課題です。定期的な個人面談の実施、相談窓口の設置、メンタルヘルス研修の実施など、職員が悩みを抱え込まない仕組みを作ります。
利用者やその家族からのハラスメントがある場合は、施設として毅然と対応し、職員を守る姿勢を示すことも重要です。「施設は自分たちを守ってくれる」という安心感が、職員の心理的安定につながります。
予防策② 継続的な教育・研修の実施
虐待の定義、認知症への理解、適切な介護技術など、知識・技術面の教育を継続的に行います。一度研修を実施すれば終わりではなく、繰り返し学ぶことで意識が定着します。
研修では、「自分がされたらどう感じるか」という視点を大切にし、職員同士で意見を交わす機会を設けることが効果的です。
予防策③ 風通しの良い組織風土づくり
「おかしいと思ったことを言える」環境を作ることが、虐待の早期発見・防止につながります。内部通報窓口の設置、定期的なミーティングでの情報共有、管理者による現場巡回などを通じて、問題が隠れにくい組織を目指します。
報告や相談をした職員が不利益を被らないよう、明確なルールを定めておくことも重要です。
予防策④ 適切な人員配置と労働環境の改善
慢性的な人手不足を解消することは容易ではありませんが、可能な限りの改善努力は必要です。夜勤体制の見直し、業務の効率化、ICT機器の導入などを検討します。
職員が心身ともに健康で働ける環境を整えることは、サービスの質向上と虐待予防の両面で効果があります。
6. 虐待トラブルの解決・予防でリブラ法律事務所ができること
高齢者虐待は、発覚から対応までのスピードが極めて重要です。対応が遅れれば遅れるほど、問題は複雑化し、解決コストは膨らんでいきます。
大分県大分市のリブラ法律事務所では、介護施設の虐待問題に関する以下のサポートを提供しています。
① 虐待発生時の緊急対応
虐待が発覚した直後から、初動対応についてアドバイスを行います。利用者・ご家族への対応、行政への報告、職員への対応など、複雑な調整が必要な場面で、法的な観点から的確なサポートを提供します。
当日・翌日の相談対応も可能ですので、緊急時にはすぐにご連絡ください。
② 行政対応のサポート
市町村への通報後の対応、運営指導(実地指導)や監査への対応をサポートします。行政からの指摘に対して、どのように改善報告を行うべきか、処分を軽減するためにどのような対応が有効かなど、経験に基づいたアドバイスを行います。
③ 虐待防止研修の実施
職員向けの虐待防止研修を、弁護士が講師として実施します。虐待の定義、法的責任、具体的な事例など、法律の専門家ならではの視点から解説することで、職員の意識向上を図ります。
④ 予防体制の整備支援
虐待防止マニュアルの作成、内部通報制度の設計、就業規則の整備など、組織体制の構築をサポートします。問題が起きてから対応するのではなく、問題を未然に防ぐ体制づくりをお手伝いします。
7. まとめ
高齢者虐待は、決して「他人事」ではありません。どの施設でも、いつ起きてもおかしくない問題です。
しかし、適切な予防体制を整え、職員のストレスケアに取り組み、風通しの良い組織風土を築くことで、リスクを大幅に低減することができます。そして万が一問題が発生した場合も、迅速かつ適切に対応することで、被害の拡大を防ぎ、組織の信頼を守ることができます。
「虐待が起きたらどうしよう」と不安を抱えている経営者・管理者の方は、問題が起きる前に、ぜひ一度ご相談ください。予防から対応まで、リブラ法律事務所が一貫してサポートいたします。
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Last Updated on 1月 29, 2026 by kigyo-lybralaw
事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。 |



