
1. 介護の現場ではどのくらいの職員がセクハラ被害を経験している?
「入浴介助のとき、利用者さんに胸を触られた」「訪問先で性的な冗談を繰り返される」
そうした被害を受けても、「仕事だから我慢するしかない」と考えている介護職員の方は、決して少なくありません。
そして、現場の職員が声を上げられない以上に深刻なのが、経営者側がこの問題の重大さに気づいていないケースです。介護現場のセクハラは、放置すれば職員の離職、採用難、そして事業所の存続そのものを揺るがす経営リスクです。
厚労省調査が示す衝撃の数字——セクハラ経験率は全サービスで30%超
厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(令和4年3月改訂)によると、介護現場におけるハラスメントの実態は次のとおりです。
・利用者からのハラスメントを受けた経験のある職員:サービス種別により4割~7割
・直近1年間に被害を受けた職員:高いサービスで約6割、低いサービスでも約2割
・セクハラに限定:訪問看護・訪問リハ・通所介護等で40%以上が経験
・全サービス種別でセクハラ経験率は30%を下回らない
出典)厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(令和4年3月改訂)p.61
つまり、介護現場で働く職員の約3人に1人が、利用者からのセクハラを経験しています。もしあなたの事業所に職員が15名いれば、そのうち5名はセクハラ被害を経験している計算です。この数字は、もはや「個人の問題」ではなく、組織として向き合うべき経営課題です。
また、令和4年度の調査では、訪問介護事業所の28.4%がセクハラ事案の発生を報告しています。特に、利用者と1対1になる訪問系サービスでは、被害のリスクが高まる傾向があります。
なぜ介護現場ではセクハラが起きやすいのか?
介護現場でセクハラが発生しやすい背景には、構造的な要因があります。
【介護現場でセクハラが起きやすい3つの構造的要因】
① 業務の性質:入浴介助・排泄介助・着替えなど、身体的な接触が不可避
② 環境的要因:利用者の居室や自宅といった閉鎖的空間での1対1の状況
③ 意識の問題:「利用者さん相手だから仕方ない」という誤った識の根強さ
ここで明確にしておきたいのは、セクハラは「仕事の一部」ではないということです。内容によっては強制わいせつ罪などの犯罪にも該当しうる、決して許されない行為です。そして、それを放置した事業者もまた、法的責任を問われる可能性があるのです。
なお、認知症等の症状として現われた言動(BPSD)は、ハラスメントとは区別して考える必要があります。ただし、BPSDによる行為であっても、職員の安全に配慮する義務は変わりません。主治医やケアマネジャーと連携し、「ハラスメントなのかBPSDなのか」を適切に判断することが重要です。この判断に迷う場合も、弁護士に相談することで法的な觀点から整理できます。
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2. 利用者からのセクハラに対して事業者が負う法的義務とは
「利用者からのセクハラは、職員個人の問題でしょ?」——もしそうお考えであれば、その認識は今すぐ改める必要があります。法律上、事業者には職員をセクハラから守る明確な義務が課されているからです。
【安全配慮義務】労働契約法第5条と労働安全衛生法第3条
労働契約法第5条では、使用者は労働者の「生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。これがいわゆる「安全配慮義務」です。利用者からのセクハラを知りながら放置することは、この義務に明確に違反します。
【要注意】
安全配慮義務を怊った場合のリスク
① 被害職員から事業者への損害賠償請求(過去の判例では30万円以上の賠償認容も)
② 職員の離職・採用難による人手不足の深刻化
③ 行政監査での指摘・指導
④ 地域での信用低下・新規利用者の減少
さらに、令和3年度の介護報酬改定により、全ての介護事業者にハラスメント防止のための必要な措置の実施が義務化されました。カスタマーハラスメント防止についても、必要な措置を講じることが推奨されています。「知らなかった」「対策が間に合わなかった」では済まされない時代です。
セクハラが犯罪に該当するケース
利用者によるセクハラ行為の中には、強制わいせつ罪(刑法176条)に該当する可能性のあるものもあります。たとえば、職員の身体を直接触る行為や、繰り返し性的な行為を迫るケースは、刑事事件として扱われる可能性があります。
「相手はお年寄りだから」と泣き寝入りする必要はありません。職員の尊厳を守るためにも、そして事業所を守るためにも、毅然とした対応が求められます。
3. 利用者やその家族を訴えることはできる?
「利用者相手に訴えるなんてできるの?」という疑問をお持ちの経営者様も多いでしょう。結論から言えば、訴えることは可能です。民事・刑事の両面から対応できる選択肢があります。
民事上の損害賠償請求は利用者本人にも、家族にも請求可能
セクハラ行為は、民法709条の不法行為に基づき、利用者本人に対して損害賠償を請求できます。被害を受けた職員個人が請求することも、事業所が業務妨害を理由に請求することも可能です。
「でも、利用者は認知症だから責任能力がないのでは?」という疑問もあるでしょう。その場合でも、民法714条に基づき、監督義務者(多くの場合は家族)に対して損害賠償を請求できる可能性があります。実際に、介護施設における利用者のハラスメント行為に対して、30万円以上の損害賠償が認められた判例も存在します。
ただし、監督義務を怊っていたことの立証が必要となるため、実務上は弁護士への相談が不可欠です。早い段階で専門家に相談することが、有利な結果につながります。
刑事告訴・告発という選択肢
セクハラ行為が強制わいせつ罪や暴行罪に該当する場合、被害を受けた職員からの刑事告訴が可能です。また、業務妨害に該当する場合は、事業所(法人)からの刑事告発も可能です。
【最重要】
証拠確保のポイント セクハラの被害を訴えるためには、証拠が不可欠です。
① 日時・場所・行為者・具体的行為の内容を詳細に記録
② 「不適切な言動があった」のような曖昧な記載では不十分
③ 目撃者の証言も同時に記録
④ 可能であれば被害状況の写真も保全 → 「いつ・どこで・誰が・何をしたか」を5W1Hで具体的に
サービス提供拒否(契約解除)という対応
民事・刑事の訴え以外にも、サービス提供の拒否(契約解除)という選択肢があります。介護保険法上、事業者は正当な理由なくサービス提供を拒否できませんが、セクハラが繰り返され、改善の見込みがない場合には「正当な理由」として契約解除が認められる可能性があります。
契約解除の際には、ケアマネジャーや地域包括支援センターと連携して、代替のサービスを確保する必要があります。ここで特に注意が必要なのが、セクハラ情報を後任の事業所に伝える際の個人情報保護の問題です。
利用者の同意を得ずにセクハラ情報を提供すると、個人情報保護法違反を主張され、逆にクレームに発展するリスクがあります。一方で、情報を伝えなければ後任事業所の職員が同様の被害に遍うおそれもあります。この「伝えるべきか、伝えないべきか」という判断こそ、弁護士に相談すべき典型的な場面です。
4. 利用者からのセクハラやカスハラを防止するためには?
セクハラやカスハラは、発生後の対応よりも、未然に防ぐための体制づくりが最も重要です。事前の備えがあるかどうかで、実際に問題が起きたときの対応スピードと結果が大きく変わります。
組織としての基本方針の策定と周知
まず、「ハラスメントは許さない」という明確な方針を事業所として打ち出すことが出発点です。これは職員への周知だけでなく、利用者やその家族にも契約時に明確に伝えることが重要です。具体的には、重要事項説明書にハラスメント禁止の規定と契約解除の条件を明記しましょう。
事前に「ハラスメント行為があった場合、契約を解除する場合がある」と伝えておくだけでも、大きな抑止効果が期待できます。何より、万が一問題が発生したときに、「契約書に書いてないから契約解除できない」という事態を防ぐことができます。
マニュアル整備と職員研修の実施
ハラスメントが発生した際の報告・対応フローをマニュアル化しておくことで、実際に事案が発生した際に迅速かつ適切に対応できます。
特に重要なのが記録の書き方です。たとえば、「利用者から不適切な言動があった」という記載では、後から事実を確認することができません。「‥‥年‥月‥日‥時、‥‥様居室にて、入浴介助中に‥‥様が職員の胸を触る」というように、「いつ・どこで・誰が・何をしたか」を具体的に記載するよう職員に役後させましょう。
現場での具体的な予防策
【現場ですぐ実践できるセクハラ予防策】
① 複数人対応の役後(訪問介護では2人訪問加算の活用も検討)
② ハイリスク利用者の情報共有と担当職員の配置調整
③ 担当職員の定期的なローテーション
④ 相談窓口の設置と職員のメンタルケア体制の整備
特に、職員が一人で抱え込まない体制をつくることが重要です。被害を報告した職員が不利益を受けないことを明確にし、「声を上げても大丈夫」という安心感を職員に伝えましょう。
5. 介護事業所に顧問弁護士を置くことのメリットとは?
ここまで見てきたように、利用者からのセクハラ・カスハラ問題は、法的な判断が求められる場面の連続です。「犯罪に当たるか」「契約解除できるか」「個人情報を伝えてよいか」これらの判断を誤れば、事業所自体が訴えられる側になりかねません。
トラブル発生時にすぐ相談できる安心感
セクハラが発生したとき、電話一本ですぐに弁護士に確認できる体制ことが顧問弁護士の最大のメリットです。ハラスメントは初期対応が極めて重要であり、対応が遅れれば遅れるほど、問題は深刻化します。「明日考えよう」が味方であったケースはまずありません。
契約書・重要事項説明書のリーガルチェック
契約解除条項が適切に整備されていないために、セクハラが繰り返されても契約解除できない——そんなケースは実際に存在します。顧問弁護士によるリーガルチェックで、いざというときに機能する契約書を整備しておきましょう。
職員の離職防止と経営の安定化
セクハラを放置すると、職場環境が悪化し、職員の離職につながります。介護業界は有効求人倍率が他業界より高く、一度職員が離れると採用は容易ではありません。「何かあっても事業所が守ってくれる」という顧問弁護士の存在が生み出すこの安心感は、職員の定着率向上に直結します。
行政対応・監査への備え
介護事業所では定期的な行政監査が行われます。ハラスメント対策の整備状況は監査のチェック項目にも含まれており、顧問弁護士と連携してコンプライアンス体制を強化しておくことで、監査にも自信を持って臨むことができます。
6. 施設でのセクハラ・カスハラでお悩みの経営者様はリブラ法律事務所へ
利用者からのセクハラ・カスハラは、放置すれば職員の離職→サービスの質の低下→新規利用者の減少という「負のスパイラル」に陥ります。「うちの施設は大丈夫」と思っていても、問題は突然表面化します。
そのとき、すぐに相談できる弁護士がいるかどうかが、事業所の命運を分けます。
リブラ法律事務所が選ばれる3つの理由
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「こんなことで相談してもいいのかな」という小さなお悩みでも構いません。問題が小さいうちに専門家に相談することが、最も効果的なリスク管理です。まずはお気軽にお問い合わせください。
【巻末】セクハラ・カスハラ防止チェックリスト
下記のチェックリストを印刷して、事業所内でご活用ください。全項目にチェックが入ることを目指しましょう。
※チェックリストのURLはこちら

Last Updated on 3月 24, 2026 by kigyo-lybralaw
事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。 |




