介護施設では介護事故を起こしたくないという動機で、被介護者を身体拘束することがあります。ただ、基本的にはご法度です。以下をご確認ください。
身体拘束とは?
身体拘束とは、介護施設で、被介護者を、ひもや抑制帯、ミトンなどの道具を利用して、ベッドや車椅子などに縛り、あるいは、部屋からでられないように閉じ込めてしまうなど、利用者の自由を抑制する行為です。身体拘束は、「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」第11条4項以下で、以下のように規定されています。つまり、原則禁止です。
指定介護福祉施設サービスの取扱方針より
第11条
4 指定介護老人福祉施設は、指定介護福祉施設サービスの提供に当たっては、当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という。)を行ってはならない。
5 指定介護老人福祉施設は、前項の身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。
6 指定介護老人福祉施設は、身体的拘束等の適正化を図るため、次に掲げる措置を講じなければならない。
一 身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を三月に一回以上開催するとともに、その結果について、介護職員その他の従業者に周知徹底を図ること。
二 身体的拘束等の適正化のための指針を整備すること。
三 介護職員その他の従業者に対し、身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること。
7 指定介護老人福祉施設は、自らその提供する指定介護福祉施設サービスの質の評価を行い、常にその改善を図らなければならない。
また、身体拘束の種類については「身体拘束ゼロへの手引き」(厚生労働省)で、以下の11項目を例示しています。
① 徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
② 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
③ 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
④ 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
⑤ 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
⑥ 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、 Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。
⑦ 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。
⑧ 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
⑨ 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
⑩ 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
⑪ 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。
身体拘束の実情は?実際はどうなのか?
身体拘束に関する統計としては、やや古い資料ですが、特定非営利活動法人全国抑制廃止研究会が、全国の介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、医療療養病床、認知症グループホーム(認知症対応型共同生活介護事業所)、介護付き有料老人ホーム及びサービス付き高齢者向け住宅を対象に、平成27年に実施した介護保険関連施設等の身体拘束廃止の追跡調査及び身体拘束廃止の取組や意識等に関する調査研究があります。(介護保険関連施設等の身体拘束廃止の追跡調査及び身体拘束廃止の取組や意識等に関する調査研究事業報告書より)
これは厚生労働省の平成26年度老人保健健康増進等事業の中で実施され、平成27年1月23日から同年2月13日までの間で(同年2月28日までに返送された結果による)、合計で9225施設が回答をしています。
この中で、「本日身体拘束を受けている人数」の質問に対しては、特養では27.6%、 老健では34.2%、介護療養型では69.1%、医療療養型病床では84.3%、GHでは12.7%、 介護付有料老人ホームでは30.2%、サービス付き高齢者住宅では9.8%の施設で何らかの身体拘束が存在していると回答されています。言い換えると、特養では1/4の施設に、 老健では1/3の施設に身体拘束が存在し、医療系の介護療養型では7割、 医療療養では8割を超える施設に身体拘束が存在していることになります。
上記調査結果はやや古いものですし、身体拘束が無制約にできることでないことは、上記各施設でも理解が進んでいるものと存じます。ですが、介護の現場では身体拘束が有用であるとの認識があることは現在でも否めないと存じます。
身体拘束が許される場合とは?
上記のとおり、介護施設における身体拘束は「当該入所者(利用者)又は他の入所者(利用者)等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合」のみです。
ここで「緊急やむをえない場合」だったか否かは「切迫性」「非代替性」「一時性」の3つの要件を満たし、かつ、3つの要件の確認等の手続を慎重に実施されているケースに限られます。以下、要件をみていきます。
「切迫性」
利用者本人又は他の利用者等の生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと。つまり、介護施設が被介護者を身体拘束することにより、本人の日常生活等に与える悪影響を勘案し、それでもなお身体拘束を行うことが必要となる程度まで、被拘束者本人等の生命又は身体が危険にさらされる可能性が高いことを確認する。
「非代替性」
身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと。
施設としては、被介護者の身体拘束を行わずに介護できる方法を検討し、被介護者本人等の生命又は身体を保護するという観点から他に代替手法が存在しないことを組織的に確認する必要があります。拘束の方法自体も、本人の状態等に応じてより制限的でない方法による必要があります。
「一時性」
身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること。この場合、本人の状態像等に応じて必要とされる最も短い拘束時間を想定する必要があります。
身体拘束をする場合の手続
上記3つの要件を満たす場合にも、以下の点に配慮すべきです。
・「緊急やむを得ない場合」に該当するかどうかの判断は、施設として判断するように、ルールや手続を定める。
・利用者本人や家族に対して、身体拘束の内容、目的、理由、拘束の時間、時間帯、期間等を説明し、十分な理解を得るよう努める。
・身体拘束を行った場合でも、「緊急やむを得ない場合」に該当するかどうかを観察、再検討し、要件に該当しなくなった場合には直ちに解除する。
また、上記のとおり、被拘束者を緊急やむを得ず身体拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況、緊急やむを得なかった理由を記録しなければなりません。施設が記録をする際には、日々の心身の状態等の観察、拘束の必要性や方法に係る再検討を行うごとに記入するとともに、係る情報を開示し、職員や家族等関係者の間で共有すべきといえます。
なお、係る記録は、施設において保存し、行政担当部局の指導監査が行われる際に提示できるようにしておく必要があります。
身体拘束と介護事故の関係性
身体拘束をなす施設側の理由として、被拘束者に事故が発生することを防止する意図があると言えます。もっとも、介護現場では、基本的に、身体拘束で事故防止を図るのではなく、サービス提供過程で事故発生の防止対策を尽くすべきである、との考え方が採用されています。介護施設は、身体拘束以外の事故発生防止のための対策を尽くす必要があります。
むしろ、身体拘束によって利用者に精神的苦痛を与えたり、身体機能を低下させ、その結果転倒・転落等の事故などを招いたりした場合には、身体拘束を原因として損害賠償請求をされることがあります。施設内で、身体拘束をする場合を共有する必要があります。
身体拘束に関する記事のまとめ
身体拘束や介護事故に関連する問題に直面した際には、法的専門知識を持つ弁護士にご相談ください。
弁護士は、身体拘束や介護事故に関連する問題やトラブルが発生した場合、以下のようなサポートを提供できます。
法的アドバイス
介護事故予防の観点から助言可能です
事故時の対応
不幸にも、施設内で介護事故が生じた場合に、施設の代理人として交渉をする事も可能です。
Last Updated on 3月 6, 2024 by kigyo-lybralaw
この記事の執筆者 事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。 |