業務命令違反への対応・解雇とは?大分の弁護士が解説!

0.はじめに

社長は、会社の指示に従わない従業員を放置することができません。他の従業員に示しがつかないからです。社長は、社内の規律を維持するため、業務命令に従わない従業員を解雇し、あるいは懲戒処分(懲戒解雇を含む)をなすことも検討すべきでしょう。ところが、裁判実務上、業務命令に違反したことを理由とする解雇や懲戒処分が無効とされることがあります。もしそうなった場合、会社はその従業員を辞めさせられないばかりか、仕事もしていないのに高額の金銭支払いを余儀なくされることもあります。つまり、会社は、ある従業員が業務命令に従わないからといって、簡単に辞めさせることができません。裁判所でも正当とされる手順で対応しなければ ならないのです

1.業務命令違反とは

従業員が、会社の社長や上司の指示に、正当な理由なく従わない場合、業務命令違反となります。会社の就業規則では、業務命令違反が解雇事由とされていることが通常です。もっとも、上記のとおり、業務命令があったからといって直ちに解雇や懲戒処分をなすことはできません。労働契約法上、解雇には合理的な理由の存在が不可欠だからです。この「合理的な理由」があったかを考慮するにあたり、下記の点に注意して欲しいのです。

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2.業務命令違反で解雇する場合の注意点

(1)業務命令を出したという証拠があるか

私が会社から相談を受けるとき、もっとも欠けているのがこの点です。社長や上司は、その従業員に対して口頭で業務命令を出したというのですが、従業員は、意図的か記憶がないのかはともかく、業務命令を受けていない、と主張することが多いです。その場合、会社側が「業務命令を出した」ことを示す証拠を提出しなければなりませんが、大抵は出せません。そうなると、解雇や懲戒処分の根拠が1つ欠けることとなります。証拠は、書面で提出できるのが確実です。このため、業務命令は書面で発しましょう。音声でもよいのですが、口頭で命令を出す際に口論となることがままあり、業務命令を出したといえるか微妙な状態になります。

(2)業務命令を拒否することには理由があるのではないか

従業員が、業務命令を拒否することに正当な理由がある場合、業務命令違反を理由とした解雇や懲戒処分は不可です。どのような場合に業務命令拒否が正当と判断されるかですが、一般的には会社側に下記事由があれば業務命令拒否が正当と認められることが多いです。

・ある従業員のハラスメントによって業務に支障が生じているのに、適切な対応をせぬまま、業務を命じた場合

・妊娠中の女性従業員や、育児中の従業員等に対して、法律上、配慮が義務付けられている場面であるのに、必要な配慮をしないまま業務を命じた場合

・会社が、従業員に対して時間外賃金を支払わないのに、その従業員が残業しなければできない業務を命じた場合

裁判となったときに、従業員側から思わぬ反論が考えられないか、解雇や懲戒処分の前に、一度振り返ってください。

(3)業務命令の意味を十分説明し、理解を求めたか

従業員は、社長や上司の言葉を、そもそも業務命令と受け止めていない可能性があります。社長や上司の言葉使いが普段どおりであるとか、今、業務命令を発する理由を伝えていない場合、従業員は、業務命令と受け止めていない可能性があります(業務命令を書面で発すべき理由は、従業員に「今までの対応とは違う」ことを自覚してもらうためでもあります)。つまり、その従業員が「従わなければならないもの」と意識していないということです。これでは、従業員をして「命令に違反した」という意識を持たせることが難しく、業務改善を意識しないことに無理がない、ということになります(解雇は無効と判断されがち)。このため、従業員に対しては、業務命令の意味を、理解してもらえるように説明する必要があります。

(4)業務命令の内容や発し方は正当か

会社の業務命令の内容が不合理であるとか、その発し方が不合理であれば、正当な業務命令を発したとは評価されず、係る命令に違反しても、解雇や懲戒処分をなすことは難しいでしょう。

(5)いきなり解雇や懲戒処分をしていないか

裁判では、その従業員が正当な理由なく業務命令に従わなかったとしても、段階を踏んで懲戒処分をすることなくいきなり解雇や懲戒処分をした場合は、係る解雇や懲戒処分が違法となることが多いです。裁判所の見方は、従業員にも業務改善のチャンスをあげるべき、というものです。

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3.業務命令違反があった場合の正しい対処法

上記のとおり、業務命令に従わない従業員をいきなり解雇するのは難しいです。このため、まずは、社長や上司による注意⇒指導を経て、それでも業務命令に従わない場合は懲戒処分、となります。サッカーに倣えば、イエローカードが溜まったら解雇、という感覚です(レッドカードは相当悪質な反則に限られています)。ここで、注意や指導の方法について、下記に留意してください。

(1)会社では、通常、注意⇒指導が「始末書」という形でなされます。

私は、始末書の内容についてよく質問を受けます。決まった体裁はないのですが、大事なのは、①その業務命令が何故必要だったのか、②その従業員が業務命令に従わなかったのは何故か、③その従業員が業務命令に従わないことで会社の業務はどうなったのか、④その従業員は、今後、その業務命令に従うのかを、自分の言葉で書かせることです。裁判所でよくある光景は、会社が定型書式を準備し、項目をチェックする方式にしてある始末書を見せられることがあるのですが、これでは、従業員側から“ここにチェックするように言われた”とか“意味が分からなかったが質問できる雰囲気ではなかった”という反論を許すことになります。その場合、裁判所は“会社が業務命令の必要性をきちんと説明していない”と判断しがちです。 できれば、社長や上司の「注意・指導」も始末書に掲載するようにして下さい。そうすれば、その場で業務上の協議がなされたことが客観的に示せるからです。

(2)実際に懲戒処分をする際の注意点

就業規則には、会社が従業員に懲戒処分を科す場合の手続が定められていることがあります。その場合は、必ず、その手続を履んで懲戒処分をして下さい。裁判所は手続違反には厳しく対応します(懲戒処分が無効)。 就業規則に、懲戒処分の手続に関する規定がない場合でも、懲戒処分前に、その従業員から意見を聞く場を設けてください。ここで「場を設ける」としたのは、従業員がその場で意見を述べた場合は勿論、従業員がその場で特に弁明しなかった・その場に来なかった場合でも、弁明の機会を付与したということで、懲戒処分をなすことが正当化されることを知って欲しいからです。従業員が弁明の場に来なければ懲戒処分ができない、という誤解が生じ得ますが、そんなことはありません。また、懲戒処分を科す際には、過去の事例を参考にする等して、重すぎないようにすることが大事です。重すぎると、従業員から思わぬ反発を招くからです。なお、懲戒処分をした際は、書面で、本人に通知して下さい。

(3)本当のことをいえば、解雇はできるだけ避けた方がよい

従業員が、とことん社長や上司の会社の合理的な業務命令に従わない場合、会社としては、手順を踏んで、その従業員を解雇することは不可能ではありません。ですが、私の経験上、トラブルを長引かせないためには、解雇は最後の手段ととらえ、“自分から退職しないか(自分から退職をしないなら解雇しますよ)”という退職勧奨をして、会社と従業員の合意により自主退職してもらう、という流れをおすすめします。会社と従業員との間で解雇を巡る裁判が長く続くことは得策と言えません。

4.まとめ

いかがでしょうか。業務命令に従わない従業員であっても、その対応は慎重になすべきことをお伝えいたしました。もっとも、会社によっては、そのような従業員への対応に慣れていない、ということもあろうかと存じます。リブラ法律事務所では、業務命令に従わない従業員も含めた問題社員への対応についてサポートをいたします。サポートの仕方としては、従業員の個別の問題について、その都度ご相談をいただくことも可能ですが、私は、会社と顧問契約を締結して、個別の問題のみならず継続的に会社と弁護士が関わっていくことをお薦めします。と申しますのも、例えば、業務命令に従わない従業員への個別対応の過程で、就業規則に不備がみられる、そもそも36協定がないから残業をさせられない、等という、個別対応以外にも会社として対応すべき点が色々と出てきたときに、スポットで相談をしづらくなってくるからです。ましてや、会社で生じた問題毎に相談する弁護士が違う、ということになると、話の通りがよくないからです。

リブラ法律事務所と顧問契約を結んだ場合は、例えば

・実際に従業員に対応していく過程で生じた疑問点を、その都度、電話、メール、ウェブ会議で弁護士に相談できる

・始末書の内容、業務命令の出し方、懲戒処分の手順・内容についていつでも弁護士に電話、メール、ウェブ会議で相談できる

・就業規則等社内規則の内容が法律に適合しているか、あるいは法改正に対応しているかについて、いつでも弁護士に電話、メール、ウェブ会議で相談できる

というサービスを受けられます。会社にとって問題である従業員の指導には継続的な取り組みが必要です。会社が、特定の弁護士にいつでも相談できる体制を作ると、その弁護士も会社の社風や実情を深く理解でき、より正しい対応を選択できます。是非、顧問契約の締結をご検討ください。

Last Updated on 8月 13, 2024 by kigyo-lybralaw

この記事の執筆者
弁護士法人リブラ総合法律事務所

事務所に所属する弁護士は、地元大分県で豊富な経験で様々な案件に取り組んでいたプロフェッショナルです。ノウハウを最大限に活かし、地域の企業から、起業・会社設立段階でのスタートアップ企業、中堅企業まであらゆる方に対して、総合的なコンサルティングサービスを提供致します。弁護士は敷居が高い、と思われがちですが、決してそのようなことはありません。私たちは常に「人間同士のつながり」を大切に、仕事をさせて頂きます。個人の方もお気軽にご相談下さい。

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